ほしのあきが可哀想

新年あけましておめでとうございます。今年も本欄にお付き合いいただければ幸いです。

越年して旧聞に属する話題となりますが、昨年末を賑わせた芸能人による「ペニーオークション詐欺」への協力事件。最初に名前が挙がったほしのあきさんだけが、すべての報道で取り上げられたことに、すこしだけ同情しました。なぜなら、他にも沢山の芸能人が関与していたからです。ペニーオークション(ペニオク)をめぐる騒動は2年前にすでにピークに達しており、多くの芸能人がペニオクで落札したことをブログで自慢し、すでにネット上では「やらせ」だと糾弾されていたのです。

さらにテレビ報道では「すべてのペニオクが詐欺というわけではない」と繰り返します。しかし、ITジャーナリストという肩書きをもつ筆者の調べで、完全無欠に「白」というサービスを国内で見たことがありません。というより、その番組では子会社を通じて、ペニオクを運営していた上場企業のCMが繰り返し流されているところに「大人の事情」が透けて見えます。ちなみ1社だけではありません。そこから、ほしのあきさんだけやり玉に挙げることに違和感を覚えるのです。

今回は新年特別号。「ペニオクとは0.2」をお届けします。

ペニオクに透ける0.2

ペニーオークションは最新家電などの人気商品をサイト運営者が提供します。オークションには締め切り時間があり、価格は0円からスタートし、50~100円で購入しておいた「コイン」で入札し、1円や10円といった決まった額が上昇していきます。例えば定価5万円の「iPad」を入札したのがひとりだけなら、コイン代の50円に落札価格を足した51円で購入できるという仕組みです。ただし、入札されるごとに締め切りが20秒延長され、落札価格は競り上がり、コインは消費されていき、投じたコインは落札できなくても返却されません。これがペニオクサイト運営者の利益の源。そして「ボット」と呼ばれる自動入札プログラムや、自作自演も含めた「さくら」がいて、一般利用者の落札を妨害します。これはもちろん「詐欺」にあたるのですが、表面上みつけることは困難で詐欺としては「1.0」です。ところが、公開情報からその怪しさが滲みでているところがペニオクは「0.2」なのです。

あるペニオクでは入会を促すための特典として50枚のコインが貰えました。コインは枚数により単価が変わりますが、そのサイトの最高値は1枚100円で「いきなり5000円(分のコインが)貰えます」とあります。括弧内は小文字です。さらに友達を入会させると、それぞれに100枚のコインが与えられます。つまりは1万円分です。この大盤振る舞いが「0.2」です。

理論上、破綻するシステム

なぜなら入会時に求められるのは「メールアドレス」だけだからです。メールアドレスを増やすのは簡単なこと。つまり理論上、ひとりで何億枚のコインでも無料でゲットできるということで、これを回避するには、より詳細な個人情報を求めるか、IPアドレスごとに制限をかけるなどしなければなりません。ところが無料でつくれるWebメールアドレスを複数作り、それぞれを友達として入会させると、すんなりとポイントゲットできました。これでは必ず破綻します。詐欺でなければ。

ゲットした大量のコインを元に入札してみました。何度も試した末に、わたしのハンドルネームとともに「終了」が表示されました。ところが刹那、別の入札があったと再びタイマーが動き出します。詐欺決定です。

こうしたシステムを設計する際に、最初に考えるのは「締め切り」です。締め切りを越えた瞬間に、それ以降の入札を受け付けないようにしなければ、二重落札、三重落札というトラブルが起こるからです。そして「終了」の表示後にカウントダウンタイマーが動き出せば、信頼性が損なわれ、まともなシステム開発者どころか、詐欺師ですらやらないことですが、そんなことすら気にしないところがペニオクは「0.2」なのです。

状況証拠では真っ黒

終わり方も0.2でした。ほしのあきさんの報道があった翌日、毎日届いていた「メルマガ」が止まりました。そして三日後、出品がなくなり開店休業状態となります。これが1.0なプロの詐欺師なら、素知らぬ顔で運営を続け、いくつかの商品を落札させ「詐欺ではない証拠」をつくることでしょう。犯罪の背中を押すわけではありませんが「詐欺」という犯罪は、立件するのが難しいのです。ところが予告もナシに、サービスを終了するなど自ら詐欺と認めたも同然の0.2です。

実はペニオクはそのシステムを販売している会社が一番儲かる仕組みになっています。そしてシステムを提供するだけなので、彼らが逮捕されることはありません。通り魔に刃物を売ったからと、金物屋が逮捕されないのと同じと彼らは強弁します。だから専用サーバにシステムと百万円単位の投資をし、悪の道に踏み出したものの、投資を回収できずにサービスを終了し、今回の詐欺報道に怯えている0.2な人がいます。自業自得ですが。

そして自業自得といえば、詐欺に加担したと報道された芸能人もそうです。週刊文春の記事によれば、芸能人ブログの代名詞ともいえる「アメブロ」を運営するサイバーエージェントが企業からの広告を受注し、タレントに記事を書かせていたとあります。つまり業界全体にそれが当たり前という空気があるなかで、特段の罪の意識はなかったのかも知れません。しかしテレビディレクターのテリー伊藤さんがするどく指摘していました。

「わざわざブログを見に来てくれたファンに、お金を使わせようという魂胆がいやらしい(要約)」

その通りです。

エンタープライズ1.0への箴言


「詐欺師の自覚すらないペニオクは、システム開発会社だけが儲かる仕組み」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」