さらなるグローバル化の伸長が予想される2018年、国内の18歳人口が再び減少し始める。

教育機関関係者のあいだでは、これを"2018年問題"と呼ぶ(2018年問題をご存知ない方は、前回から読んでいただくことを推奨する)。

グローバル化の波を受けた育成人材の変化、アジアを中心とした海外大学の台頭、18歳市場の縮小という時代を背景に、大半の有識者が予測することは、数多くの大学の倒産である。

国内の多くの私立大学は総収入の7割~8割を学納金収入に頼っており、学生数の減少が経営に与えるインパクトは大きい。また、学納金収入以外の収入も大半が国や自治体からの補助金であり、学納金収入の減少を補うビジネスモデルも存在していない。加えて、コスト側面でも固定的支出、B/S(貸借対照表)側面でも固定資産が大半を占めており、総じて状況変化に極めて弱い財務体質を有している。

この状況を踏まえると、将来起こり得るマイナスの状況変化に対して、多くの大学が経営危機に見舞われると考えることが自然である。

一方、アクセンチュアは、国内大学がこの難局を転機として捉え、この先数年間で急速に経営モデル・事業方針を大きく変えるのではないか、そして国内大学の持つ力をもってすれば、2018年問題の影響を感じさせないほど、大きく成長を遂げることが可能なのではないかと考えている。

その理由をより容易に理解いただくことを目的に、1980年代に米国の大学を襲った危機と米国の大学の対応についてまずは触れておこう。

米国では、1980年代中盤から1990年代に掛けて、今の日本と同様に18歳人口の激減に見舞われた。この時、米国内で予想されていた大学の倒産数は200超。しかしながら、(当然M&Aなどの倒産回避策もあったものの)実際の倒産数は60前後という結果であり、いい意味で予想を裏切った。それ以上に感心すべきは、その後の "世界をリードする米国大学"というイメージを確立する礎を築いたことだ。

米国における1860年から2005年にかけての年齢別人口比率の変化(5歳以下、5-19歳、20-64歳、65歳以上に区分) (U.S. Bureau of the Censusのデータを元に編集部が作成)

1955年~2011年における米国の各教育機関への進学者数推移 (出典:School Enrollment in the United States:2011)

18歳人口の減少に見舞われた米国の大学では、学生獲得難の克服に向けて、経営モデルそのものを大きく変化させ、各大学で補助金や教育収入に頼らない企業的なモデルを確立した。変革内容はデリバティブなどを利用した投資収益の増加施策や保有する有形固定資産や人的資産を活用した営利事業の展開、国外からの留学生や企業とコラボレートした社会人の受け入れを活性化など多岐にわたった。つまり、それまで培った教育事業を柱に置きつつも、収入源の多角化を積極的に推進したのである。また、支出面でもアウトソーシングなどの外部リソースの活用を積極的に推し進め、コスト圧縮とコスト体質の転換(変動費化)を両立させた。

結果、米国の大手大学では総収入に占める学納金(授業料)収入の割合を30%前後まで圧縮させる事に成功し、コスト面も変動コスト割合が高まり、学生数の減少に伴う経営に対するインパクトを極小化させた。加えて、他事業から得た収益を教育に投資する好循環モデルを確立し、現在の"世界をリードする米国大学"の基盤となるROI(投資対効果)を高めたビジネスモデルに転換したのである。

では、国内大学も米国の大学同様に事業の多角化を基軸としたビジネスモデルに転換が出来るのだろうか。

その可能性については否定こそしないものの、実現までには相当の時間を要すると考えられ、実質的にはよりマーケットの変化に順応することに主眼が置かれたパラダイムシフトになると考えられる。主に以下の4つ側面から、国内大学は大きく転換していくと予測している。

1. 教育プログラムの転換

学生獲得競争の激化を背に、各大学は差別化を目的として自学に見合う領域に経営資源を集中的に投下し、"戦える武器"を創りあげる。その結果、現在は主流となる経済学部や法学部、工学部などの汎用性の高い学部は一部の上位大学に残る程度で、多くの学部は就職先の業種や業態、企業、進学先などに直結する極めて専門性の高い内容で構成され、授業内容もこれに沿って実践・実学教育に大きくシフトする。一方、従来は自学で提供していたリベラルアーツ的な教育は、上位大学から先端技術を駆使してクラウド的に提供される。また、卒業などの各種認定においても、汎用的なスキル証明というこれまでの位置づけが崩れ、より細分化された領域・レベルに対して単位や修了を認定するかたちに転換していく。

2. 対象マーケットの転換

グローバル化・少子化の煽りを受け、国内の18歳人口を対象とした学生獲得競争が崩壊する。

学生獲得競争は社会人や企業研修にまで広がりを見せるとともに、その範囲も東南アジアやBRICS (ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)などの諸外国にまで拡大し、Inboundでのグローバル化が進展する。

3. 提供場所の転換

昨今の急速なデジタル化を背景に、従来のキャンパスに軸を置いた教育スタイルから、大部分の教育の場をインターネットに転換していく大学も増加する。デジタルを活用した授業スタイルとはVirtual Class Roomを指しており、これまでの片方向でコンテンツを提供するeLearningとは一線を画し、教員や他の履修学生と双方向でコミュニケーションを行え、自身の環境があたかも教室にいるような錯覚に陥る環境になる。

4. 経営モデルの転換

マーケットの流動性が高まることで、特に小規模の大学は保有していた固定資産の大部分を手放し、自治体や企業などと連携したレンタルキャンパスに移行する。また、人材においても必要最小限の精鋭部隊のみを有し、不足人材はアウトソーシングなどを活用することで経営状況に合わせて柔軟に最適量を調達する。

この転換は学生にとって大きな意義をもたらす。学生ひとりひとりが世界中に溢れる多様なコンテンツを自由に組み合わせ、最適な教育を自分自身で確立することができるようになる。そしてそれらのコンテンツは教室だけでなく、バーチャルな世界からもアクセスが可能となり、コンテンツに対する満足度は瞬く間にインターネットを通じて拡散し、次の受講生の重要なインプットとなる。これが学生視点からみた将来の国内大学である。

大学経営も企業同様、生き物であり、マーケットの状況が変われば、柔軟に対応をしていく必要がある。国内大学は、グローバル改革やガバナンス改革といった目先の改革も必要ではあるが、中長期を見据えた大きな変化を追求する事も必要になってくるのではないだろうか。

実際、近年の大学改革ではこの動きを予兆するかのように、出口戦略に焦点を当てた学部再編や経営改革が相次いで生じている。次号ではこれらの事例を紹介しつつ、2030年に向けた国内大学転換についてさらに深堀していく。

(次回は7月下旬の掲載予定です)

著者プロフィール

根本武(ねもとたける)
アクセンチュア株式会社 公共サービス・医療健康本部 マネジャー
入社以来、数多くの大学改革案件を主導。
経営戦略や教育改革、組織・業務・IT改革に至るまで幅広い分野に精通。
保有資格は中小企業診断士、システムアナリスト、テクニカルエンジニア(ネットワーク)など