FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「アベノミクス円安の終わり」について紹介します。

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約2年半で1ドル=70円台後半から125円まで約50円もの大幅円安となったアベノミクス円安は、その主役の一人である黒田総裁の「(実質実効為替レートについて)ここからさらに円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない」といった見方の通り、ついに終わりとなりました。

さすがに、円安終了までピタリと当てたあたり「黒田マジック」といった感じですが、でも「魔法」でもなんでもなくて、ある意味では黒田総裁はとても普通に「客観的事実」を語ったに過ぎないともいえそうです。

知られざる黒田総裁の「功績」か

黒田総裁は、円の実効レートについて、「ここからさらに円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない」と語ったわけですが、前にも述べたように「実効レート」とは円の総合力といった意味です。

  • 【図表1】円実効レートの5年MAからのかい離率 (1990~2018年)(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

    【図表1】円実効レートの5年MAからのかい離率 (1990~2018年)(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

そんな円の総合力、円実効レートを、過去5年の平均、5年MA(ムービング・アベレージ=移動平均線)からのかい離率で見ると【図表1】のようになります。かい離率がプラス方向に拡大すると「上がり過ぎ」、マイナス方向に拡大すると「下がり過ぎ」。黒田発言のあった2015年6月頃は、1990年以降では最高の円の総合力「下がり過ぎ」になっていました。

  • 【図表2】米ドル/円の5年MAからのかい離率 (1990~2019年)(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

    【図表2】米ドル/円の5年MAからのかい離率 (1990~2019年)(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

今度は同じ方法を、米ドル/円でも試してみましょう。【図表2】は、米ドル/円の5年MAからのかい離率ですが、やはり2015年6月頃は、1990年以降で最高の米ドル「上がり過ぎ」、逆にいえば円の「下がり過ぎ」になっていました。

以上のように、この5年MAからのかい離率で見ると、円は総合力で見ても、対米ドルで見ても、少なくとも1990年以降でこれ以上は下がったことがないところまで、2015年6月の黒田発言がある前までにすでに下がっていたわけです。

その意味では、「ここからさらに円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない」という発言は、とても素直に「客観的事実」を語ったものだったといえるでしょう。

「マジック(魔法)」なんか使わなくても、すでに円安も経験的には限界圏に達していたので、そこに黒田総裁という、これまで何度もマーケットを翻弄したようになってきた影響力のある人物、「インフルエンサー」がそのことを確認すると、相場も素直にそれに従ったような結果になったということではないでしょうか。

それにしても、円の実効レートでも米ドル/円でも、5年MAとの関係で見ると、この2015年6月当時は、1998年以来の「行き過ぎた円安」になっていました。米ドル/円の名目の水準は、1998年の円安のピークが148円だったのに対し、2015年6月は125円といった具合でかなり違いましたが、5年MAからのかい離率で見ると同じような「行き過ぎた円安」だったのです。

そのように「行き過ぎた円安」が展開する中で、1997~1998年にかけてアジア通貨危機が起こりました。その意味では、2015年6月以降もさらに円安が続いたら、新たな国際金融危機を招いたとして批判を浴びる懸念はあったのかもしれません。

歴史に「if(イフ)」はないですが、そうならなかったのは、結果として円安幕引きに成功した黒田総裁の「功績」ではないかと私は思うのです。