米国のアフガニスタン戦争に関連した機密情報の公開で注目を集めているWikiLeaks、言論の自由と報道の自由を求め、スウェーデンを拠りどころにしようとしているようだ -- WikiLeaksを創設したJulian Assange氏は8月、スウェーデンで出版の認可を得るためすぐにも申請手続きに入ることを明らかにした。WikiLeaksとスウェーデンの関係についてまとめてみた。

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2009年、スウェーデン・ストックホルム中央駅に集まる海賊党のメンバー。一番左の紫のポロシャツを着た男性は、海賊党の創始者Rickard Falkvinge氏

スウェーデンといえば、BitTorrent検索サイトのThe Pirate Bayが思い出される。世界にその動きが広まりつつある情報政治政党「Pirate Party」が生まれたのもスウェーデンだ。

そして今回のWikiLeaksだ -- WikiLeaksは2006年にオーストラリア出身のAssange氏らがスタートしたWikiサイトで、政府や企業に関する匿名による機密情報の公開を目的とする。技術的にはMediaWikiの修正版、OpenSSL、FreeNet、Tor、PGPなどを使い、情報源の匿名を守ると同時に、情報の信憑性をチェックする機構を持つとしている。これまでWikiLeaksの代表的なリークとして、Sarah Palin氏の電子メールハッキングがある。2008年、当時副大統領候補者だったPalin氏のYahoo!アカウントがハッキングされ、WikiLeaksに流出した事件だ。

その後、資金難に陥ったと聞いていたが、2010年春にイラク戦争中に米軍がイラク市民やReutersの記者を攻撃した映像を公開し再び注目される。7月25日にはアフガン戦争に関する機密情報として、約7万7,000件もの情報が公開された。泥沼化といわれるアフガン戦争動向もあり、WikiLeaksに公開された情報はオンライン/オフラインで大きな話題となった。米国防長官のRobert Gates氏が「少なくとも道徳上は有罪だ」とコメントするなど、米国政府は動揺や怒りを隠せない様子だ。米国政府はリークについて連邦捜査局(FBI)に捜査協力を要請したといわれており、WikiLeaksにも調査の手が及ぶ可能性もありそうだ。だが、Assange氏はアフガン戦争について、数週間以内に追加で機密情報を公開する計画をほのめかすなど、強気だ。

WikiLeaksのWebサイトを支えるのがスウェーデンのホスティング会社、PRQ(PeRiQuito)だ。WikiLeaksは2008年よりPRQのサービスを利用しているというが、その最大の理由がPRQの特徴にある。PRQはスウェーデンの法律を遵守する限り、コンテンツの内容を問わずにホスティングするとうたっており、その顧客は、The Pirate Bay、NAMBLA(北米少年愛協会)など企業、団体、個人をあわせ約600という。Webサイトでは、"フリースピーチ・ヘイブン"と自らを形容し、削除要求のプレッシャーに屈することなくホスティングを続けるとする言論の自由への支持、機密保持、技術力などを強みとすると記している。

その背景にあるのが、言論の自由と報道の自由を尊重するスウェーデンの法律だ。スウェーデンでは出版許可(スウェーデン語で"Utgivningsbevis")を得た出版物(Webサイト含む)に対し、情報源の秘匿を約束している。欧州の中でもスウェーデンの情報源秘匿は強固で、政府機関による情報源捜査を法律で禁じているという。

ところが8月7日、スウェーデンの日刊紙Sydsvenska Dagbladetは、「WikiLeaksの情報源がスウェーデンで完全に保護されていると理解するのは単純すぎる」というスウェーデン司法当局のHakan Rustand氏の見解を報じた。WikiLeaksはスウェーデンにサーバを置いてはいるが、出版許可を得ておらず、法律による保護は約束されないと理由を説明している。

これを受け、WikiLeaksのAssange氏はスウェーデンの出版許可を得る手続きに入る計画を明らかにしている。これを報じたSwedishwireによると、Assange氏は「スウェーデンはわれわれにとって生命線」とし、以前からスウェーデンの人や法律の支援を受けてきたと振り返っている。また、スウェーデンは出版者という「新しい種類の"亡命者"」に場所を提供しているとしてスウェーデンの存在を高く評価している。

WikiLeaksの一件は同サイトが利用するPRQにもスポットを当てたらしく、AP通信などが首都ストックホルム郊外にあるというPRQの拠点で所有者のMikael Viborg氏(27歳)に取材している。Viborg氏はWikiLeaksは顧客の1社であり、それ以上の特別な関係はないこと、WikiLeaksの件で米国政府からもスウェーデン政府からもまだ接触がないことなどを語っている。もし接触があったとしても、「良識を持った行動を取れと(政府側から)いわれたとしても、それに屈することはない」と述べるなど、PRQの信念を貫くことに自信をみせている(なお、WikiLeaksはベルギーにもサーバを持つ)。

関連情報として、Assange氏はアイスランドの新しいイニシアティブIMMI(Icelandic Modern Media Initiative)にも関わっている。IMMIはデジタル時代の言論の自由と透明性を目指す法案で、Webサイトによると"不正調査などのジャーナリズムにセーフヘイブン"をもたらす(Assenge氏は"ニューメディア・ヘイブン"としている)という。IMMIは7月、アイスランド議会を通過している。