16歳の深田恭子が痛々しいほどの熱演

■1位『神様、もう少しだけ』(フジ系、金城武、深田恭子主演)

  • 金城武

    金城武

  • 深田恭子

    深田恭子

クオリティという意味では、必ずしも名作とは言えないかもしれないが、斬新さやインパクトを含めた総合点では、この年のトップにふさわしいのではないか。

「HIV感染をテーマにした連ドラ」「日本で知名度の低かった金城武と、ほぼ新人の深田恭子を抜てき」「“ギャルの援助交際”や“カリスマ音楽プロデューサー”など時代のホットワードを採用」「工藤静香の挿入歌を劇中でも使い、仲間由紀恵に口パクで歌わせる」など、筋書きに多少の強引さはあれど、思い切りのいいプロデュースが目立った。

ヒロインに抜てきされた深田は、まだ16歳であるにも関わらず、序盤でいきなり下着姿をさらけ出し、ベッドシーンを演じるなど、痛々しいほどの体当たり演技を披露。その後もHIVに感染した絶望から真実の愛を知る喜びまで、泣き叫び、深く沈み込む……喜怒哀楽の上下動が激しいヒロインを演じ切った。

一方の金城は、既存の俳優とは一線を画すクールな演技プランで深田に対峙。間をたっぷりとった独特なセリフ回し、全身から絶望感を醸し出す振る舞い、色気たっぷりのキスシーンで女性視聴者を虜にした。メイン2人が精神的な危うさのあるキャラクターだった分、ラブストーリーの純度が上がった感がある。

さらに、叶野真生(深田恭子)の母・弥栄子(田中好子)の献身的な愛情、父・義郎(平田満)の不器用な愛情、彼女を思いながらも支える日比野イサム(加藤晴彦)の複雑な愛情など、周囲の優しさが際立つ作風は、現代の視聴者が好むものに近い。

別れと復縁、妊娠と出産などの紆余曲折を経た最終回のクライマックスは、芸術性と悲劇性の両面が化学反応を起こしたような美しいシーンとなった。石川啓吾(金城武)と娘・幸が墓前に佇むラストカットを覚えている人も多いだろう。

こちらも最終回はドラマ部門の年間7位となる28.3%を記録。キャストの知名度や放送枠などを踏まえると異例のヒットだったと言える。現在の地上波では、放送不可能な内容であり、これほどフレッシュな主演コンビはまず見られないことも踏まえて、1位にさせてもらった。

主題歌はLUNA SEA「I for You」。この曲もイントロのギター音を聴いただけで、涙腺が潤む人がいるのではないか。挿入歌の工藤静香「in the sky」「きらら」とともに物語にリンクしていた。

『ショムニ』『聖者の行進』『Sweet Season』『略奪愛』

あらためて振り返ると、平成10年は世間の流行をとらえようとする作品が多かった。主な作品は以下。

第4シリーズまで描かれたOLたちが主役の痛快作『ショムニ』(フジ系、江角マキコ主演、主題歌はIZAM with ASTRAL LOVE「素直なままで」)。江角、宝生舞、京野ことみ、櫻井淳子、戸田恵子、高橋由美子……「女子社員の墓場」と言われる総務部庶務二課のメンバーが競い合うように振り切った演技を見せて盛り上げた。成功のポイントは、彼女たちの美脚と「会社の問題解決」という筋書きで男性支持も得たこと。

知的障害者への暴力や性的虐待を描き、世間を驚かせた『聖者の行進』(TBS系、いしだ壱成主演、主題歌は中島みゆき「糸」)。90年代をさわがせた「野島伸司ドラマもここまで来てしまったか」と否定的な声も多く、過激路線は当作で打ち止めに。同じ野島ドラマの『人間・失格』(TBS系)から一変して、「いい人」を演じた斉藤洋介も話題に。

  • いしだ壱成

    いしだ壱成

  • 竹野内豊

    竹野内豊

清楚なイメージの松嶋菜々子が「不倫に溺れるOL」を演じることで注目を集めた『Sweet Season』(TBS系、松嶋菜々子主演、主題歌はサザンオールスターズ「LOVE AFFAIR ~秘密のデート」)。不倫相手を演じたのは椎名桔平。妊娠、記憶喪失、隠し子、怪文書などの大映ドラマらしい不穏な展開と、当時躍進中の旅行会社H.I.S.を舞台に選んでいたことが時代を物語る。

間違いメールからはじまるネット恋愛を描いたラブストーリーの先駆け『WITH LOVE』(フジ系、竹野内豊主演、主題歌はMY LITTLE LOVER「DESTINY」)。嘘をつく、リアルに顔を合わせる、でも気づかない、互いの印象が最悪などのお約束的な展開を確立。田中美里、藤原紀香、原沙知絵、原千晶と長身美女優をそろえたことも画期的と言われた。

  • 常盤貴子

    常盤貴子

  • 佐藤浩市

    佐藤浩市

一般紙から夕刊紙に出向させられた女子記者の奮闘を描いた『タブロイド』(フジ系、常盤貴子主演、主題歌はGLAY「BE WITH YOU」)。佐藤浩市が熱さと適当さを併せ持つ編集長を熱演。「ライバルは同じ値段の缶コーヒーだ」のセリフは説得力があった。夕刊フジの制作協力で編集部や紙面のディテールは万全。ドラマフリークの間では「隠れた名作」と言われている。

「経営危機のレストランを天才ソムリエが救う」というワインブームに乗ったコンセプトの『ソムリエ』(フジ系、稲垣吾郎主演、主題歌はインストゥルメンタル)。クールで変わり者のソムリエは「稲垣のためにある役柄」とまで言われ、わがままで強気な女を演じた菅野美穂とのコントラストでコメディとしての笑いもあった。

シリアスなストーカーものであるはずが、赤井英和と鈴木紗理奈のコンビで爆笑作となった『略奪愛・アブない女』(TBS系、赤井英和主演、主題歌はGLAY「HOWEVER」)。主題歌の「絶え間なく注ぐ愛の名を 永遠と呼ぶ事ができたなら……」という歌詞が笑いを誘う珍現象に。鈴木紗理奈の「アニキ」は、この年のドラマ流行語大賞に値する迷ゼリフ。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。