長崎県にある「軍艦島」って知っていますか? "軍艦を作っていた島"ではなくて、形状が軍艦に似ていることからそのような通称で呼ばれている島です。正式には端島(はしま)と言います。崩れそうなマンション群が密集して立ち並ぶ威容は、昨今の廃墟ブームでも脚光を浴びていますね。その「軍艦島」は、世界遺産の候補地となっています。

日本海軍の戦艦「土佐」に似ているとして軍艦島と呼ばれました

軍艦島には日本初の高層鉄筋コンクリートも

筆者は映画「007 スカイフォール」を観た時に、ダニエル・クレイグが演じるジェームズ・ボンドと悪役が対峙するシーンで、現実のものではないような不思議な風景だなあと思ったのですがそれが軍艦島でした。「進撃の巨人」の実写版映画のロケ地ともなっているので、作品の世界観がどのように表現されるのか楽しみです。

東京ドームのグラウンドおよそ5個分しかない小さな島なのですが、ここで石炭が発見され、最盛期には5,200人もの人々が住んでいたそうです。なんと世界一の人口密度を誇りました! 居住地がとても狭いことから、日本初の高層鉄筋コンクリートが建てられたのです。

ゴーストタウンと化した高層マンション

冒頭で述べた世界遺産の候補地と言うのは、"廃墟で絵になるから"ということではありません。幕末から明治にかけて日本の重工業分野の近代化を担った産業遺産、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連遺産」のひとつとしてです。

調査は9月26日から10日間実施

熊本県の万田坑。かつてここで40年働いたというガイドさんが坑道にもぐる恐怖を語ってくれました

10日ほど前に、この遺産を諮問機関が現地調査に訪れる日程が発表になりました。その諮問機関はイコモスといって、文化財の保存方法に詳しい専門家で構成されるNGOです。調査期間は9月26日から10月5日の10日間に及びます。ずいぶん長いなあ、という印象です。 今年世界遺産に登録された『富岡製糸場と絹産業遺産群』の現地調査が昨年行われた時には、わずか2日間でした。それもそのはず、「富岡」の構成資産が4物件であるのに対して、「明治日本」は23の構成資産が8県11市にまたがって点在しているのです。ちなみにその8県とは、九州(福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、鹿児島県)・山口県に加え、静岡県や岩手県を含みます。調査員は、これらの全てを回ります。

これまでに世界遺産登録された日本の遺産には2県や3県にまたがるものもありますが、いずれも隣り合った県でした。静岡県や岩手県は九州・山口からずいぶん離れていますが、同様の歴史的背景をもつ構成資産があるとして、この遺産に含まれています。世界遺産は、必ずしも隣接した地域でなくとも、文化や歴史的背景、自然環境などが共通する資産を、ひとつの遺産として登録することがあるのです。こうした遺産を「シリアル・ノミネーション・サイト」と言います。

現地調査がニュースになりにくいワケ

現地調査は、その遺産が世界遺産にふさわしいのかどうかということを評価する業務のひとつであり、日本からユネスコに提出された推薦書の記載内容について調査員が確認する作業です。この調査結果は登録に大きく影響します。迎える政府や自治体にとっては、現地で直接説明できる唯一の機会です。調査員の印象を少しでもよくするために、事前に調査地を整備したり余計な看板を撤去したりすることもあります。

調査員がどのような感想をもったのか、というのは非常に気になるところですが、マスコミは調査員との接触、取材を禁じられているため感触がつかめません。調査時の様子は、決められた場所で調査員の声が届かない位置からのみ撮影が可能なので、あまりテレビ向きの話題ではないのかもしれません。ともかく、ニュースをよく見ていれば、調査員を望遠で狙ったわずかな時間の映像が流れることと思います。

「明治日本」には軍艦島のほかにも、長崎市のグラバー邸や鹿児島市の集成館(島津家の名園、仙巌園の隣接地にあります)、山口の萩城下町といった観光名所が含まれています。ほかにはすでに閉坑となった炭坑跡や、八幡製鉄所や長崎造船所といった稼働中の工場なども名を連ね、多岐にわたった構成資産からなります。

長崎市の人気の観光スポット・グラバー邸。グラバーは明治維新の陰の立役者とも言われています

ただそれは逆の見方をすれば、各資産に共通する遺産価値が分かりづらい、ということにつながるかもしれません。さて、オーストラリアからやってくる調査員の目には、どのように映るでしょうか?

■暫定リストデータ: 明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連遺産(文化遺産)
明治期の重工業(製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業)の発展を示す産業遺産。日本の近代化は、幕末における西洋技術の導入以来、非西洋地域で初めて、かつ極めて短期間のうちに、飛躍的な発展を遂げたという点において、世界史的にも特筆されるべき価値がある。そうした日本独特の産業革命のプロセスを証明する資産群である。

筆者プロフィール : 本田 陽子(ほんだ ようこ)

「世界遺産検定」を主催する世界遺産アカデミーの研究員。大学卒業後、大手広告代理店、情報通信社の大連(中国)事務所等を経て現職。全国各地の大学や企業、生涯学習センターなどで世界遺産の講義を行っている。

世界遺産検定とは?

世界遺産の背景にある歴史、文化、自然等の理解を深め、学んだことを社会に還元していくことを目指した検定。有名な観光地のほとんどは世界遺産になっているため、旅の知識としても役立つと幅広い世代に人気。
主催:世界遺産アカデミー
開催月:3月・7月・9月・12月(年4回)
開催地:全国主要都市
受検料:4級2,670円、3級3,900円、2級5,040円、1級9,250円、マイスター1万8,510円、3・4級併願6,060円、2・3級併願8,220円
解答形式:マークシート(マイスターのみ論述)
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その他詳細は世界遺産検定公式WEBサイトにて