ハッキリ見えていても、科学的な解明はわりと最近ということが、結構あります。星がなぜ光る? ということも100年前にはわかっていませんでした。そして、雪がなぜ降る? のかがわかったのも20世紀になってから、相対性理論より後なんですねー。そしてそのさいに、日本に降る雨は、だいたい雪だということもわかりました。今回は、そんなお話でございます。

日本の北半分では、冬には雪が降ります。南半分の人たちは、みんな雪のせい、にしながら、北に向かってスキー、ノボなわけですな。そう思ったら、やや南よりでも、どかりと雪が降って、そうなると楽しくないことになり、言うわけです「なんで雪なんか降るんや!」

なんでと言われましても、まあ降るわけですね。どこから? 雲から。とここまではだれでもOKでしょう。では、どうやって雲から雪が降るのかというと、これがなんと80年前までわかっていなかったのです。さらに、わかったら、日本やヨーロッパに降る雨は、もともと雪だということもわかっちゃったんですね。

霧に囲まれた森で起こった怪現象

雪がわかるキッカケになったのは、霧に囲まれた森でおこった怪現象です。まわりが霧に囲まれていても、どういうわけか森の中だけは晴れている。ただし、それは0℃以下になったときだけ、という現象でございます。

晴れるっていうのは、どういうことかというと、霧が蒸発しているってことです。あ、霧が発生しているってことは、湿度100%ですからね。つまりはそれ以上蒸発できないから霧なんですな。蒸発するためには、暖かくするのがいいですね。極端な話沸騰する100℃にすれば、じゃんじゃん蒸発しますよね。ところが、この森では温度が低い0℃以下の時に蒸発がおこって晴れるわけです。なんとも奇っ怪な!

ここで、0℃以下で何がおこるかでございます。0℃以下ということは、水はふつう凍ると思いますが、ここでまた不思議な現象が起こります。0℃以下にしても水はカンタンに凍らないのですね。ちょっと前にミネラルウォーター「エビアン」のコマーシャルで、衝撃を与えると水がいきなり氷になるってのがありました。覚えていますでしょうか? あの水が0℃以下でも凍っていない水なのでございます。専門用語では過冷却と言っています。ま、そのまんまなネーミングですねー。

この過冷却の水の粒の集団=霧が、森にはいると、木々にぶつかって水が氷になります。で、氷は周りの水蒸気を引き寄せてさらに氷が成長し、つまり湿度を下げてしまうのですな。イメージとしては、ラッシュの電車から別室に人をご案内。電車がすいて、ラッシュでなくなるってな感じです。で、湿度が100%でないと、水は蒸発できますから、霧が蒸発して晴れていく。氷と水が混在する温度でだけ、そんなできごとが起こるのです。

霧と雲は同じもの

さて、霧と雲は、同じものですから、空の雲でも同じようなことが起こっています。低気圧になると、上昇気流が発生しますな。そして水蒸気も上へとかけあがっていきます。上空の方が空気が薄いので、水蒸気は冷え、水滴になり、つまり雲になります。でも、雲はさらに上昇を続けます。水滴になっても、これでは雨にも雪にもなりません。おお、困ったね。であります。

ところがどんどん上昇すると、ついには0℃以下になり、雲粒は水の粒から氷の粒になりはじめます。そう、森の中に入った霧と同じですな。で、氷と氷が渾然一体となると、氷の粒が水の粒から蒸発した水蒸気をとりこみ、じゃんじゃん成長して大きくなっていきます。

大きくなった氷は、上昇気流に逆らって落下できるようになりますな。ところが、落下すると温度があがって氷が水にもどって、また上昇です。水になると降れなくなっちゃうんですねー。これではいつまでたっても雨が降れません。困ったね。

しかーし、十分大きな氷であれば、カンタンにはとけずに落下を続け、さらに周りの水蒸気をくっつけて、大きくなっていきます。そして、落下による温度の上昇にうちかつと、あー、ようやく、雲の下端を通過して、地上まで落ちていくことができるんですな。そうやって、どんどん氷が成長したものが、雪です。

あれ? これだと雪が降ることしか説明ができない。なにしろ雲から降ってくるのは、氷になった雲粒が大きくなったものだからなんですね。

ただ、雪は空中でとけることもできます。地上付近の温度が高ければとけて、地上では雨になるわけです。ああ、よかった。でも、ということは、雨はもともと雪だったってこと? その通りなんです。この説明からは、雨はつまりは雪だったということになります。

もちろん、地上の温度が低ければ、雨ではなくて雪のまんまになります。大雨になるか、どか雪になるかは、地上付近のわずかな温度の差で変わっちゃうことがあって、うーん、天気予報が難しくなる部分なんですねー。

で、氷が成長して地上までいくときには、いろいろ条件が同じなので、雨粒はだいたい同じ大きさになります。なかなか観察しにくいんですが、バラバラの大きさの雨粒が同時に落ちることってないでしょ? 霧雨は細かいし、激しい雨はみんな大きな雨粒だしってなわけですな。

じゃあ、ヒョウは、アラレはというと、風の吹き方やら、気流の上昇下降の激しさやらのかげんで、異常に氷粒が大きくなったりすると、そういうことが起こるわけです。上空でぐるんぐるんと氷粒がもてあそばされるような風があると、そうなります。夏にヒョウが多いのは、温度が高くて激しい上昇気流が発生しやすいからですなー。

ところで、この雪から雨になるってのは、例外があります。熱帯の島などで見られる「スコール」がそうで、これは氷の代わりを海水から激しい蒸発で飛んだ塩がつとめます。氷ができなくても雨が降るので、バラバラのサイズの雨がかたまっておちて、滝みたいになるんだそうです。

今回は、ちょーっとこみいった説明になっちゃいましたけど、たまーに思い出して読み返してもらえればと思いますです。それがわからなくても、80年前まで雨がなぜ降るのか説明できなかったことだけでも、覚えておいてもらえると、うれしいです。

さまざまな雪の結晶 (出所:北海道大学 低温科学研究所Webサイト)

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。