かき氷は熱いと溶けます。これは、たとえば鉄でもガラスでもそうで、高温にすればとろけますな。ところが、たまごは火をいれると固まります。うーん、なんでなんだー! そんなことを、ちょっと掘ってみたら、冷ますと溶けるアイスクリームなんてオモシロイのも発見しましたので、そのお話もあわせてご紹介しますねー。

世間では、夏はやせる季節だそうですが、不肖・東明、いつも夏は太っております。アイスクリームにジュースをガバガバ飲み、朝は甘いシリアルを食べるからでございますな。そんな暑いさなか、あえて外に出て目指すのは、かき氷でございます。ブームとかで、ウマイかき氷屋が増えているんですよねー。これが。

最近のちょっとお高いかき氷は、あまりキーンとしないのも多いのですよ。天然氷を使っているやつがそうですな。これは、意外なのですが、フリーザーの氷よりも、不純物が少ないからなんだそうです。不純物が少ないと、氷は教科書どおりに0℃で溶け始めます。ところが不純物があると、塩なんかが有名ですが、マイナス5℃なんかで溶け始めてしまう。天然氷の方が「温かい氷」なんですね。この差がキーンとなるかどうかのポイントなんですなー。

そういうと「純水で氷つくったらいいんじゃね?」となりますが、そのとおりでして、そういうかき氷屋さんはあちこちにあります。ちなみに家庭でも、近いものは作れます。沸騰させたお湯の湯冷ましで、冷凍庫を弱にして、さらに割り箸を製氷皿の下に敷いて凍らせると、かなり天然氷に近づくそうでございますよー!

ただ、まあ溶ける温度はちがっても、温度があがれば氷は溶ける。これは道理でございますなー。練乳を固めたアイスバーであろうが、アブラアブラしたバターであろうが、チーズであろうが、ローソクであろうが、これは同じなのでございます。もっといえば、鉄やアルミだって、ガラスだって、石だってかなり高温にするととけますね。そんで冷やすと固まると。

これは、物質をつくる原子や分子がエネルギーがあたえられるとゆさぶられて、ちぎれて液体、完全にバラバラになって気体へと変化するからですな。で、もともと原子や分子はくっつきたがる性質があるので、エネルギーがぬけると、ゆさぶりがおさまりくっつく、と、こんな感じですな。で、この性質のおかげで、人類は、何千年もうまいことやってきたんですなー。ああ、壮大!

ところが、身近なところに裏切りモノがおります。それは、たまごでございます。生たまごは、どろっとしていますが、これに火を入れるとどうでしょう。なんと、溶けるどころか、固まります……って、「なんと」じゃないですね。これもまた当たり前です。私もほぼ毎日たまご焼きを作っていた時期があるんですが、せっかくドロドロにしたたまご液で、フライパンでかなり高温に熱するとキレーに固まるのですな。これが。

ただ、あんまりにも当たり前なので、実は疑問に思ったことがありませんでした。で、ひとたび、はてなと思うとこれがなんともなんです。掘ってみるしかねーべ、ということでしらべてみましたよ。

まず、たまごを熱すると、固まるということについて、フツーに書いてある答えは「タンパク質の熱変成」でございます。たまごの中身はほぼタンパク質ですが、このタンパク質は60℃くらいになると、柔軟剤的に働いていた水がおいだされ、タンパク質を作る長い分子がからまりやすくなるんですね。これによって、温度があがると固まってしまうのです。たとえるなら、フツーの物質は、グチャグチャに力をいれると壊れてしまうのですが、ヒモはグチャグチャとやっていると、絡まってしまうってあの現象に、ちょっとだけ似ています。たこ糸がグチャグチャになって、ムキーというのを思い出しますなー(遠い目)。

タンパク質は実際、そんなヒモみたいな形をしています。多数の原子が結びついて、ヒモのような巨大な分子をつくっているのですね。それも、ところどころ、小さな腕みたいなネバネバするパーツがついているヒモといってもいいみたいです。このネバネバパーツは温度が低いと、キャップになるようなものー水の分子なんですがーがくっついていて、ネバネバしません。ところが温度があがってくると、キャップがゆさぶられてはずれ、他のタンパク質と相互にくっつきはじまるんですな。これが、温度があがるのに、固まるポイントです。

卵白を構成する主要なタンパク質「オボアルブミン」の構造

ところで、たまごといえば、おんたま=温泉たまごってのがあります。白身が半熟、黄身がかたまりかけというたまごです。黄身の方が先にかたまっているのがポイントで、白身が先に固まるフツーのゆでたまごと、逆さまですね。作り方は、おんたまは、65~68℃くらいのお湯につけとく。フツーのゆでたまごは、ほぼ沸騰しているお湯でゆでるという違いです。

ここで、白身と黄身のかたまる温度なんですが、白身がかたまりはじめるのは60℃弱で、しっかりが80℃。黄身は65~70℃で完全にかたまるのです。つまり、65~68℃というビミョーな温度だと、黄身がよくかたまり、白身がかたまりきらない。というわけなんですな。2種類のタンパク質のビミョーな性質の違いを利用したものなのでございます。温度を保つのが難しいわけですが、これ、科学実験器具の恒温槽をつかえば、簡単にいけそうですね。衛生面が問題なので、オススメできませんけど。

さらに、ポーチトエッグというのがあります。わかしたお湯に、酢と塩をちょっといれ、そこに生たまごを投入。白身が集まるようフォークなどでととのえながら、沸騰しない弱火でゆでる料理です。最近は、都会のオシャレ勢の間で、マフィン! の上にのせて、エッグベネディクトとかいうのにするのですね。白身がかたまり、黄身が半熟という感じで、ゆるい感じはおんたまによく似ていますが、ちがう料理です。ここでは、温度を80℃くらいにするので、黄身も白身もかたまるのですが、酢や塩を入れるのがポイントです。これらは、タンパク質をかためるように作用するので、より低温でもたまごがかたまるのですね。それで温度を上げすぎずに食感をいいあんばいにする工夫につかわれているわけです。

ということで、たまごなどの成分であるタンパク質は、熱くするとむしろかたまるという性質で、いろいろと楽しむことができるわけでございます。

ところで、タンパク質と似たようなものに、セルロースというのがございます。これもヒモのように結合した分子なんですが、パーツになるのがタンパク質がアミノ酸、セルロースは糖という違いがあるんですな。セルロースもタンパク質同様、熱くするとむしろかたまるという性質を持つものがあります。こうした性質をもつメチルセルロース(食品添加剤として売られています)を利用した「ホット・アイスクリーム」なるものを考案した方がいらっしゃいます。おもしろいので、これもご紹介しておきますが、まんまパクりになっちゃいそうなので。宮城大学の石川先生の夜食日記をご紹介しますね。おもしろいですね。作ってみたい。分子調理・分子料理ラボなんてのを主催されているようで、おもしろそうですなー!

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。