フジテレビの英断か

2013年3月5日。ネットに激震が走りました。「AKB48終了」「ジャニーズ全滅」と各種まとめサイト、アンテナサイトが煽り、ネットニュースが後を追います。震源地はフジテレビ音楽番組のプロデューサーのブログで、自身が手がける番組での「クチパク禁止」を表明したのです。説明は不要でしょうが「クチパク」とは、CDをはじめとする収録済みの音声にあわせて、あてぶりで歌っている演技をすることで、名前が挙がったグループや事務所はこの噂が絶えません。

しかし、ネット界の喧噪は置き去りに、芸能界では冷静に受け止められているようです。最大の理由はフジテレビの老舗音楽番組「MUSIC FAIR」だけのことであり、クチパク禁止を掲げる同局の「僕らの音楽」「堂本兄弟」を加えても3つだけだからです。そしてこれらの番組は従来から「本格派」の出演がメインで、クチパクが噂される「疑惑派」はそれほど出演していませんでした。つまり影響は限定的だという見立てです。

昭和の時代から「クチパク」はありました。それがいまあえて話題とされる理由は次に述べるとして、大騒ぎしたネット業界にも「クチパク」疑惑はあるという話し。

初音ミクレベルシンガー

極論を言えば、すでに歌手は不用です。ボーカロイドソフト「初音ミク」に代表されるように、人の声すらデータ処理で加工できる製品になっているからです。その技術を使えば「音程」などどうとでも「加工」できます。歌ったデータをパソコンに取り込むと自動的に音階に置き換えられ、音の高低長短はマウスで操作できます。これを使えば「ジャイアン」を「サラ・ブライトマン」にすることも可能です。フジテレビプロデューサーの発言は、こうして製造したデータをもって「歌手」とすることへのアンチテーゼでしょう。昭和の頃から「クチパク」はありましたが、バックバンドの手配や機材の都合という局側の事情が大きく、「歌が下手だから」という理由が少なかったのです。いまはつまり、そういうことです。

T編集長が運営するネット技術系サイトのモットーは「技術は幸運を呼ぶ福の神」です。モットーの通り技術系のニュースを中心にとりあげ、解説を加えます。サイト運営の他に「朝勉」と称して、技術者を集めた有料勉強会を開き、「放課後」と名付けた人材交流イベントを開き、技術力の向上を啓蒙し続けています。もちろん、このモットーは本稿お馴染みの架空のもので、意味を汲み取った上で別の言葉に置き換えており、実在していても無関係とお断りしておきます。

ソースはやっぱり大切だろう

iPhone4から動画の再生やインタラクティブコンテンツのデファクトスタンダードとなっていた「Flash」が見られなくなりました。回避する方法はありましたが、購入したときの状態では、Flash用に製作されたコンテンツは閲覧できず、当時スマホのデファクトスタンダードといって過言ではなかったiPhone対策にWeb業界は頭を抱えたものです。

T編集長は海外のあるサイトを見つけ「これってFlashじゃないの?」とツイート。サイトはiPhone対応を掲げ「脱Flash」宣言をしていたのですが、サイトにアクセスすると「動画」のように画面が切り替わります。そして先の質問がでてくるのですが、Webサイトをみるためのソフトである「ブラウザ」には、Webサイトがどのような言語(正しくはソース)で書かれているかを閲覧する機能がついています。これをチェックすれば「JavaScript」というプログラム言語で制作されたものであることは一目瞭然。「Flash」のそれと全く違うもので、両者の区別はウェブ業界人なら常識以前の話しです。T編集長は「技術情報」は知っていても、「技術」そのものへの理解が、ほぼゼロの「クチパク0.2」です。

ビヨンセかKPOPか

一概に「記者」といっても2種類あります。現場に足を運び、関係者の証言を積み重るいわゆる「裏取り」をするタイプと、官公庁や企業から配信された情報をそのまま記事にする記者です。通信社あがりのT編集長は後者です。しかもIT系はほぼ素人。よく言えば人の縁、ただしくは「コネ」によりIT系に踏み出し、お上のお触れや、企業広報をクチパクしています。

クチパクと言えば思い出されるのがビヨンセさん。米国大統領就任式での「クチパク」を問われた記者会見で、見事なアカペラを披露し、スーパーボウルのハーフタイムショーでは圧巻のパフォーマンスで観衆を熱狂させ、批判する声を蹴散らしました。一方、なにかのテレビ番組で韓国の方が「KPOPはパフォーマンスを見せるものだから、生歌かどうかは関係ない」と主張しています。

お国柄はそれぞれで日本の芸能界もクチパクには寛容です。しかし、技術の進歩が本人の声を素材として加工されたデータが「歌」と呼ばれることには率直に違和感を覚えます。「製品」や「商品」なら素直に飲み込めるのですがね。そしてワイドショーやニュースの芸能コーナーでクチパクが明らかなタレントの映像に「熱唱」とテロップを打つのは誤報です。これも「熱演」ならなるほどと頷くのですが。

エンタープライズ1.0への箴言


「実力不足の専門家がとても多いので注意」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」