そろそろ10月が終わります。ということは、2007年は残り2カ月しかないということです。ということは、そう遠くないうちにボーナスが入ることだし、冬休みの旅行を計画したり、あれやこれの支払いなどを考えたりと、お金の計算をすることが多くなってくる時期ですね。皆さん、支払いは現金、それともカードですか? 日本ではこの2種類が主なお金の支払方法ではないかと思いますが、ここ米国ではチェック(check: 小切手)が多用されています。チェックといえば、第13回で私は何気なく「チェックをvoid(無効)にする」などという話をしましたが、チェックって何だろうと思った方がいたかもしれません。今回は英語の話からは少しそれますが、米国生活に密着しているチェックの話をしましょう。

米国市民の生活を支える小切手とは

チェックはお金持ちが持っていて、高額の支払いをサラサラと書き込んで渡すもの…ではなく、ごく普通の人がスーパーマーケットでも、学校の集金でも、家賃でも、公共料金でも、そしてクレジットカードの支払でも、何でも支払うときに使うものです。(正確には"使う"のではなく"書く(write a check)"です)。日本のクレジットカードのように銀行口座から直接引き落としになるシステムと違い、米国ではカード会社から送られてきたbillを確認してチェックを書くようになっています。「銀行を使いこなす-アメリカ生活大辞典」に解説があるように、米国生活はチェックを手に入れるところから始まると言ってもいいくらいでしょう。

では、チェックとはどのようなものでしょうか。「Style-アメリカに住む」に画像で紹介されていますが、銀行へ申し込むと、このような紙が束になっているチェックブックが届きます。この図のうち、

  • 1…支払人の住所/氏名
  • 7…チェックの通し番号

は最初から入っているので、

  • 日付(この図には日付の説明がないのですが)
  • 2…チェックをキャッシュ(現金)に換金できる人/団体
  • 3…数字で書く金額
  • 4…文字で書く金額
  • 5…何の支払いかのメモ
  • 6…署名

を書き入れます。チェックを書いたら郵送するのが一般的ですが、学校の集金なら子供に持たせて先生に渡してもらったり、場合によっては直接手渡すこともあります。チェックを受け取った人は銀行に行って、正当な受取人である証明(ドライバーズライセンスなど)を見せると、記入されている金額分をキャッシュで受け取れるようになっています。

チェックが現金と違うのは、受取人が指定されている上に、必ず間に銀行が介在するので、現金よりもずっと安心な支払方法だという点です。間に入った第三者が換金しようとしても、受取人である証明ができないと銀行はキャッシュを渡しませんし、いつキャッシュに換金されたかをチェックのコピーを付けてレポートしてくれるので、経緯もよくわかります。後になって払っていないと言われても、銀行のレポートがあるので大丈夫です。米国は日本のように「そんなことをする人はいないでしょう」などといった常識をあてにしないほうがいい社会なので、より安全なお金の使い方としても定着しているのだと思います。また、一時的に集めたお金を保管しなければならないときも、現金よりは気軽に預っておけます。

チェックは手元に現金がなくてもいつでも書けるので、急に支払いをしなければならなくなったときに慌てなくていいというのも便利なところです。子供の学校の集金日を忘れていて「今日まで」などど朝になって言われたときにも、ささっと書いて子供に渡すだけです。また、近所の子供たちがファンドレイズ(fand-raise: 募金)のために、雑誌やお菓子などを買ってほしいと来たときにも、学校宛て(チェックをキャッシュに換金できる人/団体)にチェックを書いて渡してあげればいいだけです。

では、病院もチェックを書けばいいから現金がなくても急病のときに安心…と思った方がいるかもしれません。ところが、米国の病院は「Billを郵送してください」とお願いすれば、後日、請求書が送られてくるので、そのときにチェックを書いて郵送すればいいようになっています。つまり、もともと現金が手元になくても病院で見てもらえるシステムになっているのです。

現金払いでは社会的信用を築けない

さて、どのようなケースでも、どうしてもキャッシュで払いたいならできないことはありませんが、米国ではこれは賢いライフスタイルではありません。というのは、支払い実績が"クレジットスコア"に影響するからなんです。クレジットスコアというのは支払い能力の程度を示す点数で、計算をする専門の会社が、米国で暮らしている人それぞれについて「あなたのスコアは何点です」という記録を管理しています。クレジットスコアはローンや自動車保険の金額に影響してくるので、できるだけ高くしておいたほうがお金を節約できるようになっています。クレジットスコアがどういうもので、どうしたら点数をあげられるかについては"Credit Score - How Your Credit Score is Calculated"に解説がありますが、公共料金などの支払いを期限までに行っているか、どのくらいの額をきちんと支払ってきたか、などが評価されます。現金で支払ってしまっては記録に残りませんので、もったいないのです。

さらに、クレジットスコア計算の要素となっている"クレジットヒストリー(支払い記録)"は、米国生活にはどうしても必要なものです。我が家の場合、米国生活を始めたときにクレジットヒストリーがないことを理由に、固定電話の加入を断られました。また、米国で会社を興された江島健太郎氏のブログ"Kenn's Clairvoyance"のエントリ「出社開始から1カ月」には、"ようやくクレジットヒストリーを溜めていける状況になったことに安堵したり"といった書き込みがあります。米国では、クレジットヒストリーをため、スコアをあげないと不自由な暮らしを強いられるのです。その代わり、スコアをあげる努力をすれば、それに見合う信用を獲得し、おトクな生活ができるようになるわけです。この意味でも、現金ではなくチェック(クレジットヒストリーという点ではクレジットカードでもよい)で支払いをするのが一般的になっているようです。

日本人には理解しにくい米国のチェック(小切手)かと思いますが、どのようなもので、なぜ必要なのか、なんとなく想像できたでしょうか。もし、映画や本の中にチェックを書く/受け取るシーンがあったら、本記事を思い出してみてください。