工事現場で使われるショベルカーやブルドーザーといった建設機械、重機のレンタル事業を展開するニッパンレンタル。関東・信越を中心に34年間、34カ所の営業所から必要とされる現場へ機材を届けている。

ニッパンレンタル本社(群馬県前橋市)

建設現場で使われる重機の数々。プロの手でメンテナンスされ、工事現場への搬送を待っている。その数は1万7,000台ほど

同社のサービスの決め手は、品質とスピードだ。きちんと整備、メンテナンスされた機材を確実に提供することで、広く顧客からの信頼を得ている。そこに使われているのが、同社の基幹システムを閲覧できるiPadだ。

専務取締役 経営管理部長兼総務部長である町田典久氏は、近年の建設事業全般と同社の対応についてこう語る。

専務取締役 経営管理部長兼総務部長 町田典久氏

「バブル時代の1990年代、建設投資はピークを迎え、80兆円の市場がありました。今はそれが40兆円になり、各社は生き残りの道を探っています。以前のような土地を造成して何か新しいものを作る工事は減少し、今後は老朽化したインフラの整備や維持管理、修復工事が恒常的に続いていくと弊社では見ています。そこで10年ほど前から、アスファルトの引き直しや橋梁の点検作業車などといった、維持やメンテナンスに必要な建設機械を集中的に取り入れて差別化の要素としています」(町田氏)

こうした建設機械を次々とラインアップしていき、現在は3,000種類以上、1万7,000台ほどを取り扱っている。これらは「レンタルシステム」と呼ばれる本社の基幹システムで管理されており、稼動の可否(整備場でメンテナンス中などの場合もある)やレンタル状況などがパソコンで確認できるようになっている。

経営管理部 システム課 主任 林正章氏

「IBMのAS/400(オフコン)上で『レンタルシステム』という基幹システムで管理しています。発注が営業担当者の携帯電話や事務所の電話、メールなどで来ると、担当者は事務所へ連絡し、事務員がパソコンからこのデータを参照して在庫の確認と予約を完了し、連絡を折り返すという流れでした」とオペレーションを説明するのは、経営管理部 システム課で主任を務める林正章氏だ。

こうした従来の形式に対して町田氏は、ある考えをめぐらせていた。

「取り揃えた建設機械をさらに効率よく稼動させるために、事務所のパソコンからだけでなく、営業担当者が直接、いつでもどこでも在庫を参照できる仕組みが必要と考えて、何人かの営業担当者にモバイルPCとデータカードを使ったリモートアクセスを提供していました。しかし、実際のところは起動時間やバッテリー駆動時間などの条件から、ほとんど活用されていませんでした。重機が稼動している現場で使い方を記録に残し、事例として提案に利用するという試みもしていましたが、デジカメとPCではかさばることもあり、使い勝手の面で敬遠されていました」(町田氏)

こうした状況を憂慮した町田氏は、代わるものとして、もともと個人的に所有していたiPadを何とか活用できないかとソリューションを検討していた。そこへ同社のOA機器を担当していたリコージャパン(群馬県前橋市)から提案があり、LANSA社のiPadアプリ「aXes(アクセス)モバイル」を使った社内デモンストレーションが行われた。

関東第一営業部 課長 松岡敏和氏

「aXesモバイルを使うとAS/400の画面がiPadで見やすく再現され、パソコンと同等の使い方ができるので、これはいいねということで即導入しました」と町田氏。まさにぴったりのツールだったという。また関東第一営業部で営業活動を行う松岡敏和氏も、「外でレンタルシステムが見られるのは理想でした」と、その導入を評価する。

一連の動作検証を経た後、4つの営業所を会場として説明会を兼ねた配付会で営業担当者へ手渡された。現在、87台が営業の現場で稼動している。

同社の「レンタルシステム」(左)は、在庫照会(右)や機械の稼動履歴なども参照できる。営業現場では「aXesモバイル」を使ってAS/400の画面をiPad上に再現している

「営業巡回中、車中でも業務に必要な情報を確認できるので、移動時間が有効な業務時間へと変わりました」と松岡氏。また、顧客対応の時間も短縮された。

「発注があればその場ですぐに在庫の照会ができ、お客さまへほぼ即答できるようになりました。従来なら事務所への問い合わせなど4~5分はお待たせしていた時間がなくなり、とても喜ばれています。またご請求の状況なども見られるので、お問い合わせにもすぐに対応でき、営業力が上がったという実感もあります」(松岡氏)

よりよい提案のためのツールに

同社が取り揃えている台数からも察せられるとおり、建設機械は用途別に細分化が進み、1つのカテゴリに対してメーカー3~4社が製品を提供している。このため作業、工法や施工によって最適な製品を提案することが、他社との差別化や競争力の向上につながるのだ。

「例えば地面を掘る深さや幅など、メーカーごとに異なる仕様もあるため、その発注が本当にお客さまの要求に合致した機械であるかどうか、ここを適切に判断して、お客さまが納得できる方法でご説明する、これが営業担当者の腕の見せ所です。それにはやはりカタログなどを使った客観的なデータから、お勧めの機械を提案することが有効です。iPadならメーカーのホームページやカタログPDFなどをお見せしながらご説明できるので、信頼感もぐんと上がります。また最近では動画による商品カタログなども用意されているので、機械の動作や操作方法などを分かりやすくお伝えできます。『これならこういったときに使える』という使い方のヒントとなって、新たな需要を喚起することもあります」(町田氏)

今後はデスクワークもiPadで効率的に

iPadによるレンタルシステムの利用はいまのところ参照のみ可能としているが、いずれは入力にも活用できるようにしていきたいと林氏。さらに、見積もり作成、事務処理などのデスクワークもiPad上で実施し、営業所に戻らずにすむ営業スタイルの実現に取り組んでいくという。

また現在はセキュリティへの配慮を十分にしたいということで、MDMを導入、またパスコード、SSL-VPN、そして社内システム(NotesおよびAS/400)と3段階の認証も設けている。町田氏によると、今後は現場の活用を阻害しないように、緩やかな制限に移行することも検討しているという。

「仕事だけでなく、さまざまな場面で使えるようなツールにしていきたいです。そうした自由な利用から生まれた結果を仕事につなげられればよいのですから」(町田氏)

「動画で機械を紹介できるアプリなども作りたい」とは林氏の弁。種類や動きの複雑な建設機械ゆえ、こうした細かな配慮が顧客の満足度を上げることにつながるそうだ。ますますiPadの活用は進んでいくだろう。