最高学府である大学の危機が叫ばれて久しい。18歳人口の激減と相反するかたちで大学数が増加し、結果的に需給が逆転する状況が存在しているからだ。メディアを賑わせている有識者による将来予測の大半が「大学の経営難と将来的な大量倒産」を示す内容になっている。

読者の皆さんは、母校の倒産や廃校、御子息が通う大学が経営難という状況を想像する事は出来るだろうか。私が属するアクセンチュアでは教育機関専門チームを有し、大学の再建やさらなる発展に向けた支援を日々提供している。アクセンチュアでは、「国内大学はこの先20-30年間でパラダイムシフトが生じ、再び成長路線に乗る」と考えている。

本連載では、アクセンチュアが予測する国内大学のパラダイムシフトについて、その一端を紹介する。

なお、本号では、起こり得るパラダイムシフトを紹介する前段として、国内大学の設置経緯や置かれている状況について解説する。

大学の有り様はいかに変化してきたのか

はじめに、大学が最高学府として設置され、国民から広く認知を受けた創生期。この期間は大学を出ることが一種のステータスでもあり、限られた人間にだけが入学を認められる最高学府として大学は君臨していた。

国内大学の歴史は、1877年に東京開成学校と東京医学校が合併し、東京大学が創設された事に端を発する。その後、帝国大学令や大学令の下で各地に大学が創設され、1947年に施行された学校教育法によりその位置づけはさらに明確化した。この間は大学と言えば"高度な研究"を行うものであり、大学を出た人材は社会から相応の機会を得られるという社会的通念が長きに渡って存在した。

1991年、この状況に大きな変化が生じる。

大学設置基準が大綱化されたことで、比較的短い期間で大学数が500程度から800近くまで増加した1 。大綱化の目的は"各大学の特色を活かした教育・研究活動の推進"であったが、大学設置に係る要件が実質的に緩和されたことで、結果として数多くの新設大学が誕生し、約半数の若者が進学する今日の姿へ変貌した。つまり、限られた者にしか門戸を開かなかった大学が大衆的な位置づけに転換し、この状況は現在も継続している。

1948年から2014年までの大学数の変化 (文部科学省資料を元に編集部が作成。クリックすると拡大した図が見れます)

このような状況変化にありながら、大綱化の直後の1992年から、我が国の18歳人口は継続的に減少し、200万人程度いた18歳人口は、現在では120万人前後まで落ち込んだ2。一方、18歳人口減少の流れと相反する形で、大学進学率は20%台から50%台まで伸長した3。この結果、18歳人口市場は縮小する一方で、大学進学者数は増加するという逆転現象が生じたのである。

日本の18歳人口と大学進学人口の推移 (内閣府資料を元に編集部が作成。クリックすると拡大した図が見れます)

アクセンチュアでは、大学改革の必要性が長年叫ばれ続けたにも関わらず、遅々として進まなかった要因はここにあると考えている。

そして現在、日本経済はグローバル化の波に呑まれようとしている。

国内マーケットの停滞・縮小を背景に、企業は成長の矛先を軒並み海外、特に新興国に向けている。この流れはビジネスサイドのみならず、採用動向にまで広がり、国内の大手企業では外国人採用が加速し、企業が大卒者に求める要素もこれまでとは様変わりしつつある。

また、海外大学に目を向ければ、中国や東南アジアの大学の台頭は目覚ましく、3月に発表されたタイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)世界大学評判ランキングでは、シンガポール国立大学や中国の清華大学が京都大学より上位にランクされている。この状況を鑑みると、国内の優秀な学生が軒並み海外大学に流出することも容易に想定され、実際、2015年度入試では東京大学合格者の一部において、「海外大学への進学」を理由に辞退者が続出という、数年前では考えられないニュースも存在している。

東京大学の安田講堂(左)と赤門(右)

2031年には8万人分の定員割れの可能性も

くわえて、今から3年後の2018年には、国内大学に対してさらに追い込みがかかる。通称「2018年問題」だ。

2009年以降は120万人前後で推移していた18歳人口が、2018年以降に再び減少に転じる。その結果、2031年には18歳人口が100万人を割ると予測されている4。一方、大学進学率は2010年の52.2%を頂点に5、ほぼ横ばいとなっており、今後の伸長に対する期待も薄い。結果、2013年時点で61万人程度いた大学入学者数は6、2031年には50万人程度まで減少すると予測される7。2013年の国内大学総入学定員数が約58万人であるため8、単純に考えると2031年には8万人分の定員割れが生じる計算になる。

これが多くの大学関係者が恐れている「2018年問題」であり、多くのメディアで「大学の大量倒産」を示唆する主たる要因である。

「2018年問題」は大学にとっての好機

アクセンチュアでは「2018年問題=大学の大量倒産」という予測に対して、見方を変えればチャンスにもなり得ると考えている。

具体的には、2018年問題によって大きなインパクトを受ける国内大学は存在するものの、各大学ではこれを転換期とみなし、過去、例を見ない大規模な改革が次々に生まれてくる。結果、多くの国内大学は継続的に存続していくという見方も充分可能であると考えている。

マーケットの本質的縮小は大学だけに限った話ではなく、他の産業においても長い経済の歴史の中で幾度となく存在し、それらを乗り切った例も数多く存在する。焦点を大学に絞っても、1980年代の急速な少子化に対して、抜本的な改革をもって乗り切り、倒産数を最小限に留めた米国の例も存在する。

実際、国内大学においても近年急速に危機感が醸成されてきており、多くの大学で大規模な改革が進みつつある。グローバル化が進む現在にあっても、日本経済を持続可能なものにしていくには、未来を担う人材を輩出する大学の再興は不可欠である。

大学を取り巻く状況は決して明るいものではないが、数多くの国内大学がこれまで以上に活性化されることを願いつつ、次号以降でアクセンチュアが考える方向性や社会、大学、学生、保護者が持つべき視点について解説する。

(次回は6月25日の掲載予定です)

1) 出典:文部科学省「学校基本調査」。1990年代から現在までの大学数の推移
2) 出典:文部科学省「18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移」
3) 出典:文部科学省「学校基本調査」 4) 出典:文部科学省「18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移」
5) 出典:「第43回 減少する大学進学率 52.2%(2010)→50.8%(2013】~学位に依存しない社会の到来?~ | 日本生命保険相互会社」( https://www.nissay.co.jp/enjoy/keizai/43.html )
6) 出典:文部科学省「18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移」
7) 厚生労働省の人口動態調査によると2012年の出生数が約100万人なので、進学率が50%前後で推移すると50万人程度になると予測される。 8) 出典:文部科学省「学校基本調査」

著者プロフィール

根本武(ねもとたける)
アクセンチュア株式会社 公共サービス・医療健康本部 マネジャー
入社以来、数多くの大学改革案件を主導。
経営戦略や教育改革、組織・業務・IT改革に至るまで幅広い分野に精通。
保有資格は中小企業診断士、システムアナリスト、テクニカルエンジニア(ネットワーク)など