各種毛髪製品の製造・販売や、増毛・育毛サービスを提供するアートネイチャーは、ウィッグの販売だけでなく、日々のケア方法なども提案することで顧客の個性を生かした髪型を実現する、トータル・ヘアコンサルタント企業だ。ハンドメイドのかつらや増毛法を駆使しながら、頭髪全般の悩みに応えている。

iPad発売後、スマートフォンやタブレット端末の企業利用が徐々にメディアでも紹介されるようになった2011年の秋ごろ、アートネイチャーでもそれらを使った業務効率化の検討が始まった。

他社の事例を分析し、自社への応用を検討

iPad導入にあたり、まずは既に運用の始まっている他社の事例を研究した、とその当時を振り返るのは、執行役員 管理本部副本部長 兼 情報システム部 部長の村田勝也氏だ。

執行役員 管理本部副本部長 兼 情報システム部 部長 村田勝也氏

「特に意識したのは、アパレル業界です。一見、共通点がなさそうに感じるかもしれませんが、髪型はファッションの一部としてとても重要視されます。アパレル業界ではiPadでカタログや在庫確認を行い、素早い対応ができる店頭ツールとして使っています。弊社でもサイズや色、シーズンに合わせたものなど、洋服と同じようにバリエーションの多い製品を扱います。それぞれの製品の使い方や特性を、画像や動画を使って視覚的に説明する接客ツールとしての使い方を学ぶのに、アパレル業界の事例は参考になりました」(村田氏)

ちょうど同時期に、経営層からもスマートデバイスを使った業務効率化の検討を指示されたこともあり、同社内では導入に向けての準備が着々と進められた。社内での業務効率を向上させるだけでなく、iPadの画面の大きさを活かして、既存の頭皮チェック機材の置き換えや予約システムへのアクセス、カタログなどの顧客に画面を見せる使い方を視野に入れ、まずは店舗への導入が決まった。今では全国の約240店舗で500台ほどのiPadが活用され、訪問販売を行うカウンセラー、店舗で施術を行うスタイリスト、本社でスケジュール確認やワークフローの承認などを行う役職者を合わせると約650台が稼動している。

頭皮チェックをiPadで実現し、商機が増大

ヘアスタイリスト 折笠貴子さん

頭皮チェックには大きく特殊な機器を利用していたため、通常の接客に使う施術ブースには置けず、専用の部屋への移動が必要だった。そこが使用中であれば、終わるのを待たなければならなかったが、「iPadで頭皮チェックができるようになってからは、専用機器が使用中でお待たせするケースがなくなり、スムーズな接客ができるようになりました」と、ヘアスタイリストの折笠貴子さんはiPad活用のメリットを語る。

また、ブースを出ることを好まない顧客もおり、この点でもブース内でiPadを使って頭皮チェックができるようになったメリットは大きいという。

頭皮チェックは倍率を高めたスキャナを通して、髪の生え際を自身の目で確認できる。サービス開始当初から使っていた機器ではテレビモニターに頭皮を映し出していたが、今ではiPadで見られるため、自分の手元で鮮明な映像の確認が可能になり、改善しようという意識付けに繋がるという。

画面に映し出される髪の毛の生え際は大きく拡大しているため、少しの手振れでも映像が揺れてしまう。以前はコードでノートパソコンとスキャナを繋げていたが、iPadになってからはコードレスなので快適に映像を見てもらえるといった利点もある。

「専用機器のある部屋への移動がなくなったことで、頭皮チェックをされるお客さまの数は3倍ほどになりました。ご自身の目で実際に見ていただくことが非常に重要です。手元で鮮明な画像を見られるようになったことで、お客さまには納得感を得ていただけています」(村田氏)。

頭皮チェックをきっかけに製品を紹介する機会が増え、商機が創出できるようになった。さらに、年間で700~800万円ほどかかっていた頭皮チェック機器類の維持費が10分の1程度に抑えられ、コスト面の効果も出ている。

施術ブースで可能になった頭皮チェックの模様。手元のiPadで自分の頭皮の状態を鮮明な映像で確認できる

訪問販売時にもiPad+スキャナが活躍

顧客の「なんとかしたい」気持ちに応えてさまざまな提案を行うカウンセラーは、店舗でのカウンセリングのほか、顧客宅での訪問相談も行う。その際はノートパソコンと頭皮チェックのスキャナを持ち歩いていたが、使い勝手がいいものではなかった。ノートパソコンは持ち運ぶには重くてバッテリー容量も長くは持たず、起動に時間を要すため、準備の間はお客さまに「少々お待ちください」と言わざるを得なかったという。

「カウンセリングも人と人との会話なので、変な間があけば気持ちも冷めてしまいます。iPadを使うようになってからは、一番見ていただきたいタイミングですぐに手元でご確認いただけます。ご自宅では家族が一緒の場合もあり、みんなでお父さんの頭皮を見て盛り上がり、興味を持っていただけます」と話すのは、カウンセラーの那倉和文氏だ。

また、どんな髪型が理想的かを提案するためのヘアカタログ「スタイルブック」もiPadで顧客が閲覧できる。

カウンセラー 那倉和文氏

「何よりもiPadを一緒に見て会話しながら、表示される髪型の画像をお客さまご自身で操作できる点がいいと思います。『どんな髪型にしようかしら?』とたくさんある画像を見ているときは想像が膨らみ、会話も弾みます。最初は皆さま緊張されていますが、気持ちをほぐす糸口としてiPadが役立ちます」(那倉氏)

毛髪が生え変わるサイクルの仕組みや、頭皮環境の仕組みを説明する際もiPadを使う。アニメーションを見せながら、正しいヘアケア方法などについて的確なアドバイスを提供するものだ。言葉で説明するよりもはるかに視覚的に分かりやすく、納得したうえで今後の対策を相談できるという。

ヘアサイクルの仕組みなど説明するアニメーションの入ったチャート

 

iPadでの予約システム参照により、お待たせしない体制を構築

同社では頭皮チェックや「スタイルブック」のほかに、予約システムもiPadから操作可能にした。今までは顧客の都合のいい候補日をいくつか聞き、バックヤードにあるパソコンで予約状況を確認し、もし空きがなければほかの空いている日時をメモして顧客に再度打診して……というやりとりをしていたという。iPadで予約システムを見られるようになってからは、施術ブースを離れることなく次回予約ができるようになり、待ち時間がなくなった。

価格表についてもiPadで試算できるようにした。これまでは顧客のニーズに合わせた内容を紙の価格表で確認しながらメモを取って計算し、価格提示していた。iPadでは、顧客へヒアリングしながら見やすいサイズで配置されたアイコンをタップして選択していくと、自動で計算された価格が表示される。待たせることなく正確な情報を案内できるようになったのだ。

「ヘアチェック、価格提示、予約取り、これらすべてがiPadでできるようになり、お客さまをお待たせする時間がなくなり、円滑に接客できています」と、折笠氏も手応えを感じている。

以下は実際の利用風景を撮影した動画だ。


社員教育はiPad+動画が重宝

iPadは社員教育の場でもその便利さを発揮した。新しい育毛の施術工程をスタイリストに教える際は、動画を配信し、社内共有サーバからダウンロードしてiPadで閲覧できるようにしたのだ。

「今まで習得には1週間ほどかかっていましたが、動画になってからは2日程度で身につきます。教える時間も2時間から1時間程度に短縮しました」(折笠氏)

iPad導入前はDVDと紙の資料が配付されていたとのこと。店舗内でDVDを再生できる部屋は限られており、施術するブースとは別の部屋のため、見ながら実践はできない。従ってDVDで見たことをメモし、施術ブースに移動して紙の資料を確認しながら練習していた。

手を動かしてみると分からない点に気づき、その確認にはDVDを見るため部屋を移動する必要がある。また復習するにも同じ手間が発生する。iPadであれば常に手元で動画を確認しながら実践できるので、効率的な学習が可能になった。

教える際もiPadで再生しながら指導したあと、iPadをその場に残してほかのブースでもそこにあるiPadで教えられるため、並行しての講習が可能になり、効率化が図られた。

MDMを導入して端末を管理、BCP対策も

同社では、セキュリティ対策にも余念がない。MDM(Mobile Device Management:端末管理)を導入し、配付しているiPadには制限をかけてアプリケーションのインストールやSafariへのアクセスはできないようにしている。「iPadの基本機能であるパスワードロックはもちろん、予約確認は社内サーバのデータを参照しているだけで端末にデータは残らないので、万が一の紛失、盗難時にも情報漏えいにつながる心配はありません」(村田氏)

またBCP対策として、普段は制限している3G回線の開放も可能だ。通常はWi-Fiを経由して社内のネットワークにのみアクセスしているが、災害時や店舗のローカルネットワークに障害が出た場合などは、3G回線からもアクセスできる。

「今後は領収書、明細書へのサインもiPadで電子化できるようにしたいです」と村田氏は今後の展望を述べる。一部の事業で開始したiPadによるクレジット決済も、全店舗に導入予定だという。顧客へのサービス向上を主軸にした積極的なiPad活用は、今後も広がりを見せそうだ。