九州以外にお住まいの方、「島原」ってどこにあるかご存知ですか? 場所ははっきり分からないけど、雲仙とか普賢岳なら聞いたことがあるという人は多いのでは。その一帯が島原(島原半島)です。その島原半島の南に位置する、人口5万人の南島原市から2年後に世界遺産が誕生するかもしれず、いま地元では準備に追われています。

まだ整備が途中段階の日野江城跡

その世界遺産とは、2016年に世界遺産登録を目指している「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」です。つい先日、この世界遺産登録を見据えた講演を行うために、南島原市を初めて訪問しました。この地で世界遺産候補となっているのは、「日野江(ひのえ)城跡」と「原城跡」の2つの城跡です。

教会「じゃない方」の構成資産

……「教会じゃないの?」「城の中に教会があったの?」ぶっぶー、違います。つまり、南島原の城跡は遺産名の「キリスト教関連遺産」の部分です。はっきり言いましょう、「じゃない方」です。「じゃない方芸人」と言ったりしますが、その「じゃない方」なんです。この遺産はよく「長崎の教会群」と省略されます。構成資産が教会からなると思うのは当然ですし、実際、長崎市の「大浦天主堂」などの教会の方が知名度はずっと高いと思います。

「じゃない方」、日本の世界遺産を思い起こしてみると、ちょいちょいあるんです。『富岡製糸場と絹産業遺産群』、『琉球王国のグスク及び関連遺産群』などなど。富岡製糸場や首里城以外の構成資産が思い当たる人はあまりいないと思います。でももちろん、「じゃない方」にも、しっかりとした遺産価値があるのですよ。

日本におけるキリスト教の歴史

「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は、日本におけるキリスト教の伝来と繁栄、迫害と弾圧、隠れキリシタン潜伏と復活の450年の歴史を物語る遺産群です。では、なぜ城跡が関係するのか。

日野江城は、江戸時代末期にキリシタン大名が城主となったことで西欧からキリスト教文化が入ってきて、それはそれは繁栄しました。城下町には、セミナリヨといわれる中等教育機関が作られ、そこで学んだ伊東マンショらが「天正遣欧少年使節」としてローマに派遣されています。

原城跡に残る天草四郎の像が胸を打ちます

しかしその後、徳川幕府はキリスト教信仰を禁じました。禁教に反発を覚えるキリシタン達が起こした一揆が、かの有名な1637年の「島原の乱」です。その時、3万7,000人もの農民たちが天草四郎の下に集結して、原城に立てこもったのでした。つまり、この2つの城跡があってこそ、日本におけるキリスト教の繁栄(日野江城跡)と迫害(原城跡)が示されるのです。

南島原に教会がないのは分かった、ところでさぞや立派な天守閣や御殿が残っているのだろうね、と期待していくと痛い目をみます。建物は一切残っていないのです。各藩で大名の居城以外は破却する「一国一城令」が発布されたことで、廃城となってしまいました。原城にいたっては、日本でもっとも原型をとどめていない城と言われるくらいに、幕府から徹底的に壊されてしまいました。

建物が残っていないのに世界遺産になるの? と思うかもしれませんが、遺構が残っており、歴史的にもそこで起こった出来事がきちんと立証されるならば、世界遺産に登録されている物件はいろいろあります。奈良の平城宮跡や、平泉の寺院跡もそうです。

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南島原の観光資源って?

原城跡はその悲劇が日本人の胸を打つことから、歴史マニアの間ではかなり知られた存在でした。島原のバスツアーでも比較的組み込まれています。もし世界遺産に登録されれば、歴史マニア以外や外国人の訪問数も増えるかと思います。そういう人たちを今後どう受け入れていくか、自治体や現地ガイドのみなさんは知恵を絞って考えているところです。

天神イムズで展示されているD51。これが段ボールとは驚き

交通の便は決していいとは言えないのですが、イルカウォッチングや手延べそうめん大引き体験(そうめんは全国第2位の生産量!)、蔵めぐり、民泊など、城跡以外にもいろいろ楽しめそうな観光資源があります。そうそう、南島原在住の方で原寸ダンボール模型を作っている方がいて、現在福岡県の天神イムズで展示中です(本日8月11日まで)。将来的には東京まで巡回するとのことなので、南島原から世界遺産が誕生するという夢を乗せて、いろんなところにやってきてくれると思います。

今回の訪問ですっかり南島原ファンになってしまったわけですが、世界遺産登録というのは、必ずしも「光」の部分だけではありません。登録に伴うデメリット「影」の部分も少なからず存在することは、今回の講演の中でもお話しました。それでも、住民のみなさんが前向きに登録に向けて頑張っていらっしゃる姿を拝見して、心から応援せずにはいられません。

さて、今週末はお土産で買ってきた日本酒を一杯やりながら、そうめんをつるっと味わうことにします。ふふ、うらやましくさせちゃいましたか?

暫定リストデータ:長崎の教会群とキリスト教関連遺産(文化遺産)
長崎県。2007年暫定リスト記載。ポルトガルとの貿易港として開かれた長崎は、キリスト教の伝来以降、日本におけるキリスト教布教の拠点として栄えた。450年に及ぶ日本と西洋の価値観の交流の中で生じた、日本におけるキリスト教の伝播と浸透のプロセスを示す遺産群。長崎市の「大浦天主堂」などが含まれる。

筆者プロフィール : 本田 陽子(ほんだ ようこ)

「世界遺産検定」を主催する世界遺産アカデミーの研究員。大学卒業後、大手広告代理店、情報通信社の大連(中国)事務所等を経て現職。全国各地の大学や企業、生涯学習センターなどで世界遺産の講義を行っている。

世界遺産検定とは?

世界遺産の背景にある歴史、文化、自然等の理解を深め、学んだことを社会に還元していくことを目指した検定。有名な観光地のほとんどは世界遺産になっているため、旅の知識としても役立つと幅広い世代に人気。
主催:世界遺産アカデミー
開催月:3月・7月・9月・12月(年4回)
開催地:全国主要都市
受検料:4級2,670円、3級3,900円、2級5,040円、1級9,250円、マイスター1万8,510円、3・4級併願6,060円、2・3級併願8,220円
解答形式:マークシート(マイスターのみ論述)
申し込み方法:インターネット又は郵便局での申し込み
その他詳細は世界遺産検定公式WEBサイトにて