そもそもクチコミは信用しない

クチコミを主とする飲食店紹介サイト「食べログ」への「不正投稿」が明らかとなりました。不正投稿とは、飲食店コンサルタントを名乗る業者により「裏技」として販売されていたもので、「やらせ投稿(クチコミ)」と「アクセス数増加」の2種類があり、どちらもサイト内での評価を高めることができます。「裏技」の費用は月額10万円前後で、実際に不正操作で行列ができた飲食店もあるといいます。

「食べログ」および運営会社の「カカクコム」からすれば深刻な問題です。「やらせ」や「ズル」がまかり通るなら、サイトに掲載された「クチコミ」を信じる人はいなくなります。そのため「カカクコム」は「法的手段も視野に」と強硬な態度を見せております……が、法的手段がとれるかという点には疑問が残ります。そして、何よりWeb業界に関わるものとしては「食べログ」側の対応が気になります。

ちなみに、筆者はクチコミサイトの「旨い」という投稿を信用していません。それは法的手段が困難である理由と同じです。

クチコミサイトと憲法の関係

「食べログ」は「運営ポリシー」の中で、消費者庁が昨年発表した「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を持ち出して、不正操作を違法行為と印象づけ、法的手段をチラつかせます。

しかし、消費者庁の資料は原材料の産地偽装となるクチコミを問題としていますが、旨いか不味いかといった「主観」には踏み込んでいません。なぜなら「主観」を表明することを制限すれば、憲法で保障された「表現の自由」に抵触するからです。つまり、投稿者本人が「旨いと思った」と主張すれば法に問うことが難しく、わたしが飲食店のクチコミを信用しない理由も同じです。

そもそも、語弊を怖れずに言えば「クチコミ」の不正操作は広告やWebの業界では常識で、不正の線引き次第では「マーケティング」と呼ばれています。例えば、「レビューを書いてポイントプレゼント」という店舗紹介企画に、こう一文を添えます。

「優秀なレビューには、さらに1,000ポイント進呈」

評価基準を明記しなければ、レビュアーが気に入られるために「店舗寄り」のバイアスがかかります。店側からすれば「誉めろ」といったわけではないので、「やらせ=不正ではない」と理屈が生まれます。これは「上品な例」ですが、「下品」や「悪質」まで含めれば、書籍一冊分になるぐらい多種多様な方法があるのです。

クチコミとはフリーライド

ホームページ制作業のF社長もクチコミサイトに参入しました。地方の中核都市限定の地域情報クチコミサイトです。飲食店から小売店までジャンルを問わず、誰でも無料でお店を登録し、評判を書き込めます。F社長の目論見はサイトからの広告収入や、自社への集客です。

クチコミサイトの旨味は、コンテンツを作らなくて良いことです。場所さえ提供していれば、訪問者が勝手にクチコミを書き込みます。サイトの価値とはコンテンツと同義です。本稿を掲載している「マイナビニュース」は日々、何十本の記事を更新し、それにより訪問者を呼び込みます。そこには運営側の人件費が投じられ、執筆者には原稿料が支払われます。クチコミサイトはこれが不要です。つまり他人の提供する情報に「ただ乗り」できるのがクチコミサイトの旨味の本質です。

さらに、サイト構築の原価は驚くほど安価で、ドメインやサーバの管理費は年間数千円から可能ですし、クチコミを管理するプログラムもネットで検索すれば無料のものがゴロゴロ転がっています。

クチコミサイト運営は砂金採りと同じ

F社長のクチコミサイトは2年と持たずに荒れ果ててしまいました。投稿される「クチコミ」の大半が、飲食店の関係者による自作自演で、それを常連が「クチコミ」で暴露することもあります。また、「クチコミ」と称して、メニューをすべて掲載する店舗もありました。さらには、他店の誹謗中傷が並ぶこともあり、それらを見に来る訪問者が増えるわけがありません。

匿名で寄せられる大抵のクチコミ情報は、川底を漁る砂金採りの砂粒のようなものです。丁寧に砂粒を除けてあげなければ「クチコミ0.2」となるのは自明です。

「食べログ」の運営においても、不正投稿は利用規約の中で排除する旨を明記しています。しかし、運営会社「カカクコム」自身が2011年1月には利用者から不正の情報が寄せられていたと発表しているのですが、不正の事実が発表されたのは2012年の1月5日で、共同通信によるスクープを受けてのことです。「カカクコム」によれば、その間の調査で39の不正業者を特定したとありますが、情報産業において1年という時間は致命的な遅さで、何より「調査中」の1年間は「不正操作されたかもしれないクチコミやランキング」が、注意喚起もされずに提供され続けたということです。わかりやすく言えば、産地偽装されたかもしれない牛肉を、客に知らせることなく提供し続けたレストランと同じであり、他の業界なら大スキャンダルです。

2011年12月12日付けのIRレポートでは、「食べログ」の2011年の4月から9月までの半期の売上が10億円に達したとあります。もちろん、この数字は不正が行われていることを認識した「調査中」のもの。ここから底意が見えるとするのは邪推でしょうか。

エンタープライズ1.0への箴言


「クチコミとやらせは光と影」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi