2019年5月1日に新元号「令和」がはじまり、4月30日に幕を下ろした「平成」。この連載では「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第21回は「平成21年(2009年)」。

平成21年(2009)は、4月の改編期で大きな動きがあった。

TBSは小林麻耶をメインキャスターに据えた報道番組『THE NEWS』をスタートし、17時50分~19時50分というゴールデンタイムにまたがる大胆な放送時間が話題に。一方、日本テレビは月~金曜19時に日替わり生放送バラエティ『サプライズ』という思い切った戦略を採用した。

バラエティでは、『脳内エステIQサプリ』(フジテレビ系)、『徳光和夫の感動再会“逢いたい”』(TBS系)、『どうぶつ奇想天外!』(TBS系)、『あいのり』(フジ系)、『恋するハニカミ!』(TBS系)らの名物番組が終了。一方で、内村光良の『スクール革命』(日テレ系)、笑福亭鶴瓶の『A-Studio』(TBS系)、タモリの『ブラタモリ』(NHK)、明石家さんまの『ホンマでっか!?TV』(フジ系)と、現在も続く大物芸人のバラエティがスタートした。

その他では、6月26日にはマイケル・ジャクソンが死去し、各局で大きく報道。9月にはテレビ朝日が多くの深夜バラエティを打ち切り、ローコストの帯番組『お願い!ランキング』を手掛けて業界内外を驚かせた。

ドラマのTOP3には、荒唐無稽かつシリアスな舞台だからこそ感動の大きい作品を選んだ。

※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。

■松ケンの魅力を詰め込んだ不運な名作

3位『銭ゲバ』(日テレ系、松山ケンイチ主演)

松山ケンイチ

松山ケンイチ

とにかく暗い、ゲスい、汚い。人間の愚かさを前面に出しつつ、その向こうにある、かすかな温かさを描く独特な世界観で、一部の熱狂的な支持を獲得。しかし、視聴率が1桁台に低迷しただけでなく、「内容を問題視した多くのスポンサーが提供クレジットを自粛する」などの問題が山積し、苦戦を強いられたまま終わってしまったのが悔やまれる。

主人公の風太郎(松山ケンイチ)は、決して悪人ではなく、どこかに愛や希望を求めていた。それが最も現れたのは最終回。ほしかったものを手に入れたはずの風太郎は、むしろ絶望を感じてダイナマイトで死のうとするが、そのとき「もしお金がある普通の家庭に育っていたら……」という幸せに満ちた架空の物語がはじまる。

そのコントラストに切なさを感じさせておきながら、けっきょく風太郎は死んでしまい、最後は「この世界に生きているヤツはみんな銭ゲバだ!」の捨てゼリフで終了。この後味の悪さは現在のドラマシーンではほとんど見られないものであり、だからこそ圧倒的な印象が今も残っているのだろう。

当作の立役者は、わずか2巻の原作漫画をここまで広げ、掘り下げた脚本の岡田惠和。1996年の『イグアナの娘』(テレ朝系)でも岡田は原作漫画の魅力を高めていただけに、実写化の名手と言える。その脚本に応えるべく、全身全霊で負のオーラを身にまとった松山ケンイチの熱演も忘れられない。

助演では、「もう1人の主役」と言われた木南晴夏を筆頭に、光石研、田口トモロヲ、田中圭、正名僕蔵、柄本時生ら、現在の主力バイプレーヤーが存在感を見せていた。かりゆし58の主題歌「さよなら」も含め、すべてのパーツが一体化した「不運な名作」と言えるのではないか。

■草なぎ剛が“いい人キャラ”返上で熱演

2位『任侠ヘルパー』(フジ系、草なぎ剛主演)

草なぎ剛

草なぎ剛

「暴力団員が研修として介護施設でヘルパーとして働く」「次期幹部の座を狙う翼彦一(草なぎ剛)が介護に悪戦苦闘し、高齢者と関わることで古き良き極道の任侠を取り戻していく」という笑いと紙一重の強烈な設定ながら、相当なヒューマン作。介護の最前線を舞台に、家族の悩み、高齢者への虐待、暴力団による振り込め詐欺、介護施設の限界、若年性認知症などのシリアスなテーマをリアリティたっぷりに描き、しかも安易に答えを決めつけず、視聴者に問題を投げかけ続けていた。

草なぎがそれまでの“いい人キャラ”を返上して、鋭い目つきで口の悪い男を熱演。ただ、「最後まで自分らしくあろう」とする入居者にふれ、問題だらけの介護システムに憤りを感じて動く姿は、「やはり“いい人キャラ”だった」という見方もできる。ともあれ、草なぎにとっては、のちの『銭の戦争』『嘘の戦争』(フジ系)につながる転機となり、『僕シリーズ』(フジ系)と並ぶ代表作と言っていいだろう。

当作は暴力団と介護施設の2つが舞台だけに、ベテラン名優たちを多数ラインナップ。暴力団の若頭に松平健、敵対する暴力団組長に竜雷太、介護施設「タイヨウ」の所長に大杉漣、認知症の老婦人に池内淳子、オムツを拒否する老人に津川雅彦、介護詐欺を受ける老婦人に島かおり、彦一を捨てた母に倍賞美津子、セクハラを繰り返す困った老人にミッキー・カーチス、白内障で目が見えず訪問介護を拒否する老婦人に江波杏子が出演したことから、のちに記録的価値が高くなるのではないか。

平成が終わった今振り返ると当作は、「現実にはありえない設定だからこそ、人間の本質が浮き彫りになる」というドラマの王道であったことがわかる。「美化するな!」というクレームを恐れて暴力団を扱う作品は減ったが、各局のドラマ班には「こんな生かし方もできる」ことを頭の片隅に入れておいてもいいはずだ。主題歌は、SMAP「そっと きゅっと」。