土屋:僕はフジに対して畏敬の念がありましたね。「俺が生きている間は勝てないんだな」って本気で思ってた。例えば『ごっつ』みたいなものを、ダウンタウンがやりたいのは知っていたけど、うちではできない。それこそ、(明石家)さんまさんが小堺(一機)さんと『(さんま・一機の)イッチョカミでやんす』でコントをやろうとして、フジのようにはできなかったのを見ているから。しかも『ごっつ』は、それまでの『ひょうきん』とかとも違う新しいダウンタウンならではのつくり方。これは絶対うちにはできないって感じたよね。うちにもああいうのをやってみたいっていう奴が入ってくるけど、それを教えられる人がいない(笑)。やっぱり「トカゲのおっさん」みたいなことはフジテレビのバラエティのフィールドの中で、ダウンタウンが俺たちはこれまでと違うものをやるっていう瞬発力によってなされる新しい笑い。それができたのは彼らにとってもすごく幸せなこと。俺たちは別の方向を行くしかないと棲み分けしていましたね。

小松:日テレさんのドキュメントバラエティで、タレント中心ではなく一般の皆さんを題材にっていう部分を掘り起こし始めた『元気』からの流れっていうのは、今のテレビの文法には合ってるのかなって思いますね。僕らは路線変更を余儀なくされている部分はありますよ。

土屋:僕は大きくバラエティが変わったのはフジテレビの『欽ドン!(欽ちゃんのドンとやってみよう!)』だと思ってるんですよ。『欽ドン!』が「テレビはドキュメンタリーである」という発見をした。その系譜は『ひょうきん』の楽屋話とかに受け継がれたと思うんですけど。だからドキュメントの流れは実はフジテレビから始まったんじゃないかと。

小松:ああ、なるほど。その部分は『笑っていいとも!』につながっていったのかも知れないですね。特に初期、僕が大好きだった頃の『いいとも!』には強いドキュメント性がありましたから。

――フジテレビでドキュメントバラエティの要素があった番組といえば『めちゃイケ』もあると思うのですが、土屋さんはどのようにご覧になっていましたか?

土屋:フジテレビのコントのDNAにうまくドキュメント性を合わせるとこういう感じになるんだって。いい感じにミックスされている感じがしましたね。僕らが野ざらしでやっていた中で、アラファト(議長)にはたどり着く(※)けど、あのドラマ性にはたどり着かない(笑)

(※)…『電波少年』で、松本明子がアラファト議長と「てんとう虫のサンバ」を「アラファト(あなたと)私は夢の国~」とデュエットしたいとアポなし直撃。

小松:アラファトのほうがスゴい(笑)。フジテレビの方法論は、外の環境を作ってしまってその中で自由に演者が動いてもらう。『めちゃイケ』がどこまでやっていたのかは総監督の片岡飛鳥じゃないんで分からないですけど、例えば、こういう状況があるというフィクションがあるとして、でも演者は本当にその情報を入れられているから本気でそれに対して動く。だから、泣くし、叫ぶし、喜びし、バカなこともするし、面白いことが起こる。入ってくる情報をコントロールするんです。それが『ひょうきん族』とかで三宅(恵介)さんたちがつくってきたフジテレビ流の演出。徹底的に状況をつくって、あとは(ビート)たけしさん、さんまさんお願いしますって。それが拡大していったのが、フジテレビ的なドキュメントバラエティの作り方。分析するとそういうことになると思いますね。土屋さんたちとは手際の種類が違うんです。

■『トリビア』の反省を『チコちゃん』に

小松:日テレさんは『元気』~『電波少年』~『イッテQ』とうまく継承されていますよね。

土屋:『電波少年』をやってたときに入ってきた古立(善之)が『イッテQ』で彼らしい継承をしてくれていますね。でも『電波』には他にもディレクターが10数人いたはずなんだけど(笑)

小松:マインドがつながって今も存在しているっていうのは実は稀有なことだと思います。フジにはあまりない。

土屋:コントのフジとかドキュメントバラエティの日テレとかっていう大枠もあると思うけど、実は演出的なノウハウというかテクニック、どこまでこだわるんだとか、というほうが大切だと思うんですよ。だから、僕がやってきた路線の継承ではなくて、実は技術の継承。職人技の継承をしているかしていないかだと思うんです。

小松:どういうマインド、手際でつくるか。そこにその人の精神性が表れるってことがありますよね。

  • 『チコちゃんに叱られる!』岡村隆史(左)とチコちゃん

土屋:『チコちゃんに叱られる!』(NHK)も技術をすごく感じるんですよ。演出的な進化をすごく志している。こっちに展開したら面白くなるんじゃないかっていうことをずっとやっている。よく『チコちゃん』に対して企画が素晴らしいとか言われるんだけど、やっぱりテレビは演出だなって思うんです。企画3割、演出7割。『イッテQ』の本質もあれは演出なんですよ。あんなような企画をやれば当たると思ってみんなやるんだけど、そうじゃなくてこれだけの素材があるものをどう持っていって最終的にどうオトして笑わせるかってテクニックや執念が継承されている。結構、テレビ局の人が誤解して、こういう企画をやったら今いいんじゃない?って言うんだけど、企画じゃなくて演出力なんですよ。

小松:笑いを作れるチャンスがあるのにそこでやらないってことに対する罪悪感があるんですよ。「いいじゃん、普通にしとけば」って言われるんですけど、自分が見つけてしまった以上、笑わせなきゃいけないっていう責任感。周りは付き合わされて迷惑になるんですけど(笑)。ああいう情報系の番組っていうのはネタ切れとの戦いになる。そのことを僕らは『トリビアの泉』で1回学習してますから。『トリビア』は1個の語り口を決めて、それに乗っかるやり方。そのやり方にハマるネタで番組を作っていった。その結果、ネタがなくなってしんどくなっていったわけです。『チコちゃん』は、なんでも使えるようにするために、語り口の方法論は何でもありにしておくっていうやり方なんですね。演出の手数が多いことで、扱えるネタが増える。

土屋:次から次へ演出のやり口を探して増やしていっているっていうのが見えるからすごい。「5歳の子に大人が~」云々とかっていうよりも、そこに驚異を感じるべき。そこを見抜けない人がテレビをつくる側でも結構いる。

小松:ネタ切れの恐怖を味わったことのある人間のトラウマゆえできたやり方ですね(笑)

土屋:負けた時、失敗した時、次にだったらどうやったらそこを解消できるのかをちゃんと覚えてるかですよね。だから執念深いんですよ(笑)。あんなに『トリビア』は調子良かったのに、なんで?っていう悔しさを忘れないのが大事なんでしょうね。

●土屋敏男
1956年生まれ、静岡県出身。一橋大学卒業後、79年日本テレビ放送網に入社し、『酒井広のうわさのスタジオ』『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』『進め!電波少年』『ウンナン世界征服宣言』『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』などを制作。編成部長、第2日本テレビ事業本部ED、編成局専門局長、ゼネラルプロデューサーなどを歴任し、日テレラボ シニアクリエイター(現任)。

●小松純也
1967年生まれ、兵庫県出身。京都大学卒業後、90年フジテレビジョンに入社し、『ダウンタウンのごっつええ感じ』『笑う犬の生活』『SMAP×SMAP』『平成日本の夜ふけ』『FNS27時間テレビ「さんま・中居の今夜も眠れない」』などを制作。編成部、バラエティ制作センター部長などを歴任した後、15年から共同テレビジョンに出向。プロデューサーとして『チコちゃんに叱られる!』『人生最高レストラン』『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』『JIMMY~アホみたいな本当の話~』などを担当する。19年3月末で出向元のフジテレビを退社し、フリーのプロデューサーに。

■著者プロフィール
戸部田誠(てれびのスキマ)
ライター。著書に『タモリ学』『1989年のテレビっ子』『笑福亭鶴瓶論』『全部やれ。』などがある。最新刊は『売れるには理由がある』。