関西スーパーマーケットを中心に全国で57店舗の食肉小売店を展開するダイリキでは、全店舗にiPad miniを導入した。棚卸や発注業務、勤怠管理、動画を活用した新人研修、社内コミュニケーションの活性化とモチベーションアップにiPad miniが活躍しているという。

電話や紙・FAXによる業務フローを改善

精肉売り場の店頭で手慣れた様子でiPad miniを操作しているダイリキスタッフ。iPadのカメラを利用して店舗写真を撮影し、本社のマネージャーに報告するのだという。ダイリキでは、棚卸や発注業務もiPad miniを活用して店舗業務に役立てている。

iPad miniを活用し店舗の写真を撮影する様子

ダイリキ 情報システム 担当責任者 船戸勇樹氏

「導入のきっかけは、電話やFAXを使った従来の業務方法をシステム化し、効率化を図ることでした」と語るのは、ダイリキで情報システム部門を担当する船戸勇樹氏だ。

「棚卸や発注、勤怠管理などの業務対応は、紙に手書きというアナログな運用方法を続けていました。しかし、紙での運用は、FAXの文字がかすれて伝達ミスが多いなど、従来から問題がありました。また、紙に記入したものは、結局パソコンへ打ち込む必要があるため二度手間になり、運用方法が煩雑で効率が悪い状態でした」(船戸氏)

店舗業務のシステム化を進める上でiPad miniは欠かせないツールだと船戸氏はいう。

「問題となったのは、業務パソコン環境でした。当社店舗は、ショーケースに商品を並べる対面方式を取っており、パソコンはその店頭のすぐ脇、もしくはバックヤードに設置されています。お客さまへ接客をする慌ただしい環境の中で、店舗スタッフが営業時間中に落ち着いてパソコンを閲覧したり、データ入力業務に集中するのは難しい状況でした」(船戸氏)

本社側でシステム化を進めても、店舗側でそれを活用できない環境では、店舗業務のシステム化は実現しないと考えた船戸氏は、手軽に持ち運びできるiPadに着目した。このツールを使って、バックヤードや休憩室から社内システムにアクセスできる仕組みをつくれば、店舗業務のさらなるシステム化を進めることができる。さらに、片手で持てるサイズのiPad miniは、店舗スタッフが画面を見ながら作業するのに最適だと、全店舗への導入を決めた。

業務効率化で特に課題となっていたのは、同社が月に2回実施している棚卸業務だった。従来の方法は、まずパソコンから棚卸台帳を印刷し、棚卸リストの中から自店舗で取り扱う商品のみ数量をカウントし紙面に記入する。数量カウント終了後、改めてパソコンの棚卸システムへ数値を手入力していた。旧棚卸システムは入力フォームの使い勝手も悪く、レスポンスも遅かったため入力にも時間がかかる。営業時間が終わってからの棚卸作業は、店長の業務負担になり、夜遅くまでの作業を強いられた。

そのため、店舗からは業務改善を求める声が上がっていた。そこで船戸氏は、iPad miniを活用した新たな棚卸システムの開発に着手した。

iPad miniを片手に棚卸で作業時間が3分の1に短縮

船戸氏は、店舗で実際に棚卸を行い、何が必要なのかを体験から洗い出してアプリ制作をしたという。完成した棚卸アプリは、「使いやすい」「動きが早い」と現場から好評だ。 使い方は、iPad miniから棚卸アプリを開き棚卸データをダウンロードする。棚卸データは、店舗で過去3カ月間に仕入れ実績のある原料をデータから引当て、自動でリストアップしたものだ。これにより、各店舗で棚卸する必要のあるアイテムのみがデータ表示される。そのため、膨大なリストからいちいち自店の原料を探す必要がない。

また、冷蔵庫、冷凍庫など保管されている場所ごとに画面データが表示されるので、その場で表示されたアイテムをそのまま数えて数量を打ち込むことができる。棚卸完了後は、データ送信ボタンを押して送信すると、クラウド経由で本社基幹システムへデータ報告される仕組みだ。

「マイナス25度以下を保つ精肉冷凍庫での棚卸作業は、寒さで気が焦って頭が回らない。そこで、探したり考えたりする工程を極力減らし、アプリ画面に表示させるアイコン数も少なくして、作業動作も最低限ですむよう工夫しました」(船戸氏)

棚卸作業はオフラインでも作業ができるので、冷凍庫の中など電波の入らない場所でも困らない。オフライン中は、iPad miniにデータ保存が可能だ。オンライン作業は、棚卸開始時の棚卸データダウンロードと、棚卸終了後の棚卸結果データアップロードのみでよい。

また複数人が手分けして棚卸を行う想定で、棚卸を終えた場所や原料はアイコンの色が変わる機能もつけた。手が空いているスタッフが交代で棚卸を進められるよう、作業が途中で終わっても次の人に引き継ぎやすい工夫だ。これで、店長の作業負担も減らすことができる。

棚卸アプリ画面、棚卸を行う場所ごとに区分けされている(左)、数量入力画面(右)

棚卸原料一覧(左)、棚卸を終えたアイテムは赤色に変化するのでどこまで棚卸をしたか一目で分かる(右)

ダイリキ 甲子園店 店長 杉本晃一氏

iPad miniと棚卸アプリを活用した棚卸方法導入により、棚卸時間は3分の1に短縮したという。ダイリキ 甲子園店 店長 杉本晃一氏は、棚卸アプリの効果についてこう語る。

「1時間半は掛かっていた作業が、現在は30分程度で完了します。以前の棚卸は、手間と時間が掛かり毎回気が重かったです。今では、iPad mini片手に原料をカウントし、その場で数値を打ち込めば棚卸が完了します。本当に楽になりました」(杉本氏)

iPad mini片手に精肉冷凍庫で棚卸をする杉本氏

棚卸アプリの仕組みは、以下の動画で解説している。


どこにでも持ち運べるiPad miniで店舗間を超えたコミュニケーション実現

同社には、店舗特有のもうひとつの課題があった。各店舗はスーパーマーケット内に出店しており、社員は現場へ直行直帰で勤務する。そのため、店舗ごとに独立してしまい、本社と店舗の情報伝達が徹底できないことや他店舗同士が横のつながりを持ちにくい傾向があった。そこで、社内の情報伝達方法の向上とコミュニケーション活性化に取り組んだが、これらの課題にも、iPad miniは効果的な役割を果たしている。

本社から店舗への重要連絡事項はメールで配信していた。しかし店舗によっては、メール確認が不十分で情報が伝わらず、重要事項が実施されないといった事態が発生していた。「業務中に落ち着いてパソコンを閲覧する環境にないので、メールを開くという動作が億劫になる」という現場の声も聞こえていた。

そこで、店舗への連絡事項はGoogle Apps for BusinessのGoogleサイト機能を利用して始めた「社内ポータルサイト」に掲載し、自由に持ち運べるiPad miniを利用して、休憩室やバックヤードでこまめに確認できる環境を整えた。iPad miniが導入されてからは、「知らなかったから業務ができなかった」といった情報の伝達漏れは激減したという。

「社内ポータルサイト」は、社員同士が店舗の枠を超えてコミュニケーションし、交流を深める狙いで始めたが、iPad mini導入前はほとんど閲覧者がいなかったという。慌ただしい業務時間中に、店頭でポータルサイトをじっくり見る余裕のあるスタッフはいない。

iPad miniを使ってポータルサイトを閲覧してもらうことにしたところ、閲覧数が増えサイトが活性化した。掲示板に、パートやアルバイト社員を含む店舗スタッフからもコメントが上がるようになった。

ポータルサイトには店舗への連絡事項の他、接客コンテストや技術コンテストの受賞者をインタビューした画像や動画を掲載したり、店長や一般社員、本社社員などがランダムに自己紹介するコーナーを掲載している。表彰制度は以前からあったが、受賞者しか認識がなかった。ポータルサイトに情報掲載することで、全店舗に展開され、全社員で取り組みを共有できるようになった。iPad miniを通じて他店舗の取り組みや運用方法を知る機会を得たことが刺激となり、店舗スタッフのモチベーションアップも期待できるという。

研修動画は、新人教育に効果あり

「社内ポータル」には、新人教育用の動画マニュアルも公開している。接客や身だしなみ、包装のポイントといったカテゴリに分かれ、初出勤したアルバイトに視聴させる。店長の杉本氏は、動画研修は効果的だと語る。

「業務説明をする前に、まず動画で学習してもらうと理解度が高まります。業務内容が頭に入った状態で実際の業務に取り組むと飲み込みが早いので助かります」(杉本氏)

動画研修は、店長の手が空くというメリットもある。冊子を見せながらの研修は、付きっきりで説明する必要があるが、動画を見てもらう時間は、他の業務に時間を充てられる。

システム化を取り入れさらなる効率化へ

同社では、今後さらに店舗業務のシステム化を進めていく。来年をめどに2つの業務改革を引き続き行う予定だ。現在利用しているGoogle Apps for Businessの勤怠管理システムに、紙で管理しているシフト機能を追加する。完成すれば、アルバイト社員もシフトを店舗まで確認しに行く必要がなくなり、自身のスマートフォンからシフト登録することが可能になる。

またGoogle Apps for Businessのスプレットシートで集約し、本社で取りまとめている発注業務も流通BMS(Business Message Standards:流通ビジネスメッセージ標準、流通事業者が統一的に利用できるEDIの標準仕様)に変更し、発注、出荷、受領、検品、請求データを一貫したシステムに移行する予定だ。