2019年4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは、「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡を様々なテーマからたどる。この連載は、「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第11回は「平成11年(1999年)」(※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください)。

平成11年(1999)は、『おかあさんといっしょ』(NHK教育テレビ)の「だんご3兄弟」が大ヒット。区切りの2000年を前に、それほど大きなニュースや改編はなく、テレビ業界は穏やかな一年となった。

バラエティでは、4月に今年3月に終了した『ウチくる!?』(フジテレビ系)、10月に恋愛バラエティ『あいのり』(フジ系)、芸能人クッキングの先駆け的な『愛のエプロン』(テレビ朝日系)などがスタート。

一方、3月に「熱湯コマーシャル」「ガンバルマン」の人気コーナーを輩出した『スーパージョッキー』(日本テレビ系)、9月に多くのリズム系ゲームを流行らせた『マジカル頭脳パワー!!』(日テレ系)、一大ブームを巻き起こした『料理の鉄人』(フジ系)と『ボキャブラ天国』シリーズ(フジ系)が終了した。

ドラマのTOP3には、シビアな舞台設定で視聴者を魅了した3作を選んだ。

田村正和と大沢たかおが「静と動」を体現

■3位『美しい人』(TBS系、田村正和主演)

  • 田村正和

    田村正和

  • 常盤貴子

    常盤貴子

『高校教師』『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』『未成年』『聖者の行進』とTBSで過激な作品を連発していた野島伸司が90年代の最後に選んだテーマは、整形とDV。当時の社会的関心事をいち早く採り入れたのは、いかにも野島脚本らしい。

美容整形外科医の岬京助(田村正和)に、「整形手術で顔を変えて暴力をふるう夫から逃げたい」と懇願した村雨みゆき(常盤貴子)のラブストーリー。「願いを聞いてもらう代わりにどんな顔にしてもいい」と言われた京助は、みゆきの顔を事故死した妻の顔に整形する。しかし、みゆきの夫・村雨次郎(大沢たかお)にその秘密がバレてしまい……。

当時、『パパはニュースキャスター』『パパは年中苦労する』『パパとなっちゃん』(TBS系)などのホームコメディが多かった田村正和が、争い事が嫌いでどこまでも穏やかな男に一変。哀愁を帯びた物憂げな表情が、田村正和本来の色気を放っていた。

一方、インパクトならDV夫を演じた大沢たかおも負けていない。登場シーンのすべてで視聴者に恐怖を感じさせるなど、こちらも『星の金貨』シリーズ(日テレ系)から一変した姿で盛り上げた。

京助と次郎、田村正和と大沢たかお、2人が「静と動」という作品の世界観を象徴。一見、常盤貴子のための物語と思われがちだが、事実上のメインは2人であり、その対比が作品の緩急を作るとともに、「美しい人とは?」というテーマに合致していた。

最終回の展開も、まさに「静と動」であり、野島ワールド全開。京助は次郎に激しく追い詰められて心を壊されてしまい、みゆきと再会しても亡き妻だと思ってしまう。しかし、みゆきは京助を受け入れ、永遠の愛を誓い……という『この世の果て』(フジ系)を思い出させる結末だった。つまり、「けっきょく最も美しい人は、一途に妻を思い続ける京助であり、その姿を見てみゆきも美しい人になった」ということか。

ミント、ローズマリー、レモンバーム、ボリジ、ラベンダー、セージ……と週替わりでハーブに絡めたサブタイトルがおしゃれで、京助がハーブ好きという物語ともリンク。主題歌は、ジェーン・バーキンの「無造作紳士」。幻想的なタイトルバックに、叙情的な歌声とメロディーが見事にハマっていた。

「二度と見られない」幻の第1シリーズ

■2位『救命病棟24時』(フジ系、江口洋介主演)

  • 江口洋介

    江口洋介

  • 松嶋菜々子

    松嶋菜々子

当時から現在まで「海外ドラマ『ER』のパクリ」なんて声もあるが、シリーズを重ねるごとにオリジナリティを確立し、当作からインスパイアを受けた医療ドラマは多い。『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジ系)などの“エマージェンシー系”はもちろん、「複数の患者が同時進行で、命をめぐる人間ドラマをスピーディーに見せていく」というスタイルは局を超えて広がっていった。

『救命病棟24時』に限らずシリーズモノの第1弾は、「主人公のキャラクターと、彼を取り巻く人間関係をしっかり描く」というケースが定番。当作も例に漏れず、初回から「クールな一匹狼だが、患者第一主義のスーパー外科医」という進藤一生(江口洋介)の魅力にフィーチャーし、その後も事故で植物状態となった妻とのやり取りや、最後は脳腫瘍に冒されるなど、ドラマティックな展開をけん引した。

約20年が過ぎた今、見直して驚かされるのは、小島楓(松嶋菜々子)の未熟さ。まだ何もできない新人研修医であり、進藤から怒られてばかりで、第4シリーズで医局長となり、第5シリーズで進藤に代わって主役を務めた姿からは想像もつかない。

第5シリーズまで放送されたが、橋部敦子、福田靖、飯野陽子の3人が脚本を手がけた「第1シリーズが一番エンタメ性は高い」という声もある。シリーズの中で唯一DVD化がなく、FOD(フジテレビ・オン・デマンド)でも見られない幻の作品であり、最新シリーズ放送の願いも込めて2位に選ばせてもらった。

主題歌はDREAMS COME TRUEの「朝がまた来る」。第2シリーズでは「いつのまに」、第3シリーズでは「何度でも」、第4シリーズでは「その先へ」、第5シリーズでは「さぁ鐘を鳴らせ」と、歌詞入りの劇伴としては最高ランクのフィット感で、「『救命病棟24時』=ドリカム」のイメージは今も変わらない。