医療分野において、世界が直面する困難な課題解決に取り組むGEヘルスケアの中核拠点の1つであるGEヘルスケア・ジャパンでは、約1,000台のiPadを営業担当者やサービス部門のフィールドエンジニアリング担当者といった顧客と対面する最前線のスタッフに配付し、営業効率アップ、社内コミュニケーションの円滑化、顧客コミュニケーションの活性化に活用している。

とりわけ同社が重視しているのは、医師や病院事務局、医療用機器を扱う技師に対する営業力の向上だ。その背景には、医療機器をめぐるビジネス環境の変化があると、同社マーケティング本部マーケティングコミュニケーション部長 小山博之氏は説明する。

GEヘルスケア・ジャパン マーケティング本部 マーケティングコミュニケーション部長 小山博之氏

「当社はCT(コンピュータ断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴断層撮影装置)といった医用画像診断機器を中心としたビジネスを展開しています。以前は技術を買われシェアを獲得するテクノロジードリブンのビジネス展開で市場をリードしてきました。しかし、最近は各メーカーとの競争も激しくなり、コモディティー化が進みどこで差別化するかをよく考えなければなりません」(小山氏)

さらに同社では、画像診断機器に加え麻酔器、生体モニターの製品やそれらをつなぐヘルスケアIT製品、また、診断を分子レベルまで拡張し、医薬品開発や診断薬を扱うライフサイエンス分野にも事業領域を拡大しており、多種多様の製品を効果的に訴求するための営業力アップが課題だった。

営業訴求力を支援するタブレット端末プレゼンテーション

2013年4月に開催された「国際医用画像総合展2013」に出展した同社は、ブースに立ち寄った来場者に対して新たな営業スタイルを展開した。複数の来場者を大型ディスプレイの前に集めてプレゼンテーションを行う従来方式を減らし、説明員一人ひとりが1台のタブレット端末を手に、来場者へ個別の説明を行う「マンツーマン方式」も加え、よりきめ細やかな対応を実施した。

「国際医用画像総合展 2013」のGEヘルスケア・ジャパン出展ブース(左)。iPadを活用した個別説明も展開した(右)

「来場されたお客様の興味関心を引くストーリーを説明することで効果的に自社の強み(価値)を訴求できるようになりました。第三者のサーベイでは弊社担当者からの製品説明に対し高い評価が得られました。動きのある製品の特徴を動画でお見せしたり、さまざまな要望にも素早く資料を表示できるなど、タブレット端末を使うことで当社製品をより深く理解していただける手ごたえを感じました」(小山氏)

この展示会での展開を皮切りに、日々の営業活動でも積極的にタブレット端末を活用する施策に取り組んだ同社だが、ここに至る道筋はそう簡単ではなかったようだ。

GEヘルスケア・ジャパン マーケティング本部 マーケティングコミュニケーション部 Advertising & Digital Marketing Gr長 倉橋繁樹氏

「展示会の1年ほど前にクラウド型CRM(Customer Relationship Management)をより活用するツールとして、iPadが導入されました。外出の多い営業スタッフが社外からCRMで顧客対応情報を共有したり、インターネットを使った情報収集やメール確認、社内基幹システムの利用などの業務効率化および情報共有化の改善が狙いでした。導入から数カ月後、iPad利用に関するアンケート調査を実施しました。調査結果からは業務の効率化や情報共有化に関しては期待どおりの効果は認められたものの、営業訴求力については改善の余地があるということが見えてきました」と振り返るのは、マーケティング本部 マーケティングコミュニケーション部 Advertising & Digital Marketing Gr長の倉橋繁樹氏だ。

パワーポイントで作成した資料をPDFに変換して、iPadのデフォルト・アプリである「iBooks」で開き、プレゼンテーションに利用していた営業担当者もいたが、ページ内に動画を埋め込めないなど、使い勝手の面に難点があったという。

また、米国本社から提供されている世界共通のカタログ・アプリもあったが、操作性の問題や、日本語化されていない点などで日本での正式展開は見送られていた。

営業訴求力を向上させる施策を模索、マルチメディア・コンテンツ対応で使いやすいツールは?

「社内にある営業用資料を効果的に営業担当者へ共有し、効果的なプレゼンテーションを実現できる手法を求め、アプリベンダーの既存ソリューションや、スクラッチから独自アプリを作ることも含め、さまざまな手法を模索しました。効果的に自社の強み(価値)を伝えることは第一の要件ですが、それ以外にも『誰がどのようなコンテンツを使用したか』といった定量データを取得できること、また全員が同じ情報資産を活用でき本部で一元的なコンテンツの更新管理やカテゴリー管理ができること、ペーパーレス化によるコスト削減など、いくつかの重要な要件に基づいて評価を進めていきました」(小山氏)

最終的に選択されたのはiPad用に開発された電子カタログ・アプリ「ビジュアモール スマートカタログ」(ソフトバンクテレコム提供、以降、スマートカタログ)だった。

「動画やファイルサイズの大きいPDFでもストレスなく再生でき、病院内でネットワーク接続禁止の場所でも事前にコンテンツをダウンロードすることでオフラインでも使える点なども選択のポイントでした」(倉橋氏)

パイロット導入で配付された営業担当者からの反応も、「簡単な操作で説明しやすい」「お客様の反応が良く、会話が弾む」といった肯定的な意見が多かったという。

しかし、ただツールを配付すればそれで解決というわけにはいかない。

「導入をするにあたり、どうすればこのツールを営業担当者に有効活用してもらえるかを検討するタスクフォースを立ち上げました。コンテンツを制作するプロダクト担当者など10人程のメンバーが3カ月間、毎週ミーティングを開いて展開方法を検討しました。例えば、最適な画像の解像度を検証したり、コンテンツの整理、カテゴリー分け、テンプレートの作成、運用ルールなどを決めました。現在は500以上のコンテンツが営業担当者に配信されています」(小山氏)

こうした準備を経て実運用が開始されたのは2013年4月である。当初は営業部のみの配付から、製品の保守を担当するサービス部門、さらにはライフサイエンス部門へと導入範囲は順次拡大しているという。

日本でのベストプラクティスをアジア・パシフィック各国にも展開

このツールを活用した営業力向上に取り組んで1年ほど経た現在を、同社では導入効果をデータ分析して次のアクションにつなげる第2フェーズと位置付けている。スマートカタログのコンテンツ閲覧ログ集計機能によって得られたデータを基に、営業担当者によく使われているコンテンツを順位付けし、人気の高いコンテンツをテンプレート化することで、次のアクションにつなげている。

また、資料の電子化が進んだことにより、従来の紙カタログ制作コストを前年比で50%ほど削減できたという。特に社内向けに制作していた紙資料の制作費は大幅に削減できた。スマートカタログの制作機能を利用して、社内の人材でコンテンツを制作している。

こうした取り組みを同社のアジア・パシフィック地域のマーケティング会議でベストプラクティスとして情報シェアしたところ、早速オーストラリアと韓国が興味を示し、このツールを導入した。この動きはさらにASEAN諸国にも広がり導入を検討している。こうした日本初の営業支援アイディアが海外に広まるのは新しい潮流として注目できる。