2019年5月1日に新元号「令和」がはじまり、4月30日に幕を下ろした「平成」。この連載では「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第19回は「平成19年(2007年)」。

※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。

平成19年(2007)は、1月早々に『発掘!あるある大事典II』(関西テレビ、フジテレビ系)の「データねつ造発覚で打ち切り」という激震にテレビ業界が揺れた。

3月には約10年間放送された『伊東家の食卓』(日本テレビ系)、約7年間放送された『クイズ$ミリオネア』(フジ系)、約31年間放送された『ポンキッキシリーズ』(フジ系)の地上波放送が終了。視聴者志向の変化を感じさせる改編が相次いだ。

一方で2月に『世界の果てまでイッテQ!』(日テレ系)、4月に『ボクらの時代』(フジ系)、10月に『秘密のケンミンSHOW』(読売テレビ、日テレ系)と現在も続く番組がスタートした。その他で注目は、5月30日に放送された『おめでとう!藤原紀香・陣内智則 愛と爆笑と涙の結婚披露宴』(日テレ系)。「芸能人の結婚式をゴールデンタイムで生放送」というかつてのお祭りさわぎがひさびさに見られた。

ドラマのTOP3には、「このところ保守的な作品が増えた“フジ月9”“TBS日曜劇場”“TBS金曜ドラマ”で、今こそ放送してほしい」と感じる作品を選んだ。

■ヘタレの恋をみんなで応援する幸せ

3位『プロポーズ大作戦』(フジ系、山下智久、長澤まさみ主演)

長澤まさみ

長澤まさみ

「長年の恋を成就させるために、妖精の力でタイムスリップを繰り返す」ラブファンタジー。ありがち、かつ、子どもだましのような設定の作品だが、主人公・岩瀬健(山下智久)の愛すべき優しさと情けなさ、不器用さと切なさを丁寧に描いて、視聴者の共感を集めた。

携帯電話が完全に定着し、ネットも普及しはじめていた当時、「ラブストーリーのすれちがいや、もどかしさを描くのが難しくなった」と恋愛ドラマを避ける放送枠が続出。また、原作モノが増えていた中、オリジナルで描き切ったことが世間の評価につながった。

超のつくヘタレだが、人のよさと吉田礼(長澤まさみ)への気持ちだけは誰にも負けない岩瀬健を山下智久が好演。失敗を重ねながら少しずつ成長していく一途な姿で、「主人公の恋を応援する」というラブストーリーにおける王道の図式を成立させていた。

そんな健だからこそ、彼を見守る榎戸幹雄(平岡祐太)、鶴見尚(濱田岳)、奥エリ(榮倉奈々)ら友人たちの目は常に優しく、みずみずしくも穏やかなムード。妖精(三上博史)、教師の伊藤松憲(松重豊)、ハンバーガー店長の西尾保(菊池健一郎)、礼の祖父・吉田太志(夏八木勲)らも含め、脱力感と温かさを併せ持つキャラクターがそろっていた。

妖精などのファンタジーな指南役がいる恋愛ドラマは、山下自身が“謎の男”として出演した『ボク、運命の人です。』(日本テレビ系)や、今冬放送された『人生が楽しくなる幸せの法則』などのように、当作からインスパイアされたものが少なくない。

20代男女には、いまだに「『プロポーズ大作戦』がラブストーリーのバイブル」という人が多いという。当作が放送された月9ドラマは、「3作連続視聴率2桁で復活か」と言われているが、その内容は、刑事、弁護士、科捜研の1話完結ドラマ。テレビ朝日の路線をそっくりトレースしているが、やはり世間の人々を本当に喜ばせるのは、当作のようなラブストーリーなのかもしれない。

伝説の恋愛バラエティと同名のシンプルなタイトルもヒットの要因になるなど、プロデュースのバランス感覚が抜群だった。主題歌は、桑田佳祐「明日晴れるかな」。劇中で何度となく流れたMONGOL800「小さな恋のうた」も感動を誘った。

■財閥愛憎劇と経済歴史書の両輪

2位『華麗なる一族』(TBS系、木村拓哉主演)

北大路欣也

北大路欣也

原作は山崎豊子の小説であり、1974年に次ぐ2度目のドラマ化。放送前は、主人公が阪神銀行頭取の万俵大介(北大路欣也)から、長男で阪神特殊製鋼専務の万俵鉄平(木村拓哉)に変更されたことが物議を醸したが、はじまってみれば重厚な世界観に魅了される人が続出し、最終回は平成19年のドラマ最高視聴率の30.4%を記録した。

主に女性視聴者を引きつけたのは、万俵家の人間模様。大介は「鉄平は祖父・敬介と妻・寧子(原田美枝子)の子ではないか」と疑い、苦しみから逃れるように「妻と愛人・相子(鈴木京香)を同居させる」という暴挙を行っていた。さらに、長男・鉄平、次男・銀平(山本耕史)、長女・一子(吹石一恵)が政略結婚で、どの夫婦が微妙なムード。それぞれの人物がさまざまな悩みを抱えるなど、昼ドラマも真っ青のドロドロ愛憎劇が繰り広げられた。

一方、男性視聴者を引きつけたのは、虚実皮膜のビジネスストーリー。金融再編や倒産事件など、経済史をなぞりながらエンタメに昇華させる山崎豊子ならではのストーリーテリングは、めったに見られない社会派ドラマであり、しかも若年層も見られる作品に仕上がっているなど希少価値が高い。

木村拓哉は「情熱あふれるビジネスマン」でありながら、最後は「絶望感に押しつぶされる悲劇の男」を好演。美容師、検事、パイロット、アイスホッケー選手、レーサー、総理大臣、脳科学者、南極越冬隊員、果てはアンドロイドまでを演じて“職業コスプレ”と揶揄されがちだが、今作は情熱と絶望を体に宿すような役作りがハマっていた。

切なさしか残らないラストシーンも衝撃的。視聴者の大半がハッピーエンドを望む現在では、まず見られない哀しい結末にも関わらず説得力十分だった。主題歌は、指揮・服部隆之、演奏・フィルハーモニアオーケストラによるインストゥルメンタル。