前回は、世界遺産業界にとって年に一度の最大のイベント「世界遺産委員会」の仕組みをお話しました。そこでいきなりですが問題です! 現在世界遺産条約を締約している国は191カ国。そのうち、世界遺産を保有している国は161カ国です。ではその中で、今年の世界遺産委員会で初めての世界遺産が誕生した国はどこでしょう?

今年は、総数2,000とも言われるパゴダが立ち並ぶ「バガン」がある国に世界遺産が誕生しました

雲をつかむような話ですね。では質問を変えます。カンボジアの「アンコール・ワット」、インドネシアの「ボロブドゥール寺院」と並ぶ世界三大仏教遺跡「バガン」を有し、世界遺産登録を目指していた国はどこ?

初の世界遺産は有名なバガンではなく……

答えはミャンマーです。ただ、世界遺産登録となったのはバガンではありません。その規模や壮麗さから世界遺産登録が期待されているのですが、近隣のゴルフ場や舗装道路の建設などが問題視され、過去に登録延期となったことがあります。バガン以外にも、ミャンマーは豊富な歴史的建造物や自然環境を持っています。しかし、かつては軍事政権下で保全が不十分であったり、国際社会からの干渉を敬遠してきたことなどから、長らく世界遺産がひとつもありませんでした。

ミャンマーは2011年に軍政から民政に移管され、国際社会に大きく開かれつつありますが、そのことが今回の世界遺産登録にも少なからず影響を与えたように思います。登録された『ピュー族の古代都市群』は、ミャンマーの基礎を築いたとされるピュー族の、紀元前2世紀から紀元後9世紀頃にわたって繁栄した王国の跡地です。

世界遺産に登録されるということは、国をあげてきちんと保護していくことが求められます。それは同時に、ミャンマーがユネスコや適切な国際的な支援を得ながら、他国の保護のあり方を学んでいくことにもつながるでしょうし、同国の今後の世界遺産登録が前進していくかもしれません。まずは、ミャンマーからの世界遺産リストへの仲間入りを祝福したいと思います!

「道の遺産」も2件仲間入り

今年の新規登録物件の中にはほかにも注目株がいろいろありまして、シルクロードやインカの道など、「道の遺産」と言われるものが2件増えました。日本にもあるんですよ、「道の遺産」として早々に登録されていた物件が。奈良県、三重県、和歌山県にまたがる『紀伊山地の霊場と参詣道』です。なお、今回登録された2件は、いずれも複数の国で共同登録した「トランスバウンダリー(国境を超えた)・サイト」と言われるものです。

中国とカザフスタン、キルギスの共同登録にによる「シルクロード」

また、イスラエルが隔離壁を築こうとしている土地が、パレスチナの世界遺産となったことも大きな話題となりました。イスラエルとパレスチナの戦闘が激化しているニュースが日々飛び込んできて痛ましい限りですが、この世界遺産登録ももしかしたら何かの火種になってしまうかもしれません。国際ニュースを視聴する際、少し頭の片隅にでもとどめておいてもらえればと思います。

「危機遺産」も年々増えている

『ポトシの市街』は セロ・リコ鉱山での無秩序な採掘が問題視されました

ところで、世界遺産委員会では、世界遺産の新規登録物件を決定するだけではありません。「危機遺産」という言葉は聞いたことがあるでしょうか? これは、本来持っている価値が危機的状況に直面しており、緊急に保護する必要がある世界遺産のことです。毎年危機遺産の見直しも行われており、新たに登録されるほか、逆に状況が改善したとして解除されたりしています。今年は、ボリビアの『ポトシの市街』など3件が危機遺産に登録されました。残念ながら年々増えており、現在の危機遺産の合計は46件です。

委員会ではほかにも、すでに登録されている世界遺産の保全状況の報告や、世界遺産条約履行に関する諸事項の見直し、世界遺産が抱える課題について話し合うなど、10日あまりの短い期間の中で様々なことが行われています。

2回にわたって世界遺産委員会についてお伝えしてきましたが、現在の国際社会が抱える課題が世界遺産にも投影されている状況が、皆さんにもだんだん見えてきたのではないでしょうか。なんだか社会派なコラムになってきましたね。「もっと柔らかい話がいいんだけど」という方、ご安心ください! そのうち筆者お得意の「パワースポット」とか「都市伝説」「秘密結社」あたりが炸裂すると思います(笑)。

筆者プロフィール : 本田 陽子(ほんだ ようこ)

「世界遺産検定」を主催する世界遺産アカデミーの研究員。大学卒業後、大手広告代理店、情報通信社の大連(中国)事務所等を経て現職。全国各地の大学や企業、生涯学習センターなどで世界遺産の講義を行っている。

世界遺産検定とは?

世界遺産の背景にある歴史、文化、自然等の理解を深め、学んだことを社会に還元していくことを目指した検定。有名な観光地のほとんどは世界遺産になっているため、旅の知識としても役立つと幅広い世代に人気。
主催:世界遺産アカデミー
開催月:3月・7月・9月・12月(年4回)
開催地:全国主要都市
受検料:4級2,670円、3級3,900円、2級5,040円、1級9,250円、マイスター1万8,510円、3・4級併願6,060円、2・3級併願8,220円
解答形式:マークシート(マイスターのみ論述)
申し込み方法:インターネット又は郵便局での申し込み
その他詳細は世界遺産検定公式WEBサイトにて