ITリテラシーが低いユーザーでも「慣れ」で対応

島村楽器は楽器店や音楽教室を運営しており、両事業を合わせて全国38都道府県に151カ所の拠点を展開している。「音楽の楽しさを提供し、音楽を楽しむ人を1人でも多く創る」という経営理念を掲げており、オリジナルブランドの楽器や入門書などもリリースしている。

島村楽器は楽器店や音楽教室など、全国38都道府県の151カ所に展開。右端は同社が運営する楽器店

店舗での販売業を主体とした島村楽器は、特にITに強い企業というわけではない。しかしGoogle Apps for Businessの導入は比較的早くに行った。2010年末導入決定を行ったのち、2011年2月には利用を開始。スマートフォンが一部のマニアのためのものではなく、ごく普通に使われるようになった頃であり、今ほどGoogleのサービスを使い慣れた人も多くなかった頃の導入だった。

「ITリテラシーが高いとはいえないスタッフが多い中、現場ではとまどいも多かったですね。とにかく何度言ったかわからないほど"慣れてください"と言いました。結果的に、慣れがいろいろな問題を解決してくれたのも事実です」と当時を振り返るのは、島村楽器 管理部 情報システム課 マネージャーの山川 竜氏だ。

Googleの将来性と手頃なコストで決断

島村楽器 管理部 情報システム課 マネージャー
山川 竜氏

元々のきっかけは、当時のメールシステムの不具合だった。POPメールをクライアントソフトとしてThunderbirdを利用して受信していたが、利用期間が長くなる中でトラブルが増えていた。メールの件数と容量が膨大になったことで、PCのパフォーマンスにも影響が出ていた。さらにメールボックスやインデックスファイルが破損して必要なメールが読み出せなくなるというようなことも頻繁におこり、ユーザーにとっても管理者にとってもストレスのある状態になっていたという。

ローカルで扱うメール件数や容量の問題ならば、IMAP方式での運用という方法もある。しかしこれは、早い段階で採用が見送られた。当時利用していたメールサーバの容量が少ないために大きな追加投資が必要であることや、実際にIMAP方式で運用した場合におこるトラブルに対応する手間を考えると、現実的ではなかったという。

「根本的な対応として、Webメールを利用すべきだと考えました。その段階で国内ベンダーが提供しているWebメールサービスはひととおりチェックしたのですが、全体的に高コストだったことで導入を見送りました。2年くらい我慢の期間があった上で出会ったのが、Google Appsです」と山川氏は語る。

すでにコンシューマー向けのGmailなどを使ったことがあった山川氏にとって、Google Appsは信頼できるものだったという。またメール以外のカレンダー機能などはすでにコンシューマー向けのサービスを部署ごとに活用するなど、ある程度、社内利用も進んでいた。

「当時はまだGoogleに対して懐疑的な人もいました。しかし私としては、今後大きく伸びて世界のスタンダードになると確信していました。なにより、当時のホスティングメールサーバと変わらないコストで利用できることが大きな魅力でした」と山川氏。社内からは不安視する声もあったが、担当者として強い自信を持って導入を推し進めたという。

アドオンで不足機能を追加すれば、マニュアルも教育も不要に

Google Appsの導入支援はサテライトオフィスが担当した。現在はシングルサインオン、組織カレンダーといったGoogle Apps用のアドオンと、サイト用のガジェットなどを利用しているという。

「信頼できる導入支援会社、とGoogleに紹介されたのが出会いでした。導入にあたっては端末ごとのIP制限をしたかったので、シングルサインオンは必須だと考えていました。Google Apps単体では実現できない機能もアドオンで提供していただけるのがよかったですね」と山川氏は語る。

初期にはメールサーバのみをGoogle Appsに移行し、クライアントPC側ではThunderbirdを使い続ける期間を約1カ月設け、猶予期間とした。この1カ月でメールをGoogle Apps側にため込むことで、ブラウザからの利用に切り替えた時には直近の業務で利用したメールはきちんと入っているという状況を作り出したのだ。

「最初はとまどいも多く、なんとしてでも3カラムの見た目にしてくれ、という声もありましたね。数カ月は質問も来ましたし、ラベルなどこれまでなかった機能については説明が難しいと感じることもありました。しかし一切カスタマイズはせず、とにかく慣れてくれということで押し切りました。どうしても見た目に慣れられないという人には、個人的にGmailを利用することを勧めていましたね。慣れれば大丈夫、と確信していました」と山川氏。

当初はマニュアルを用意したが、細かな部分が変更されることの多いGoogle Appsを使いこなすためにはマニュアルはむしろ邪魔になると判断。現在では利用にあたってのマニュアルを用意せず、特別な教育機会も設けていないという。

「見た目の違う古いマニュアルはトラブルのもとです。Google自体が巨大なマニュアルです。そもそもコンシューマーユーザーがマニュアルなど読まず、なんとなく使えるように作られているのですから、それほど構えずに使えるはずだと考えました」と山川氏は語る。

本社スタッフには1人1アカウントを配布し、店舗には店舗単位で1アカウントとして運用し、利用アカウント数は460になっている。現在では、すでに当たり前のものとして日々の業務で使いこなされているという。

Google Appsフル活用でコスト&管理負荷の削減に成功

メールの他には、ファイル共有のためにGoogleドライブを利用。また、業務に必要なポータルや各種プロジェクト用のページ、社長ブログといった社内向けのあらゆるコンテンツはGoogleサイトで構築している。またAndroid搭載スマートフォンを業務端末として導入しているが、このデバイス管理もGoogle Appsで行っているという。

「MDMのように新しい機能が必要になれば、追加投資をすることなく利用できるのがGoogle Appsの魅力です。既存機能もどんどん更新され、常に最先端のITシステムを利用できるのはよいですね。GoogleアナリティクスやYouTubeといったGoogle Apps以外のGoogleサービスもフル活用していますから、トータルではかなりのコストダウンになっています」と山川氏。

運用管理の面では大きな労力削減になっているという。460のアカウントを管理しているのは担当者1人だ。しかも、1カ月あたり30分程度の作業だという。

「従業員の出入りがあればアカウントの追加や削除、シングルサインオン機能の設定などは必要になりますが、それだけです。ハードウェアの管理を自社でやっていた時とは比べものになりません。これで管理の仕事をしていると言っていいのかな、と思うほど。おかげで、他の業務に注力できます」と満足度の高さを山川氏は語った。

まだGoogle Appsの導入事例がそれほど多くない頃に、ITに強いわけではない企業で導入を成功させた担当者として山川氏が繰り返し強調したのは、慣れることの大切さだ。従来型のサービスに酷似した画面にカスタマイズ可能なサービスなどもいろいろあるし、完全に新規開発を行うならば自社にぴったりとマッチしたシステムを導入することは可能だろう。しかしそれは、コストと時間に余裕のある企業の選択肢だという。

「最小限の投資で最高の効果が得られるものとしてGoogle Appsに勝るものはありません。見た目や使い勝手の変化はアイデアで乗り越えられます。少々の違いに慣れることで、最先端のものを体感し続けられるのも大きなメリットでしょう」と山川氏は語った。