■“俳優・草なぎ剛”が開花した記念作

1位『僕の生きる道』(フジ系、草なぎ剛主演)

  • 草なぎ剛

    草なぎ剛

  • 矢田亜希子

    矢田亜希子

突然、「余命一年」と宣告された中村秀雄(草なぎ剛)が、苦しみ迷いながらも生徒や同僚と向き合い、前向きに生きる姿を描いた感動作。いわゆる「難病モノ」は古くから連ドラの超定番だが、「余命一年をどれだけ精一杯生きられるか、どれだけ素晴らしいものにできるか」にフィーチャーした作風は、清々しさすら感じさせた。

物語は主に、生徒に対する教育と、同僚教師・秋本みどり(矢田亜希子)との恋愛の2軸。「担任・秀雄と生徒たちのハートフルなやり取りを視聴者だけではなく、劇中の副担任・みどりにも見せることで恋愛関係につなげていく」という脚本が秀逸だった。

視聴者もみどりも秀雄の変化を感じ、主人公に惹かれはじめていく。みどりは、一度は振ったにも関わらず秀雄に惹かれ、恋人同士になった。ある日、みどりは秀雄の部屋でビデオ日記を見て病気を知って泣き崩れるが、気を取り直して彼を看取る覚悟を固める。秀雄がビデオ日記に語りかける嘘と本音、読むつもりで買ったのに読まなかった本なども含め、脚本を手がけた橋部敦子のストーリーテリングが冴え渡っていた。

一方、星護、佐藤祐市、三宅喜重が手がけた演出も出色。生と死だけでなく、温かさと冷たさ、穏やかさと慌ただしさ、楽しさと虚しさ……これらの対比をファンタジックに描いて、難病や死の重さをやわらげていた。近年、わかりやすさを求め、“ながら視聴”対策として、演出過多な作品が目立つだけに、抑制の効いた当作の世界観がまぶしく感じてしまう。

キャストの奮闘も忘れてはいけない。中盤あたりから草なぎと矢田が役柄に入り込み、草なぎは減量してやせ細った容姿を作り、矢田は母性を全面に出した役作りに挑むなど、これまで見せたことのない人間味あふれる熱演を見せた。特に“俳優・草なぎ剛”が開花した、ファンにとっては記念碑的な作品と言える。

その他では、秀雄と穏やかに向き合う医師・金田勉三(小日向文世)を筆頭に、娘・みどりの交際に反対するも認めて見守る理事長・秋本隆行(大杉漣)、教頭の古田進助(浅野和之)と同僚教師の久保勝(谷原章介)、太田麗子(森下愛子)、岡田力(鳥羽潤)、赤井貞夫(菊池均也)ら、秀雄とみどりを支えるキャラも存在感があった。

生徒役では、歌手志望の杉田めぐみ(綾瀬はるか)、医学部志望で恋人の妊娠騒動を起こす田岡雅人(市原隼人)、官僚の子で反抗的な吉田均(内博貴)、体育教師に本気で恋をする鈴木りな(浅見れいな)、父親の経営する会社が苦境の赤坂栞(上野なつひ)と当時の次世代スターが懸命の演技を見せていた。

当作をひと言で表現するなら“丁寧”に尽きる。一つ一つのシーン、一人一人のキャラ、一言一言のセリフ。いずれも工夫と配慮を凝らしたものであり、その制作スタンスは『僕と彼女と彼女の生きる道』『僕の歩く道』の“僕シリーズ三部作”に引き継がれた。主題歌は、SMAP「世界に一つだけの花」。

『白い巨塔』『WATER BOYS』『元カレ』『只野仁』

その他の主な作品は下記。

  • 唐沢寿明

    唐沢寿明

  • 山田孝之

    山田孝之

最終話が1978年の田宮二郎主演版を超える視聴率を叩き出した『白い巨塔』(フジ系、唐沢寿明主演、主題歌はヘイリー・ウェステンラ「アメイジング・グレイス」)。異例の2クール放送、アウシュビッツ強制収容所における世界初のフィクション撮影など、大作エピソードには事欠かない。最終回「財前死す」で財前の遺体をストレッチャーで運ぶクライマックスは、医療ドラマ屈指の名シーン。

映画版に続いて制作された男子高生のシンクロ青春群像劇『WATER BOYS』(フジ系、山田孝之主演、主題歌は福山雅治「虹」)。山田孝之、森山未來、瑛太らのメインキャストに加え、今をときめく星野源と田中圭もボーイズの一員として参加していた。猛練習の末に迎えた最終回の好演は鳥肌モノで、ドキュメンタリーとしての醍醐味も十分。

  • 妻夫木聡

    妻夫木聡

  • 小栗旬

    小栗旬

激務と極貧の研修医・斉藤英二郎(妻夫木聡)の目を通して、医療現場の現実を描いた社会派医療ドラマ『ブラックジャックによろしく』(TBS系、妻夫木聡主演、主題歌は平井堅「LIFE is…~another story~)。外科、内科、新生児集中治療室、小児科とさまざまな医局を舞台にした分、制作の苦労は計り知れず、文句なしの力作。

童貞卒業をもくろむ高校生たちの青春コメディ『Stand Up!!』(TBS系、二宮和也主演、主題歌は嵐「言葉より大切なもの」)。二宮、山下智久、成宮寛貴、小栗旬が「純潔保存会」を結成したが、女生徒からは「DB4(童貞ボーイズ4)」とイジられるなど、明るいエロと脱力系の笑いを散りばめた堤幸彦監督らしい作品だった。「4人とも左利き」という奇跡の組み合わせも密かな話題に。

  • 広末涼子

    広末涼子

  • 竹野内豊

    竹野内豊

デパートを舞台に社内恋愛を描いた『元カレ』(TBS系、堂本剛主演、主題歌はKinki Kids「薄荷キャンディー」)。柏葉東次(堂本剛)と元カノ・佐伯真琴(広末涼子)、今カノ・早川菜央(内山理名)の三角関係、千歳一(天野ひろゆき)と仁科弘枝(ソニン)の恋のみで連ドラを成立させたある意味、王道の恋愛ドラマ。シンプルなタイトルが「どちらと結ばれるのか」の結末を暗示していた。

義家弘介のドキュメンタリー番組に続いてドラマ化した『ヤンキー母校に帰る』(TBS系、竹野内豊主演、主題歌は奥田美和子「青空の果て」)。生徒役に市原隼人、神田沙也加、永井大、市川由衣、速水もこみち、小池徹平、新任教師役に相葉雅紀と何気に豪華。暴力、自殺未遂、妊娠、麻薬などの問題に真正面からぶつかる主人公の姿が共感を呼んだ。『3年B組金八先生』『はいすくーる落書』などで校内暴力を描いてきたTBSの真骨頂。

  • 篠原涼子

    篠原涼子

  • 高橋克典

    高橋克典

みったん(伊藤)・るみたん(篠原)のバカップルと、怪しい実業家・田町(古田新太)との入れ替わりを描いたファンタジーコメディ『ぼくの魔法使い』(日テレ系、伊藤英明・篠原涼子主演、主題歌はBREATH「アイ・ラブ・ユー」)。本人役で出演した「意外と井川遥です」と恋人のまもるん(阿部サダヲ)、スーザン(ベッキー)とモコミチ(速水もこみち)のカップルもお似合い。

いまだに放送され続けている『特命係長 只野仁』(テレ朝系、高橋克典主演、主題歌は椿「川の流れのように」)の第一弾は2003年。高橋の肉体を生かしたアクションとベッドシーンでの無双ぶりや、「お色気要員」のセクシー女優たちなどがオトナの男女に大ウケ。昼のダメ社員ぶりとのギャップや、悪を成敗する痛快さも含め、強烈なケレン味で『金曜ナイトドラマ』の絶対エースに。

さらに、『武蔵 MUSASHI』『てるてる家族』(NHK)、『いつもふたりで』『美女か野獣』『顔』『僕だけのマドンナ』『あなたの隣に誰かいる』『ビギナー』(フジ系)、『GOOD LUCK!!』『高校教師』『きみはペット』『ホットマン』『高原へいらっしゃい』(TBS系)、『幸福の王子』『14ヶ月 妻が子供に還っていく』『すいか』『ライオン先生』(日本テレビ系)、『スカイハイ』『動物のお医者さん』(テレ朝系)などが放送された。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技 84』『話しかけなくていい!会話術』など。