搬送された病院で涙が止まらず

救急車では、救急隊員の方がお決まりの「大丈夫ですか? 私の声が聞こえますか?」という質問をした後、「今日はミーティングで重要な役を任されたり、責任が重い担当だったりしたんですか?」と聞いてきました。

私は自分の「在宅プログラマーなりに認めてほしい」と小さすぎる希望と、単なる通常報告という大した責任を伴わない打ち合わせの内容を思い出して笑ってしまい、「ぇえ? 全然そんなことありません。どうしてそう思われるんですか?」と聞き返したら、「あなたの体がものすごく緊張してるんですよ」と真顔で言われてビックリしました。

「緊張するようなシチュエーションじゃないのに緊張してるというのはどういうこと? 救急車なんて滅多に乗れないから?」などと、頭の中でアホな自問自答をしていたら、救急車に同乗してくれていた関連会社の女性が察したようにギュッと手を握ってくれました。

私が所属していた会社の男性社員しかおらず、具合が悪くなった女子社員の扱いに困っていたようで、その女性が見るに見かねて救急車に同乗してくれたのです。彼女は「大丈夫、私も同じような症状になったことがあるのよ」と言いながら、また手を握ってくれました。

その途端、涙腺が壊れたように涙が溢れ出して止まらなくなりました。ちなみに、そこには「悲しい」とか「辛い」という感情はなく、ただ涙が止まらないという不思議な現象でした。心とは別のところで、単に涙腺の緊張が緩んだ状態だったのかもしれません。

上司のメールに添付された子猫の画像に癒されて

その女性は私を病院に送り届けた後、私の上司に直接「少しの間休ませてあげて。それと女性の気持ちをもっと汲んであげて」というような進言をしてくれたようで、自宅に戻ると上司からメールが届いていました。

そのメールには口数の少ない理系男子の上司らしく、「少しの間休んでください。仕事も一時的にスローダウンしましょう。添付の画像で早く元気になってください」と書かれていました。添付画像を開いて出てきたのは、何とも愛らしい仔猫の写真でした(いや~、あの仔猫には本当に癒されました・笑)。

このコラムでも愛猫のコラムを書いているように、私は"猫バカ"なのですが、口数の少ない上司が仕事とはまったく関係ない仔猫の写真を送ってくれた意外性もあったのか、心を開いていないのはむしろ自分のほうだったかもしれないというポジティブな気持ちになり、この事件をきっかけにいろいろな話ができるようになっていきました。

そして、当時は自分が辛いという気持ちで精一杯でしたが、今は自分が上司と同じ立場なので、当時の上司の気持ちがわかるようになってきました。作業者がサボっているのか、はたまた真剣に取り組んでいるのか、依頼した側には見え難いことも見抜き、それを一度信じたら信じ抜くことの大切さなど、逆の立場になり多くのことが見えてきました。

完治までにかかった期間は1年

その時の症状は今でも時々思い出しますが、横になっても頭がぐるぐるしている感じがしたり、どんなにリラックスしていても思うように体が動かなかったり、何もないのにドキドキして苦しくなってしまったりしてしまうのです。今までに経験したことがないことなのでどう対処していいかわからず、また、自分が自分ではないような気がして怖くてまたドキドキしてしまったこともありました。こうした症状はだんだんと緩やかになり、半年後にはほとんど出なくなり、1年後にはすっかり良くなりました。

正直なところ、当時は「まさか自分がこんな病にかかるなんて!?」と信じたくない思いも強かったです。しかし、同業者に聞いてみると、やはり27歳~30歳くらいの間にそれぞれ弱い部分を患った人が多いことに驚きました。うつ病のような症状が出る人もいれば、一時的に耳が聞こえなくなったり、味覚がおかしくなったりという症状の人もいたりと、心身の両面に影響が出るようです。

世の中にはストレスによる弊害が私よりも重症で悩んでいる方が少なくない中、この程度の症状で、それも養う家族がいない年齢で、「ストレスは放置するな」という教訓を得ることができ、「自分はラッキーだった」と今では思います。しかし、つい仕事に夢中になるとセーブすることを忘れてしまいがちなので、「あの時の1年に戻らないで済むなら、どんな努力でもしよう!」と、何度も決心し直しています。

このように、私にとって在宅で仕事を続ける上でストレスを放置しないことは最優先事項1つであり、まだ経験のない人たちに同じことが起こらないように極力配慮しているつもりです。

当時、私は家族と同居していましたが、救急車で運ばれた日すら、周りは気づかないほど普通の様子でした。ましてや1人暮らしなら、自分の体や心の信号を見逃しがちだと思います。そして、無理をしてしまうタイプの人は休むことがそもそも苦手なのではないでしょうか?

私も最近は「あれ? ストレス溜まってるかも……」と思ったら少しは自分を甘やかし、何となく罪悪感を感じながらも「いや、この甘やかしは薬なんだ!」と思うようにしています。

起業は、考えようによってはストレスの宝庫のようなものです(笑)。だからこそ、「自分が無理すればいいや」ではなく、自分が倒れた時に与える損害や弊害を常に意識して、今まで以上に体も心も健康管理していく必要があると思うのです。

執筆者プロフィール

藤城さつき(Satsuki Fujishiro)株式会社タンジェリン代表取締役。
在宅勤務に重点を置き、全国各地の技術者やデザイナー(在籍250名以上)を臨機応変にチーム編成しながら、豊富な質と量の技術力を提供する。今のところ、在宅勤務に対する障害・偏見は多いが、今の日本人にとって絶対に必要なワークスタイルの1つと信じて日々邁進中。
一方、会社員時代に設立した、コンピュータ関連業界で働く女性のためのコミュニティ「eパウダ~」を運営。男性が多いこの業界における女性の人間関係・働き方・生き方についても日々模索中。旦那1頭と兄弟猫2頭の4頭家族。