地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒やしてくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方のものを食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

今回のテーマは滋賀県です。北は福井県、西は京都府、南は三重県、東は岐阜県に接する内陸の県になります。日本地図をよく見ると、実はほぼ真ん中あたりに位置します。

琵琶湖で獲れる海鮮や近江牛を使った料理が並ぶ

  • ブランド牛「近江牛」

なんといっても有名なのは、県の面積の1/6を占める日本最大の湖、琵琶湖ですね。琵琶湖で獲れる恵みは滋賀県の食文化にも大きな影響を与えています。歴史的には、彦根城や織田信長で知られる安土城は琵琶湖の東岸に位置します。ほかにも近江は多くの武将にゆかりのある土地で、あとは忍者(甲賀忍者)。たぬきの焼き物で有名な信楽焼きの生産地、信楽も滋賀県です。

  • 「ここ滋賀」さんの奥の階段から2階へ上がった先にある店です

今回は、日本橋にある「滋乃味」さんにお邪魔しました。地下鉄「日本橋駅」すぐ、高島屋の横にある滋賀県のアンテナショップ「ここ滋賀」さんの上に併設されたレストランです。

  • 木材が多く使用された店内

店内はガラス張りの明るい雰囲気で、永代通りと中央通りが交わる日本橋交差点の風景を眺めながらリラックスした時間を過ごせます。席数はカウンター6席と、テーブル席30席。うち14席は半個室にもなるので、会食にも利用しやすいお店さんです。

日本最古のお寿司「鮒ずし」を提供!

最初にいただいたのは「魚治の鮒ずし」(1,800円)です。琵琶湖で獲れるニゴロブナというフナを塩漬けにして、さらに炊いたお米と一緒に漬けたもので、現存する日本最古のお寿司といわれています。メニュー名にある「魚治」とは滋賀にあるお店の名前で、創業230年以上の鮒ずし作りの老舗なんだそうです。

  • オレンジの卵の部分が映える「魚治の鮒ずし」

お茶漬けにするような食べ方もあるそうですが、今回は切り身でいただきました。なんとなく酒粕漬けか、押し寿司のようなイメージだったのですが、味の方向性はそのどちらとも違って、乳酸発酵の酸味と、強めの塩味が口の中に広がります。なかなかのインパクトです。

モグモグしていると、じんわりと熟成され濃縮された魚の旨味が広がります。酸味のせいか塩味のせいか、とにかくめちゃくちゃ唾液が分泌されているのがわかります。そこに日本酒を流し込むと、口の中の香りと相まって鼻に抜けていきます。これはクセになりそう……。

横に添えてある白いものは「飯(いい)」といって、フナと一緒に漬かっていたお米だったもの。原型はなくクリームに近い状態で提供されます。昔は食べていなかったそうですが、発酵食品として健康にいいということで、近年見直されているんだそうです。口に運んでみると、ピリピリとした酸味はありますが、濃厚な味と舌触りはまるでチーズのようです。お酒よりどちらかといえばワインと一緒に、という気持ちにさせてくれます。

ちなみに鮒ずしは、匂いが苦手という人も多いみたいですが、作り手によって味もかなり差が出るものらしいので、好きな鮒ずしに出会えたら幸せかもしれません。魚治さんのものは食べやすく感じました。店長さんは「子どものころに食べた印象で苦手意識を持っている人が多いので、そういう人は、再度トライしてほしい」と教えてくれました。確かに大人の味ですし、お酒を覚えてからでないとハードルが高いのかもしれません。

お次にいただくのは「炊き赤こんにゃく」(600円)。三二酸化鉄という添加物を使うことで赤くなっているコンニャクだそうです。発祥は琵琶湖の東岸にある近江八幡とされていますが、現在は広く滋賀県全域で食されています。織田信長が普通のコンニャクは地味なので、派手な色のものを作らせたという説もあります。

  • 信楽焼の器との色合いがきれんな「炊き赤こんにゃく」

食べてみると油っぽくない、きんぴらのような味わい。みりんの甘さが感じられます。コンニャク自体は、レバーみたいな赤黒さのわりにクセもなく、味も食感も馴染みのコンニャクと大差はありません。ただ鉄分を多めに含んでいるので栄養素は通常のコンニャクよりも高いんだそうです。山椒の葉っぱと一緒にいただくと、フレッシュな香りがなんとも芳しく恍惚としてしまいます。

味噌に漬けた「近江牛」が味わえる

続いて登場したのは「近江牛の味噌漬け焼き」(3,800円)です。日本三大和牛のひとつ、近江牛です。その歴史は古く、江戸時代に将軍家や徳川御三家に、「反本丸(へんぽんがん)」という薬として味噌に漬けた加工肉を献上していたという記録も残っています。

  • 良い焼き色の「近江牛の味噌漬け焼き」

口に入れるとやわらかい味噌の風味と和牛特有の甘い香りが体温に反応して溶け出すように広がっていきます。それでいて不思議とくどくない。脂の質のせいでしょうか。火加減もほどよくレア感が残っていて、語彙が貧弱になるくらいおいしい! こんなお薬ならいくらでもいただきたいものです。

そのままのお肉をしっかり堪能したら、添えてある胡椒、山椒、お味噌でもいただきます。なかでもお味噌は唐辛子が混ぜ込まれてあり、濃厚な中にピリ辛感が刺激的でこれだけでもはやおつまみとして成立します。お酒がよりおいしくなりますね(笑)。

添え物は芽キャベツと舞茸。この舞茸は滋賀で栽培している「もみじまいたけ」というそうですが、相当においしい。香りも旨味も最高で、添え物にしておくのはもったいない。これだけでも山盛り食べたい。思わぬ伏兵に筆者もニッコリです。

そして最後にいただいたのは「鯖そうめん」(1,100円)です。滋賀県北部の長浜市を中心に食べられる郷土料理だそうで、専門店もあるというからそれなりの知名度のよう。

その昔、福井県小浜から京都に向けて海産物が輸送されたルート「鯖街道」の途中に位置する滋賀県北部が発祥とされています。田植えなどで忙しくなる5月に、農家へ嫁いだ娘を親が気遣い、サバを届ける「五月見舞い」という習わしがあったそうで、元来その時期に食べるものだったようです。

  • 肉厚のサバが目を引く「鯖そうめん」

そうめんにほぐしたサバが絡めてあり、さらにその上に焼いたサバが豪快に乗っかっています。サバとそうめんともにメインの味はみりんと醤油で甘塩っぱい感じですが、サバはより塩味が強く旨味があるので、一緒に食べるとサバの旨味が引き立ち、ご飯がススムならぬ、そうめんがススム(笑)! 意外性のある組み合わせでしたが、これはおいしい。

そしてここにも山椒。しかも大量に。ちょっと切り身のサバを端によけて、山椒と混ぜて食べるとなんとも爽やかな香りが広がります。魚で、油も抑えめなので、どこかヘルシーな和風タンタンメンといった感じ? サバの切り身も結構大きいのでかなり食い出のある一皿でした。

県内33蔵の酒をそろえる

  • 1回5杯ペースでも6回来店して余りある地酒の充実度

「日本橋 滋乃味」さんでは、滋賀県にある33の蔵元の地酒を取りそろえています。なかには通常の流通には乗っていないレアなものもあるというさすがの品ぞろえです。

今回は、東京と滋賀にゆかりのあるお酒として、滋賀県草津市の蔵元・太田酒造さんの「道灌」をオススメいただきました。なんでも蔵元さんが江戸城を築城した太田道灌(どうかん)の子孫なんだとか。やわらかいお米の旨味や香りと、爽やかな後味が印象的。どんな料理とでも合わせることができるおいしいお酒でした。

ゆかりある日本橋に4年前にオープン

  • 店長の藤内勝宏さん

「日本橋 滋乃味」さんは、開業4年目。創業家ゆかりの地である滋賀県「高島市」にちなんで名付けた大手百貨店「高島屋」さんや、滋賀県近江八幡に本家を構える、「ふとんの西川」でなじみ深い「西川」さんなど、滋賀県にゆかりのある企業が多く集まっている日本橋の地にオープンしました。お店の食器の多くは信楽焼きで、のれんやイス、果ては店長さんの羽織まで滋賀の工芸品や原料を使ったものでそろえられています。

店長の藤内勝宏さんは、「京都にも近くの歴史ある食文化を持つ滋賀の産品の魅力を伝えつつ、オフィスで働く女性にも喜ばれるようアレンジされた料理もそろえました」と話してくれました。歴史ある場所で古くて新しいものに出会える「滋乃味」さんへ、ぜひきゃんせ!

<店舗情報>
「滋乃味」
住所:東京都中央区日本橋 2-7-1 2F
営業時間:【平日】ランチ11:30~14:30、ディナー17:00〜22:00【土日祝】ランチ11:30〜16:00、カフェ14:00〜17:00、ディナー17:00〜21:00
※新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、営業時間を変更しています。
【ランチ】11;30〜16;00 【ディナー】16;00〜21;00で営業中。新の状況はWEBサイトをご確認ください。
定休日:なし


取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)