中国では撤退まで噂されているGoogleだが、グローバルに展開する同社が文化の壁を感じているとすれば、それは中国だけではないだろう。1月初め、フランス政府は"Google税"なるものの導入を提案する調査書を発表した。

Google税とは、オンライン広告の売上げに課税するというアイデアだ。1月6日にフランス文化省がNicolas Sarkozy大統領に提出した調査書「Rapport Creation et Internet」(通称「Zelnickレポート」)で提案されたもの。

この調査書は、インターネットがクリエイターや消費者にどのように役立つのか、音楽や映画、出版/メディアなどの文化産業をどのように財務支援するかを探ることを目的としたものだ。作成者は、インディーズレーベル連合Impalaの共同プレジデントのPatrick Zelnick氏、文化大臣と法務大臣を務めたことがあるJacques Toubon氏、オークションSothebyのフランス支社CEOのGuillaume Cerutti氏の3人。Zelnick氏はレコードレーベルNaiveの社長。Naiveは、フランス大統領夫人でもある歌手 Carla Bruni-Sarkozy氏が所属するレーベルである。フランス政府は2009年、3ストライクでのファイル共有対策を含む「Creation et Internet」(通称「Hadopi」)法を成立させたが、これをフォローするものとして、文化大臣が2009年秋、Zelnick氏らに作成を依頼した。

調査書では、Googleはフランスのオンライン広告で年間8億ユーロ(約1,046億円)程度を売り上げていると見積もっている。だが、GoogleはMicrosoftなど他のグローバル企業と同様、欧州内で法人税率が低いことで知られるアイルランドを欧州本拠地とすることで法人税対策を行っており、フランスでの納税額は少ない。Google税の比率など詳細は未定だが、年間1,000万 - 2,000万ユーロ(13億790万 - 26億1,543万円)を徴収できると見ているようだ。もちろん、課税対象はオンライン広告なので、Google以外のオンライン広告事業社(YahooやMicrosoftなど)の売上も対象となる。

Zelnick氏らは調査書で、このようにして得た税収を、インターネットの"無料カルチャー"により窮地に立たされている文化活動の経済支援の財源にすることで、利用者はインターネットで文化コンテンツにアクセスし、同時に著作権などの知的所有権を保護できる、と主張する。調査書ではこのほか、合法/有料音楽ダウンロードの利用を促進すべく、若者に50ユーロ相当の音楽バウチャーのようなものを配布することも提案している。

この調査書は今後、大統領によるレビューを受けることになる。Sarkozy大統領は提出の翌日に開催されたイベントの席で、Googleなどの企業は本拠地で納税しているが、フランスの広告市場で重要な役割を果たしている、などと述べ、Google税支持をにおわせたようだ。また、独占禁止法の立場からGoogleを調査するという案にも理解を見せている。

これに対し、Google側はこのような政策はイノベーションを阻害するとして反対、文化/コンテンツ業界が直面している課題については、新しいビジネスモデルの開発が必要とする見解を示している。

Google税を支持するのが、以前の本コラムで紹介したフランスの新聞社 Liberationだ。経営難にあるLiberationは、インターネットによりニュースコンテンツ無料化が促進されたとし、ISPに課税することを提案していた。

だが、報道の中には批判も多い。測定が難しいとする技術的な課題も挙げられるが、Financial Timesのドイツ版は考え方そのものについて、インターネットの本質を理解していない非常識なものと酷評、「Google税対策としてインターネット企業がフランスユーザーを遮断するような事態になれば、地元のインターネットユーザーに悪影響を与えるだけだ」と述べている。

また、ISPやインターネットサービス企業は、アーティストから搾取しているというよりも、新しいオーディエンスや利用者をもたらしているという意見もある。

インターネットでは、国境などさまざまな壁が取り除かれつつあるが、文化や考え方となると簡単ではない。商業活動に貪欲なアングロサクソン的思考はフランスではあまり良しとされない(上限のない、だが還元なき売上の増加を食い止める、と調査書の筆者らは述べている)。一方、フランスは芸術における保護主義が伝統的に強い国だといわれているが(たとえば、外国映画の上映には制限がある)、このアプローチも外に出れば賛否両論だろう。Google税は、文化と芸術、税や社会に対する考え方の違いまでも含む議論に発展する可能性がありそうだ。

Zelnickレポートに代表されるように、フランスはこのところ、Googleとの愛憎関係を深めつつある。フランス裁判所は12月、Googleの書籍デジタル化は著作権法違反と主張するフランスの出版社の主張を認める判決を下し、Googleに罰金を科した。その書籍デジタル化で今度は、国立図書館(BNF)がGoogleとの提携を示唆、交渉/かけひきに出ているようだ。