英IHS Markit主催の「第37回 ディスプレイ産業フォーラム(2019年下期版)」が2019年7月25~26日の2日間にわたって開催された。本連載では、同フォーラムの講演内容を元に、日ごろディスプレイおよびアプリケーション市場動向を調査分析している各分野の専門アナリストが語った2019年7月時点での現状分析と今後の見通しを抜粋して紹介したい。

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    図1 IHSディスプレイ産業フォーラムの会場の様子(著者撮影)

ディスプレイ業界の10大注目点

フォーラム冒頭のFPD産業総論セッションにおいて、IHS Markitのディスプレイ部門シニアディレクタを務めるDavid Hsieh(謝勤益)氏は、ディスプレイ業界の10大注目点を以下の通り示した。

  1. 2020年以降5年間のディスプレイの面積ベースの前年比成長率は、以前の予測よりもやや高くなるだろう。もしも、テレビの年平均画面サイズ成長率(2007年から2025年まで毎年1インチ増予測)が予測より高くなるようなことがあれば、面積ベースのディスプレイ成長率はさらに高くなろう。なお、2019年については2億2700万m2へとやや下方修正した(図2)。
  2. 中国では政府の補助金で新たなディスプレイ工場が続々建設中で生産能力をさらに上げ続けるだろう。しかし、2021年以降そのペースは遅くなるだろう。中国の負債が巨額になり国内経済を圧迫すすることが予想されるためである。
  3. 米中貿易戦争の影響、中国の経済発展のスローダウン、パネル在庫の蓄積、中国の新たな生産能力の増加 はすべてディスプレイ供給過剰の原因となるだろう。
  4. 古いTFT LCD製造ラインは2018年から2022年にかけて閉鎖や他へ転用され始めているので、世界的に生産能力がやや低下するだろう。しかし、2022年から2023年にかけて新たな設備投資が始まるだろう。中国の投資は一服するかもしれないが、けっして止まるわけではない。
  5. 2018年から2020年にかけて供給過剰になる。2019年が一番ひどい。2021年も供給過剰となろうが2022年については不明で、新たな投資が期待される。LCDか有機EL(OLED)かによらずクリスタルサイクル(半導体におけるシリコンサイクルに相当)は存在し続ける。
  6. 2025年のディスプレイ産業規模はLCDが710億ドル、OLEDが490億ドルの合計1200億ドルと予測している。OLED は今後も伸び続ける。
  7. スマートフォンへのOLED採用はハイエンドにとどまっている。フレキシブルOLEDが普及するにコスト低減が必要である。
  8. 中国のOLEDメーカーは成長してきているが、様々な課題を抱えている。デザインインはうまく進んでいる。
  9. 新しい形のモバイルディスプレイがディスプレイ産業に変化をもたらしている。今年は折り畳み式が話題となっているが将来はロール式や伸延式などが登場するだろう。
  10. いくつもの新技術が商用化されつつある。LEDバックライト、マイクロLEDディスプレイ、折り畳み式ディスプレイ、ゲーム用ディスプレイ、スリムベゼルLCDビデオウオール、デュアルセル、インクジェットプリンティングRGB OLEDなどである。LCDおよびOLEDの各種技術が研究開発から量産、成熟に至るどの段階にあるか図3に示す。
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    図2 ディスプレイの長期予測(面積ベース、百万平方メートル)。表の下段が今年年初の予測、上段が今回の予測 (出所:IHS Markit)

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    図3 新しいディスプレイ技術が研究から量産、成熟に至るどの段階にあるかの位置づけ (出所:IHS Markit)

Hsieh氏は最後に、ディスプレイ各社の業界内位置づけについて、大面積LCD/OLED分野では韓LG Displayがトップシェアを握っているが、中BOEが急速に追いつこうとしている。中小ディスプレイ分野では、韓Samsung Displayがトップだが、中BOEや中Tianmaが追い上げてきている」と述べた。

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    図4 大型(左)及び中小型(右)LCD/OLEDマーケットシェア (縦軸:数量シェア、円の大きさ:売上高シェア)。矢印はシェア拡大および下落傾向を示す (出所:IHS Markit)

一方、IHS Markitの中国市場担当アナリストのRobin Wu氏は、「中国勢は過去10年にわたり設備投資を続けてきており2024年には、G6よりも巨大なファブの生産能力が世界の過半を占めるたろうが、建設ラッシュは今後1~2年のうちに小休止するだろう」と述べた。中国勢は2017年に韓国勢を抜き、差をつけながらトップ独走態勢である。日本勢はシェア4~5%で低迷している。

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    図5 国別生産能力(数量ベース)シェア。G6より大きな世代で中国勢は2017年に韓国勢を抜いて以来、毎年差を広げてトップを独走している (出所:IHS Markit)

韓国市場担当シニアディレクタのYoonSung Chung氏は、「韓国のSamsung DisplayとLG Displayは互いに激しく競争して成長してきており、それぞれの分野で業界トップの地位を確保している。しかし、中国勢の猛攻で韓国勢は弱体化しており、いずれ生か死かの選択を迫られることになろう。今後は、互いに助けあって生き残る必要がある」と指摘する。

また、日本・台湾市場担当プリンシパルアナリストLinda Lin氏は、「台鴻海精密工業グループは、シャープが技術サポートし、台Innoluxがロジスティックスを担い、Foxconnが中国のマーケットスケールを活用してビジネスに注力し、米国ではハイエンドディスプレイに専念するというような形で分担した業務をうまく集積できれば、デイスプレイビジネスでさらに強みを発揮できる」と提案した。

さらにIHS Markitディスプレイ需給バランス調査担当シニアディレクタのChaeles Annis氏によると、各社の大型ディスプレイパネルの利益率は2019年第1四半期から赤字となっており、黒字転換は2020年後半以降になる見込みであるという(図6)。「クリスタルサイクルは下降局面にあるため、2019-2021年の業界天気予報で、多くの項目(メーカー財務状態、生産能力、稼働率、在庫レベルなど)が曇りか雨であるなかで、製造装置市場だけは、中国でのファブ新設計画のおかげで「晴れ」である」としている。

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    図6 大型TFT LCDパネルの利益率の推移および予測 (出所:IHS Markit)

(次回は8月7日に掲載します)