ビジネスの現場にも浸透している「不正受給」

生活保護費の「不正受給」が社会問題となっています。ネットでは「生保(なまぽ)」と呼ばれ、生活保護費の不正受給のノウハウが拡散しています。また、組織的に活動する人権活動家や特定の党に属する地方議会議員が介在すると、本当に簡単に受給できます。彼らに力があるというより、一言で言えば、役所は窓口で粘られるのを嫌うからです(これについては掘り下げません)。

人気お笑いコンビ「次長課長」の河本準一さんのご母堂が生活保護を受給していたと騒動になりました。女性誌のスクープから始まり、国会議員を巻き込み、本人の謝罪記者会見へと発展しました。生活保護では三親等以内の親族の扶養義務を求めており、河本さんも「支援」はしていましたが、一部で報じられたように「年収5,000万円」もあるとするなら「全面支援」ができたのではないかと批判されたのです。

生活保護費の原資は「税金」で、自助努力により生計を立てることができる人にまで支給する行為は財政を悪化させる「無駄遣い」です。人は本能として利己的行動を選択します。働かずにお金が貰えるのに、わざわざ働く人はマイノリティです。「働けば負け」とネットで吹聴する「モラルハザード」は、人間の本能からの告白です。

ただし、その先に待つのは「国家破綻」。支出ばかりが肥大化し、労働力は減り、税収が落ち込むのですから。すでに我が国は「ギリシャ」を笑えないレベルに達しているのかもしれません。なぜなら「不正受給0.2」がビジネスの現場にも浸透しているからです。

チャレンジを応援する助成金の行方

縫製業を営むB社長が、自治体の広報誌の一面を飾りました。「超経営革新プラン(仮称)」でグランプリを受賞したと記事が伝えます。「超経営革新プラン(仮称)」とは、「産業振興策」の一環として、市内に拠点を置く企業を応援する施策です。多くの中小企業は予算が乏しく金融機関も貸し出しを渋ります。そこで、グランプリ受賞企業には、新規事業を立ち上げる費用として1,000万円が助成金として支給されるのです。

B社長の提出したプランは「個人向けオリジナルTシャツのネット販売」でした。メーカーの下請けから、個人向けの小売り事業への進出と企画書には記され、1枚から作ることが可能なイージーオーダーのTシャツの全国販売を目指すと鼻息は荒く、グランプリで得た1,000万円はホームページのリニューアル費用に充てると広報誌に語ります。

しかし、待てど暮らせどホームページはリニューアルされません。既存のページに「個人向け窓口」が新設されたのが変化と言えば変化でしょう。助成金を生活保護と同列に語ることに違和感を覚えるかも知れませんが「不正受給0.2」と断じます。

グレーな手法だが不正ではない!?

助成金を利益にするのは容易なことです。多くの助成金は、使途の書面提出を条件としていますが、大半は書面に記された内容の正当性を精査しません。B社長の例では「ホームページ作成費用」を計上し業者に支払っていますが、ホームページの制作会社がB社長に「Tシャツを発注」する約束ができていれば確実に利益となって帰ってくるのです。

俯瞰してみれば「不正」の構図がありありと浮かんできますが、そもそも役所仕事というのは規定通りに「書面」が揃っていれば追究することはしません。また、先の方法は脱税にも使われるグレーな手法ですが、これを「税務署」が調べたとしても、「正しく申告」していれば、助成金の使い道に苦言を呈することはなく、金の流れを自治体に報告することもありません。これが「縦割り行政」です。

そして、「不正受給0.2」とした理由は助成金を支給した役所にあります。

税金を当てにする社会

「超経営革新プラン(仮称)」を紹介する市役所のホームページにはこうあります。

「斬新なアイディアで、新製品・新技術・新サービスを開発し、新分野を切り開く事業者を応援します」

Tシャツの個人販売のどこが「斬新なアイデア」なのでしょうか。個人向けと銘打っているだけで、やっている作業は従来の業務と何一つ変わりません。B社長だけではなく、過去の受賞企業すべてが見事に「既存の事業」で1,000万円の助成金を受けとっていたのです。また、B社長の既存事業は絶好調で、工場を増設し、事務所を新設し、従業員を倍増させ、近所の中学校の廃校に伴い、払い下げられる予定の土地の購入を検討するほど「お金」も持っています。

すべての条件に当てはまらないB社長が助成金を受け取れたのは役所の事情によります。グランプリ受賞者が出ないと1,000万円の予算を消化できなくなります。これは役所の論理で言えば「大失態」です。そこで「役所と親しい企業」に声をかけた出来レースで、いわば役所が主導する「不正受給」、だから「0.2」なのです。これは、残念ながら「よくあること」です。

河本準一さんはビジネスクラスを利用して、家族で海外旅行にでかけており、ご母堂をネタにし、書籍まで出していたので弁解の余地は少ないでしょう。しかし、「ケチ」で有名な所属事務所。芸能界を引退した島田紳助さんが、若かりし日にギャラを上げてくれと社長に直訴すると、上着を脱いで「かかってこんかい」と挑発したエピソードから考えて、中堅タレントの河本準一さんに「5,000万円」も支払っていたとはちょっと首をかしげます。とはいえ、一般サラリーマンよりは稼いでいたでしょうがね。

エンタープライズ1.0への箴言


「助成金を収入……と考える企業は実在する」

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」