ユニアデックスは、施設保全業務向けIoTサービスとして「AirFacility」シリーズを立ち上げ、その第1弾としてトイレ施設を対象とした「AirFacility Aqua」を10月16日に販売開始した。

トイレに関するIoTサービスは各社から出てきているが、同サービスの特徴は単純な利用状況の見える化だけでなく、施設保全までをカバーしている点だ。

前回は、ユニアデックス エクセレントサービス創生本部 IoTビジネス開発統括部 IoTサービス企画部 マネージャー 椿健太郎氏に、トイレを活用したサービスが開発された経緯、同社における実証実験の結果について聞いた。

ユニアデックス エクセレントサービス創生本部 IoTビジネス開発統括部 IoTサービス企画部 マネージャー 椿健太郎氏

生産性向上やコスト削減から施設保全まで幅広くカバー

社内実験は、個室の空き状況がわかるということで、社員に好評だったという。実証実験に加わった他社事例でも、満室率が70%から63%へと下がる効果が見られた。これは働く社員にとって快適になっただけでなく、生産性向上やコスト削減という企業メリットにもつながるものだ。

「トイレの利用時間が減ったということは、業務時間が有効に使われるようになり、生産性の向上につながります。企業の規模によりますが、当社の規模であれば、年間数千万円程度の効果が出ると考えられます。また、満室率が高いタイミングを漠然と理解していたものの、実証実験で可視化できたことで一斉清掃のタイミングを業務時間前の朝から、人のいない夜間へと切り替え、清掃時間の短縮を成功させた事例もあります。こちらも清掃に従事する人の働き方改革や、コスト削減の効果があるのではないでしょうか」(椿氏)

「AirFacility Aqua」では、利用するゲートウェイにLTE回線を載せることでデータを飛ばし、遠隔把握できるサービスだ。個室の開閉検知を行い、個室稼働状況の管理を行う「ライト版」と、これに加えてトイレの施設保全データも収集・管理する「スタンダード版」が用意されている。

「AirFacility Aqua」の仕組みとデータ収集の例

「スタンダード版では給水・排水ポンプの障害通知や、トイレ施設温湿度検知、利用人数カウントなどが行えます。特に給水・排水ポンプの障害がわかることによって、利用者や清掃担当者からの報告を待つのではなく、メンテナンスのタイミングを的確に知ることができ、利用できない時間を短縮できるのが特徴です」と椿氏。このサービスは2018年からの提供予定となっている。

「AirFacility Aqua」給水・排水ポンプの障害検知実装例

利用人数の検知を行う上で、特定の個室だけ極端に使われていない状況があれば障害はなくても汚れなどの問題があるだろうということが察知できる。また、駅や公共トイレなどの場合、老朽化して使われていない施設の修繕や撤去といった大きな判断にもつながるデータの取得もできるはずだ。

「取り組み始めた頃は他に類似サービスがなかったのですが、時間をかけているうちに他社のトイレ関連のソリューションが次々と登場し、話題になりました。ベンチャーから出てくる安価なサービスと価格競争はできませんが、施設保全までカバーするサービスの内容で勝負したいですね。また、さまざまなトイレ関連IoTというソリューションの登場により、市場が形成されてきたことはよい状況だと感じています」と椿氏は語る。

IoTの大きな課題は「誰がコストを負担するか」

需要があり、導入すれば比較的わかりやすい効果が得られる。未来は明るく感じられるトイレIoTサービスだが、椿氏はこの市場がきちんと成長して行く上で大きな課題があるという。

「IoTサービスの多くに言えることかもしれませんが、誰がコストを持つのかという問題があります。企業に導入する場合、社員が快適にトイレを使えるという福利厚生からの視点と、長時間利用などを阻止して生産性向上を狙う経営からの視点があります。さらに、誰がトイレで長時間サボっているのかを把握したいという需要があれば、それは人事の視点でしょう。また設備投資になりますから、建物のオーナーが持つのか、テナントとして入っている企業や店舗が持つのかといった切り口もあります」と椿氏。

「AirFacility Aqua」で取得できるデータを活用すれば、障害を検知して対応するというだけでなく、部品の耐用年数などではなく利用回数から故障を予知して、壊れる前に計画的なメンテナンスを行うこともできるようになる。先に挙げたように、清掃タイミングを最適化することもできるだろう。さらに発展させれば、そうして収集されたデータを活用してオフィス設立時に社員数や性別の比率に合わせた適切なトイレ配置を行うことも可能かもしれない。

業界別、シーン別に役立ちそうな使い方はいくつも思いつくソリューションだが、具体的にどこがコスト負担をするのかというところで足踏みが発生する。横断的にIoT活用を考えるチームを持つ企業などでなければ、最初の一歩が踏み出しづらい状態だ。

「2020年、インバウンドが急増するタイミングに向けて公共トイレ等の見直しも行われるはずです。利用者の多い鉄道関連などでは特にニーズがあると考えています。今後はアプローチのしかたを考えて、共創・競争をしながらしっかりと市場を育てていきたいですね」と椿氏は語った。