病人のために - ストレス低減やゲノム解析にも取り組む

imecでは、ナノエレクトロニクスの医学やライフサイエンス分野への応用にも取り組んでいる。すでにストレスセンサやセルソーター(図6)などの開発にも手掛けている。ナノエレクトロニクスに基づいてシリコン基板に形成したセルソーターは毎秒2000万画像を処理して細胞を分類できる。

図6 ナノエレクトロニクスを駆使して製作したセルソーター(細胞分類装置)

図7 世界初とされる高解像度79GHz CMOSレーダーモジュール

imecキャンパスにある「ExaScience Life Lab」と言う名の研究施設では、Intelの60コアMPU「Xeon Phi」を実装したスーパーコンピュータをライフサイエンスとバイオテクノロジーの研究に適用。ライフサイエンス分野にブレークスルーをもたらすことを目指している。例えば、ゲノム解析のように長時間を要するデータ処理を高速化したり、シミュレーションを駆使して実際の実験(ウェット実験)の時間とコストを節減したりする、といった形だ。 同施設では現在、機械学習(machine learning)の研究にも本格的に取り組んでいる。

ちなみにExaScience Life Labは、imecが、Intelおよびフランダース地方の5つの大学(Universiteit Antwerp、Universiteit Ghent、Katholieke Universiteit Leuven、Universiteit Hasselt、Vrije Universiteit Brussel)と共同で、2013年にベルギーのルーベン郊外にあるimecキャンパス内に設置した研究施設で、世界有数の製薬企業であるベルギーJanssen Pharmaceutica(米Johnson & Johnsonグループ)も参画している。imecの医学関連組織としてはこの他、「Neuroelectronics Research Flanders(NERF:フランダース脳神経電子工学研究所)」がある。2009年にベルギー・フランダース・バイオテクノロジー研究機構(VIB)、ルーベン・カトリック大学(KUL)と共同で設立した施設で、ヘルスケアにとどまらず、医学に踏み込んだ研究にも力を入れている。

子供たちの未来のために - 持続可能な環境を整備する

多くの人々のストレスの原因である交通問題解決のために、世界初となる低価格・高解像度79GHz CMOSレーダー(図7)を開発したほか、ハエの複眼やイルカの超音波聴力にヒントを得た、光や超音波をセンシングできる3次元スキン(人工皮膚)を開発中だ。

持続可能な環境を次代を担う子供たちに残そうと、固体リチウムイオン電池や太陽電池をはじめとする再生可能エネルギーの研究に注力している。 食糧問題の解決を託された農業分野では、ハイパースぺクトル・イメージセンサを用いた土壌モニタリングに関する研究も進めており、子供たちが成人したころに予測される食糧危機の問題を回避したいとする。

I2oT実現のためのインフラとして、半導体デバイスの微細化技術に関する研究にも引き続き力を入れる。I2oTの実現に向けては、ウェアラブルセンサから高性能サーバにいたる、さまざまな用途のニーズを満たす半導体デバイスが要求されるからだ

imecはかねてより、7~5nmプロセス世代に向けたCMOSロジックデバイスやナノワイヤFET、次世代超高速不揮発性メモリ、3次元実装、EUVリソグラフィ、ポストCMOSデバイスなど、さまざまな半導体開発に取り組んできた。すでに5nmテストチップのテープアウト(設計完了)も行い、微細化の最先端を走っている

ちなみにimecでは、最近、半導体微細化の研究を、スマートリビング実現のためのIoTのインフラストラクチャとして位置付けている。今回のフォーラムでも半導体プロセス開発担当SVP An Steegen氏の微細化プロセスや次世代デバイスに関する講演のタイトルは「Infrastructure of IoT」となっていた。imecの研究方針の徹底ぶりには驚かされる。

7~5nmプロセス対応クリーンルームが2016年2月に竣工

現在imecは、既存の300mmクリーンルームに隣接して"450mm-ready"のクリーンルーム(床面積4000m2)を増築中で、2016年に竣工する予定である(図8)。450mm-readyとは、450mmウェハ対応の大きく重い製造装置を設置できるように設計されているが、当面は7~5nm向け300mm装置を設置する。新しい材料/構造を用いた7~5nmプロセスの開発にも万全を期している。

図8 imecの4000m2拡張クリーンルーム(左側の白い建物)の完成予想図。もともと450mmウェハプロセス用に計画されたものだが、当面は300mm基板での7~5nmプロセス開発に使用される。左側の背の高い建物は、新しい本部事務棟(imecタワー)