イランの宇宙開発の今後

イランの宇宙開発の今後は不明瞭だが、少なくとも続けていく意志はあるようだ。例えば、すでに完成し、打ち上げを待つ衛星が何機か公開されており、今後順次打ち上げられていくものと思われる。ただ、これまでに打ち上げられた衛星も含めて、衛星の性能や投入される軌道からして実用的なものであるとは考えにくく、これからもしばらくは技術開発や国威発揚を目的としたものに止まるだろう。

ただ、この連載の第1回で触れたように、現在サフィールより大型のシームルグ・ロケットの開発を進めている。これが実用化されれば、地球観測や通信を行うのに、ほぼ十分な性能をもった衛星を打ち上げることが可能となる。静止衛星の打ち上げは無理だろうが、例えば太陽同期軌道から地表を定期的に観測したり、ある場所から発信された通信をいったん衛星に貯め、地上局のある上空を通過した際にその通信をダウンロードする、ストア&フォワード方式の衛星などを打ち上げることは可能になるだろう。

さらに、より大型のロケットの開発、研究も行われているとされ、大型の人工衛星や、静止衛星の打ち上げも狙っているものと思われる。

またルーホッラー・ホメイニー宇宙センターでは、新しいロケット発射台の建設も行われている。おそらくシームルグや、さらに将来のロケットの打ち上げに対応したものだと思われる。

サフィールの発射台は、円形に慣らされた地面の上に、ロケットと衛星の整備棟と避雷針が建っているだけの簡素な造りだが、新しい発射台は、一見すると他国の発射台と遜色のない立派なものであることが衛星写真から判明している。例えば、発射台の下にはロケットの離昇時にエンジンの排気を逃がすための煙道が掘られており、また整備棟も大型で、かつレールの上に乗っており、可動式であると推測される。また、この整備棟は全長およそ45mほどと見られており、全長22mのサフィールはもちろん、全長27mのシームルグにとっても過剰な大きさである。このことからも、シームルグよりも大型のロケットを開発する計画がある可能性は高い。

また発射台の設備や配置などは、インドのサティシュ・ダワン宇宙センターのものとの関連性が指摘されており、インドから何らかの技術支援を行った可能性は否定できない。もともとインドは、イランから原油を仕入れているなど関係は悪くなく、対イラン制裁にも消極的であった。

Nuclear Threat Initiative(NTI)によるルーホッラー・ホメイニー宇宙センターの考察

イランの有人宇宙計画

小動物やサルを乗せた打ち上げを行っていることからもわかるように、イランは有人宇宙飛行への意欲も持っている。実施時期については「この数年のうち」や、2014年には「4年以内に」といった発言がされており、2020年ごろまでには打ち上げる予定のようだ。

ちょうどこの記事を執筆している2月17日時点では、有人宇宙船の実物大模型が公開された。この宇宙船は1人乗りで、直径1.85m、全高2.3m、打ち上げ時の質量1,800kgであるという。また帰還時には1,000kgになるとされ、つまり800kg分が、推進剤や帰還時に分離する部品ということになる。

外見はスペースX社のドラゴンV2宇宙船を参考にしたと思われ、内部の青白い照明で未来感を演出する細工も、ドラゴンV2やボーイング社のCST-100宇宙船を参考した節が見受けられる。

現在イランが運用しているサフィール・ロケットは、打ち上げ能力の小さな非力なロケットではあるが、弾道飛行であれば、この宇宙船を打ち上げることは十分に可能だろう。

弾道飛行とは、第一宇宙速度に達しない、つまり地球の軌道に乗らない飛行のことで、サブオービタル飛行とも呼ばれる。弾道飛行で打ち上げられた宇宙船は、ちょうどボールを投げたときのように、大きな放物線を描くように飛行して、すぐに地上に落ちてくるような飛行経路を取る。地球の軌道には乗らないため、宇宙を飛行する時間はごく短く、だから「弾道飛行は宇宙飛行ではない」と主張する人もいるほどだ。

その一方、能力の小さいロケットでも打ち上げることができるという利点があり、また第一宇宙速度をはるかに下回る速度しか出さないため、大気圏再突入時の熱もそれほど高くならず、耐熱システムの開発が比較的簡単という利点もある。また飛行時間が短いということは、逆にいえば宇宙飛行士の生命維持システムの開発も簡単に済むということでもある。

ちなみに、米国が1960年代に実施したマーキュリー計画で使われたマーキュリー宇宙船は、このイランの宇宙船と同じく1人乗りで質量は1,800kgほどで、また弾道飛行したフリーダム7とリバティ・ベル7の打ち上げに使われたレッドストーン・ロケットも、サフィールとほとんど同じ性能をもっていた。マーキュリー計画の初期にはチンパンジーを打ち上げて試験したこともあり、イランは宇宙船の仕様や開発や試験の進め方について、マーキュリー計画を参考にしている可能性もある。

たとえ弾道飛行でも、「イランが人間を宇宙に飛ばした」という事実がもつ意味は大きく、もし実現すれば、イラン国民や周辺国に対する大きなアピールになろう。また、サフィールやシームルグ以上の性能をもつ大型のロケットの開発に成功すれば、軌道飛行を実施する可能性もあるだろう。

公開されたイランの宇宙船の実物大模型と、それを視察するハッサン・ローハニ大統領 (C)Islamic Republic of Iran's Presidency Website

拡散するロケット技術が孕む危険性

イランの宇宙開発は多くの興味深い事柄にあふれているが、忘れてはならない事実として、2010年6月9日に国連安全保障理事会が採択した安保理決議第1929号により、イランは弾道ミサイルに関連する活動を禁止されている、ということがある。したがって、今回のファジルの打ち上げはこの決議に違反している。

この状況は、同じく国連安保理決議によって、弾道ミサイルに関連する活動を禁止されている北朝鮮とよく似ている。しかし、北朝鮮が人工衛星の打ち上げ(日本政府の見解では「『人工衛星』と称するミサイル発射」)を行った直後には、安保理によって非難決議や制裁決議が採択されたり、報道声明が出されたりしたのに比べ、今回イランはそうした「罰」を受けていない。今のところは、米国国務省が2月2日に行った定例会見の中で、報道官が懸念を表明する程度に止まっている。

またイランは、より以前の安保理決議第1737号(2006年)、第1747号(2007年)、第1803号(2008年)でも、弾道ミサイルに関連する技術の開発を禁止されているが、2009年に初めて人工衛星の打ち上げの成功したときにも非難決議や制裁決議が下されたことはなかった。このような違いが生まれている背景には、イランと北朝鮮に対する米国の政策の違いがあるようだが、しかしこうした状況は、北朝鮮や他国にとって「イランがお咎めなしなら自分たちも」と、ロケット開発や発射実験を続行する口実となってしまうだろう。

ただ、矛盾するようではあるが、ロケット開発を法によって拘束することはもはや難しいのかもしれない。コンピュータや工作機械の発達によって、高い性能さえ追求しなければ、それこそ自宅のガレージのような環境でも人工衛星を飛ばせるほどの能力をもつロケットを開発することは不可能ではなくなった。イランのロケット開発の歩みはそれを証明している。いずれ他の国や、あるいは非国家、非正規の集団によってロケットが造られる日も、そう遠くはないかもしれない。

残された歯止めは、通常弾頭の弾道ミサイルは軍事的にあまり意味がないということと、ミサイルに搭載できるほど小型の核兵器の開発は難しい、といったことぐらいだろう。しかし前者は、ある弾道ミサイルでどの程度の被害を与えるかではなく、弾道ミサイルを使うことそのものが目的となるような事態、つまり政治的な目的が優先される事態になれば無意味になることであり、後者も技術的に難しいというだけで、不可能というわけではない。

また、人工衛星を造る技術も一般的になりつつある昨今、衛星攻撃兵器が配備されるような時代が再び来ることになってもおかしくはない。さらにその先に、軌道上への核兵器の配備や、高高度での核爆発による電磁パルス(EMP)攻撃が行われる可能性も、以前より高まりつつある。

これから世界は、ロケット技術の拡散と、それが孕む危険性と対峙していかなければならないだろう。だが、いつか必ず、宇宙開発が平和利用の理念の下に、希望に満ちた未来を切り拓く光となる日が来るはずだ。そのために私たちは何をすべきなのか、いま一度考える必要があるのではないだろうか。

参考

・http://www.nti.org/facilities/313/
・http://lewis.armscontrolwonk.com/archive/7525/its-not-a-rocket
・http://www.un.org/press/en/2010/sc9948.doc.htm
・http://www.refworld.org/cgi-bin/texis/vtx/rwmain?docid=4c1f2eb32
・http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2015/02/237049.htm#IRAN