2019年5月1日に新元号「令和」がはじまり、4月30日に幕を下ろした「平成」。この連載では「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第22回は「平成22年(2010年)」。

※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。

平成22年(2010)は、2月にバンクーバー冬季五輪が開催され、フィギュアスケート女子シングルの浅田真央、スピードスケート男子500mの長島圭一郎、女子チームパシュートが銀メダル、フィギュアスケート男子シングルの高橋大輔、スピードスケート男子500mの加藤条治が銅メダルを獲得した。

3月には、NHKが朝ドラの開始時間を8時15分から8時に移動したほか、『あさイチ』がスタート。夕方帯では、日本テレビが『news every.』、TBSが『Nスタ』をスタートさせた。6月にはサッカーワールドカップ南アフリカ大会が行われ、日本代表は予選リーグを突破。7月には大相撲野球賭博問題が起きて史上初のテレビ中継中止、10月には『めざましテレビ』(フジテレビ系)の高島彩アナが番組を卒業した。

バラエティでは、『ザ・イロモネア 笑わせたら100万円』(TBS系)、『エンタの神様』(日テレ系)、『爆笑オンエアバトル』(NHK)、『爆笑レッドカーペット』(フジ系)が終了し、『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)が10年の節目でいったん終了。一方で、『嵐にしやがれ』(日テレ系)以外は現在も続くヒット番組は誕生せず、不作の一年に終わった。

ドラマのTOP3には、生き様を考えさせられた作品を選んだ。

※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。

■低迷期を脱出した朝ドラの転機

3位『ゲゲゲの女房』(NHK、松下奈緒主演)

松下奈緒

松下奈緒

2000年代の朝ドラは絶不調で、何度となく「限界説」「打ち切り説」が流れていた。そこでNHKは朝ドラの放送開始時間を8時15分から民放ワイドナショーと同じ8時に変え、原点に戻るような主婦の物語を選び、前作『ウェルかめ』から全話平均視聴率を約5%も上げるなど、復活の足がかりをつかんだ。

なかでも脚光を浴びたのは、主人公・布美枝のヒロイン像。背の高さがコンプレックスで縁談を断られ、29歳まで独身生活を送るなど地味で冴えない女性像だったことに驚かされた。さらに特筆すべきは、好きなことを追求するわけでも、仕事で何かを成し遂げるわけでもなく、ひたすら穏やかに家族を見守る主婦だったこと。

極端なほどの保守的なキャラクター造形がノスタルジーを超えて新鮮味を放ち、視聴者をクギづけにした。思えば、今春まで放送された『まんぷく』も穏やかな主婦が家族を見守る物語であり、主人公に水木しげるではなく妻を選んだ当作の影響を受けているのではないか。

ヒロインに選ばれたのは松下奈緒。5年前に『恋におちたら~僕の成功の秘密~』(フジテレビ系)でヒロインに選ばれるなど、すでにメジャーな存在であり、だからこそ「朝ドラらしさ」とされていた成長物語のテイストを必要としなかったのだろう。

その他にも、水木しげるを演じた向井理が当作で全国区になり、主演俳優に登り詰めたこと。当時、朝ドラは現代劇が続いていたが、当作を機に時代物が重視されるようになったこと。さまざまな要素が重なたことで数多くのドラマ賞を獲得し、朝ドラは現在のような視聴率20%超が当然の一人勝ち状態になっていった。

主題歌は、いきものがかり「ありがとう」。

■リアルかつドラマティックな名作

2位『フリーター、家を買う。』(フジ系、二宮和也主演)

香里奈

香里奈

くすぶっている若者の成長物語に加えて、家族の再生物語でもあり、「非正規雇用」「うつ病」「隣人トラブル」などの社会問題も扱った、まさにハイブリッドな秀作。

主人公は就職した会社を「自分に合わないから」と、わずか3か月で退職。しかし、思うように再就職できず、フリーター生活が長引いてしまう。バイトも「嫌なことがあると辞める」など転々としがちになり、家族の中で肩身が狭いなど、序盤のリアリティある展開で視聴者を引き込んだ。

さらに、母がうつ病になってしまう。治療費のために高収入を求めて土木業のアルバイトをはじめる。現在の家がうつ病の原因となっていることから、家を買うことを決意するなどのドラマティックな展開で、視聴者は一気に感情移入。母親のために立ち上がり、仕事や就職活動に励む武誠治(二宮和也)を応援する声がネット上に飛び交いはじめた。

当作のポイントとなったのは、父親の武誠一(竹中直人)と母親の武寿美子(浅野温子)。誠治を罵倒し、寿美子のうつ病を認めないなど常に高圧的だが、会社では部下に見下され孤独な誠一と、家事を心の拠りどころにしているが、隣家住人の嫌がらせを受けてうつ病の症状が激しく出てしまう寿美子を竹中と浅野が、けれんみたっぷりに演じた。誠治が主人公にしては物静かで抑揚のないキャラクターだっただけに、過剰気味な2人の演技がアクセントとなっていたのは間違いない。

最後は誠治の就職が決まり、誠一の提案で2世代ローンを組んで家を買うことができ、思いを寄せ合っていた千葉真奈美(香里奈)とも結ばれるなど、文句なしの大団円。一話完結型の職業ドラマばかりになった現在では、ほとんど見られないヒューマン作であり、裏を返せば現在のドラマシーンに最も欠けているものであり、求められているものなのかもしれない。

主題歌は、嵐「果てない空」。挿入歌の西野カナ「君って」とともにドラマの世界観にフィットし、ヒット曲となった。