イタリア人よりサボっている?

ゴールデンウィーク明けということから、テンションが上がらない方も多いのではないでしょうか。7月の海の日まで、まるまる2カ月以上も祝日がないのだという現実を知ると、さらにテンションが下がります。しかし、祝日だけ見れば、年間15日あり、働き者のイメージがないイタリアの12日を上回っている…と比較したからと慰めにもなりませんね。

もっともテンションを左右するのは休日よりも、仕事の内容や職場の仲間によるところが大きいのではないでしょうか。そして世の中には「テンションを下げさせる天才」という、存在そのものが「0.2」な人がいます。連休明けの今回は、それが「社長」を務める会社の話しです。我が身と比較して…ウチもそうだって? それはもうご愁傷様と手を合わせます。

ハイテンション社長

テンションを下げる天才のA社長は携帯電話販売店を、十数店舗経営しています。かつての勢いはないとはいえ、次々と登場する新端末、新サービスがお客の需要を喚起してくれることから、一定規模以上の企業はそれなりに安定した経営をしています。加えて、水準に達しなかった同業者から店舗を買取ったこともあり、この数年で見かけ上の業績は右肩上がりで、外形的にみれば優秀な経営者です。それではA社長の天才ぶりをみていきます。

買収した店舗のすぐ近くに、より良い条件のテナント物件が見つかり移転を決定します。移転にあたるすべての陣頭指揮をとるとA社長は自ら宣言すると、手始めに「看板」にとりかかります。取引のあるデザイン事務所に、ざっくりとしたイメージを伝え2~3案を提出させ、その内のひとつをもとに細かな指示を出します。新しい店舗ではPHSを扱わず、スマホのアクセサリー類を充実させるので、そちらにアイコンを差し替えるといったものです。また現在の店舗写真に、デザインを当て込んだ合成写真で、壁の色も変えるようにリクエストします。

ナチュラル上から目線

看板は指示通り変更し、壁はあくまで雰囲気だけだと断った上で再提出するとA社長がキレます。

「雰囲気じゃ困る」

あくまでパソコン上での画像処理のため、発色も含めた仕上がりに責任が持てないというニュアンスだというデザイナーの釈明に、こっちはもっと素人だと憤慨し、そもそもデザインが気に入らないとちゃぶ台をひっくり返します。さらに素人を盾にして「プロなら、ちゃんとしてくれないと(ニヤリ)」と、上から目線で小馬鹿にします。

下がるテンションを気力で支えながら、デザイナーは予算とスケジュールを確認します。すると「そちらが心配することじゃない」と冷笑します。正確な色の再現を求めるなら、下地塗りやペンキの色指定、あるいは現場に立ち会っての確認作業が必要となり、それだけの費用が発生します。もっともクオリティを求めるわりに予算をかけないのは、いつものことと、永いつきあいのデザイナーは知っています。しかしと、スケジュールだけは知りたいと再度訊ねます。はぐらかすA社長に、失礼ながらとこう切り出します。

「(仮に)事前の約束もなく午前10時に修正の指示がでて、その日の午前中に仕上げろと言われても無理です」

だから、作業予定を組むために移転のスケジュールを教えて欲しいと説明するとさすが天才の本領発揮です。

「その感覚でいるんだけどね」

つまり、こちらの要求はすべて飲めと、悪びれもせずしれっと言えるのがA社長です。

最後は逃走中

つなぎ止めていた気力も切れ、デザイナーのテンションはゼロになります。指示通りに修正をかけ、壁もパソコン上で塗り直しはしましたが再提出して放置します。スケジュールを知らされていない以上、間に合わなくても責任はなく、発色の責任を取る気はないと開き直ったからです。すると数日後、移転店舗の店長と名乗るものから電話が入ります。店長の話によれば、自分の店舗のことだから、自分で取り仕切るのが筋だろうとA社長に任命されたそうです。デザイナーは心の中で「ご愁傷様」と手を合わせます。A社長は逃げたのです。

いつものことです。A社長が陣頭指揮を執ると、発言が二転三転し、辻褄があわないまま強行し、修復不可能にしてから逃走します。それもギリギリになってから。案の定、翌日にはデザインを確定しないと、看板設置が間に合わない状況だと切迫した状況を店長の声が伝えます。それでもデザインの変更を求めたのは、A社長が指示していた「スマホのアクセサリー」の削除です。そんなものは取り扱っていないと声が震えます。A社長は自社の取扱商品を把握していません。

古参の社員はA社長に慣れています。彼らはA社長が動き出すと、できる限り距離を取ることを第一目的に、行動を開始します。巻き込まれると穴を掘って、それを埋め、また同じ場所を掘るような仕事が増え、自分たちのテンションが強制的に下げられることを知っているからです。同じ働くなら、楽しいテンションで働きたいと思うのが人情です。それが結果的に業績を維持、拡大しているのですが、買収した店舗からの脱落者も多く、古参社員も将来性への不安を抱え、転職活動をしていることに気がつくA社長ではありません。

エンタープライズ1.0への箴言


「テンションを下げさせる天才は実在する」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」