新たな夫婦像より斬新な姉妹のつぶし合い

■1位『週末婚』(TBS系、永作博美主演)

  • 永作博美

    永作博美

  • 松下由樹

    松下由樹

さすが内館牧子。「週末婚」という斬新な夫婦のあり方、お互いを徹底的におとしめ合う姉妹、嫁姑問題と女性のキャリアアップなど、これでもかというほど連ドラらしい話題性を詰め込んでいた。

当初は「平日は別々で自由に過ごし、週末だけ一緒に生活する」という週末婚に注目が集まっていたが、すぐに焦点は姉妹の愛憎劇へシフト。「私よりも不幸でいてほしい」「やられたら絶対にやり返す」とはっきり宣言する姉妹のつぶし合いは壮絶だった。

華やかな姉・浅井陽子(松下由樹)の陰となり、地味に生きてきた浅井月子(永作博美)は、唯一の希望だった恋人の大森豹(沢村一樹)との関係をつぶされて激怒。それまで心に秘めていた憎悪をむき出しにして反撃するシーンは視聴者をアッと言わせた。その後も月子は主人公らしく以前の慎ましさを取り戻して善人に戻ると思いきや、陽子を罠にはめる悪行を連発し、アンチヒロインを徹底。陽子はそのたびに打ちひしがれながらも倍返し級の反撃をするため、「誰が正義で誰が悪なのか」「今どちらが優勢なのか」、最後まで予断を許さない戦いが続いた。

「私より不幸でいて」「百倍にしてやり返す」「いっそ死ねばいい!」「絶対に結婚させない」「スカートの下の秘密」「ラブホテルの秘密」「女子トイレの対決!」「男に夫を盗まれた妻」「義兄との禁断の情事」。サブタイトルだけで引きつけられてしまうが、決して大映ドラマのようなけれんみではなく、「本当にいるのかも」と思わせるストーリーテリングが見事だった。

当作が「業の深い女の愛憎劇」であることは間違いなく、男たちは姉妹を引き立てる助演に専念。月子の恋人・豹、その兄で陽子の夫・大森純(阿部寛)、月子の同僚で結婚相手となる矢作航一(仲村トオル)は、3人とも受け身な優男であり、姉妹に押されっ放し。ただ、純を演じた阿部寛がアダルトビデオにハマり、ゲイバーでホストのアルバイトをはじめる展開は、ドラマフリークの間で語り草になるほどの名シーンとなった。

永作博美、松下由樹、阿部寛、沢村一樹、仲村トオル。現在までの活躍を見れば、この5人を起用したプロデューサーの目利きがいかに優れていたかがわかるだろう。13話かけてたっぷり描かれたことも含め、当時「まだまだ連ドラもこれほどのパワーを放てる」ということを再認識させてくれた。

主題歌はAN-J「笑顔が見える場所~I WANNA GO~」。華原朋美のオリジナルをカバーしたが、ハーモニーとダンスのカッコよさで、「闘う女たちのドラマ」を印象づけていた。

『魔女の条件』『OUT』『お水の花道』『ケイゾク』

  • 田中美佐子

    田中美佐子

  • 財前直見

    財前直見

その他の主な作品は下記。

高校教師の未知(松嶋菜々子)と高校生の光(滝沢秀明)の“禁じられた恋”を描いた『魔女の条件』(TBS系、松嶋菜々子主演、主題歌は宇多田ヒカル「First Love」)。逮捕や妊娠などの強烈な展開で盛り上げてたどり着いた最終話の視聴率は、何と29.5%。テイストが似ている今秋スタートの『中学聖日記』(TBS系)は、当作に迫るヒットとなるか。

家庭問題を抱えた主婦たちの完全犯罪を描いた『OUT~妻たちの犯罪~』(フジ系、田中美佐子主演、主題歌は福山雅治「HEAVEN」)。家庭崩壊、経済的困窮、ギャンブル依存症、DV、闇金での借金などのどん底で苦しむ女性の描写が話題を集め、犯罪者ながら視聴者は応援モードに。のちの『ナオミとカナコ』(フジ系)などに通じる作風であり、実は連ドラ界の定番ジャンル。

30歳のがけっぷちホステス・明菜(財前直見)の奮闘を描いた『お水の花道』(フジ系、財前直見主演、主題歌はSURFACE「なにしてんの」)。舞台は六本木のクラブだが、ドラマのムードは「色気より人情」であり、店のノリもまじめで明るい体育会系。ホステスの顔ぶれは、一色紗英、原沙知絵、井上晴美、戸田恵子で、2年後に続編も制作された人気作。

  • 中谷美紀

    中谷美紀

  • 福山雅治

    福山雅治

東大卒のエリート新米刑事と、元公安の叩き上げ刑事が難事件に挑む『ケイゾク』(TBS系、中谷美紀主演、主題歌は中谷美紀「クロニック・ラヴ」)。堤幸彦が幻想的な映像と小ネタ満載の演出で、現在につながる刑事ドラマのパターンを創出。プロデューサー・植田博樹と脚本家・西荻弓絵とのトリオは、のちに『SPEC』シリーズ(TBS系)も手がける名チームとなった。「ケイゾク」は“迷宮入り事件”を指す警察用語。

ナンパ好きの軽薄な歯科医と、露骨な玉の輿狙いのOLの恋を描いた『パーフェクトラブ!』(フジ系、福山雅治主演、主題歌はGLAY「ここではない、どこかへ」)。月9に明るいラブストーリーが減った時期だけに、「歯科医が必ず患者を口説く」などのおバカさで支持を集めた。福山が手がけた松本英子の挿入歌「Squall」が切ないシーンの盛り上げにひと役。

  • 高橋克典

    高橋克典

  • 深田恭子

    深田恭子

本宮ひろ志の漫画を実写化した『サラリーマン金太郎』(TBS系、高橋克典主演、主題歌はTHE ALFEE「希望の鐘が鳴る朝に」)。熱い人情派ながら型破りな行動で、サラリーマン社会の常識をブチ破る主人公の姿に、「高橋のハマリ役」という声が続出。その後、『特命係長只野仁』(テレ朝系)がスタートし、どちらもシリーズ化されたことで支持は二分された。

プロボクサーを目指す時枝ユウジ(堂本剛)と、彼に猛アタックする三浦透子(深田恭子)のもどかしい純愛を描いた『to Heart ~恋して死にたい~』(TBS系、堂本剛主演、主題歌はKinki Kids「to Heart」、デズリー「ライフ」)。透子のひたむきな片想いが共感を呼び、「愛はパワーだよ!」の決めゼリフをマネする女性も多かった。

平成11年はTBS系昼ドラの当たり年。『大好き!五つ子』(森尾由美主演)、『温泉へ行こう』(加藤貴子主演)、『キッズ・ウォー』(生稲晃子主演)が立て続けにスタート。いずれも毎年のように放送される長期シリーズとなり、お昼に温かい家族愛や人情物語を見せてくれた。一方で、第8シリーズまで続いた『天までとどけ』が終了。現在もTBSによるハートフルな昼ドラの復活を期待する声は少なくない。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。