「ミラ」という星があります。ラテン語のMiraで「不思議な」という意味です。ミラは普段は見えません。が、まれに、都会でも肉眼で見えるようになります。都会で見える時期は1000日間の間で最大50日程度です。そして、それがたった今! でございます。夜9時なら南の空のくじら座の中に見えています。いったい何なのか? ミラをチェックしていただきたく、見ていただきたく、ご紹介する次第でございます。

まず、下の図を見てくださいませ。これは、11月初旬の夜9時の東京や大阪の都会の星空です。南の方向でございます。左は昨年、そして右は今年です。

都会の空は寂しくて、あまり星は見えませんが、フォーマルハウトという白いほしと、デネブ・カイトスというちょっと赤っぽい星が見えています。

そして、昨年はなくて、今年があるのがミラという星です。デネブ・カイトスと同じかちょっと暗い赤っぽい星です。都心でも何とか見えるかなーというくらいの明るさでございます。

  • ミラ

    図はアストロアーツ社ステラナビゲータで作図

昨年ないミラがなぜ今年はあるのか? 移動してきたの? というとそうじゃないんです。ミラがここ1ヶ月で急激に明るくなり見えるようになったからなんでございます。

昔から、こういう急激に明るくなる星は、西洋では「NOVA(ノバ)」、中国や日本では「客星」と言って、そういうものがあることが知られていました。NOVAは、日本語にすると新星となります。実際に新しい星を神様が作ったと考えたのでございますね。ただ、客星という言い方もなかなかあっていて、現在天文学上、新星といわれる星は、現れても間も無く見えなくなってしまう星を指していうのです。さらに、特別明るい新星は超新星と言いますが、これまた同じです。基本的には一発屋なのですね。

新星や超新星が一発屋なのは、理由があります。

わかりやすい超新星からお話ししますね。

超新星は星が大爆発して吹っ飛んでしまう出来事です。大爆発なので、それまでと比べようもないくらい眩い光を放ちます。その輝きは、時に1つの銀河全体に匹敵する、太陽100億個分の輝きになります。しかし、大爆発なので、それでおしまいです。超高温の火球となったあとは、散らばっていき、グングン暗くなってしまいます。星全体の爆発なので長々と見えはしますが、それでも1〜2年もたつと、何だったんだというくらい暗くなり、見えなくなってしまいます。

そして後には爆発した星の残骸が星雲として広がることになります。銀河系内では100年に1度くらい超新星が現れるとされていて、そこここにその残骸が見えています。APODというNASAが運営している天体写真紹介サイトでも、かに星雲網状星雲など有名な超新星の残骸がしばしば掲載されています。最大の超新星残骸であるガム星雲(ガムという天文学者が発見した)などは、左右40度と言いますから、手で抱えたバスケットボールくらいのサイズに残骸が広がっている様子が見られます。

一方で、新星は星の爆発ですが、星全体が吹っ飛びはしません。新星は2つの恒星が極接近して回り合い、その片方が、星の燃料を使い尽くし、白色矮星という外層がなくなった芯だけの小さな星である場合に起こります。つまり、白色矮星と通常の恒星のペアですね。通常の構成からは白色矮星にガスが降り積もります。降り積もったガスが一定量を超えると、核融合反応をおこし、急速に星が輝きます。そして、間もなくその状況がとけて一気に輝きは失われます。これは、次のガスが降り積もれば反復することもあります。

ただ、ミラは超新星でも新星でもありません。明かさは「徐々に」明るくなり、ピークになるとスーッと暗くなり、332日の周期でまた明るくなるというのを繰り返すのですな。

最初にこれに気がついたのは400年まえのファブリチウスという牧師さんで天文学者が発見しました、最初は新星だと考えたのですが、10年後に同じ場所にまた星が現れ、新星ではないと確信しました。そして様々な天文学者がこれを追いかけ、明るさが周期的に変化する星と考えるようになったんですね。50年後にはへヴェリウスが「不思議な星の話」という本を書いて、この星を紹介し、その時のタイトル「不思議な(ミラ)」がそのまま星の名前として使われるようになったんですな。

このように星が爆発してなくなるのではなく、明るさが大きく変わる恒星を変光星と言いますが、ミラは変光星として認識された第一号です。ちなみに新星も変光星の中に数えることもあります。

ところで、ミラは新星のように爆発するわけではないのに、なぜ明るさが変化するのでしょうか? ざっくりいうと、星が沸かしたヤカンの蓋みたいにガタガタしているからです。星のエネルギー出力と、星全体の質量バランスがあわなくて、星が膨らんだり縮んだりしてしまう結果起こります。

同じ星ですから質量は同じです。質量が同じならば中心部で起こるエネルギーの発生も同じです。ところが、星がそのまま縮むと、中心からの熱を通しにくくなって受け止め、小さくなった表面は熱をため込んで猛烈に熱くなり、全体として明るくなります。これが今現在の明るいミラです。ところが、猛烈に熱くなると星全体が膨らみます。明るくなった途端に、膨らんで、熱がスーッと星の外に出るようになり、また星の表面は冷え、暗くなってしまうのです。星が膨らみきると、また今度は星が縮みます。これは、ヤカンの蓋が沸騰するとパカっとあき、沸騰した水蒸気が抜けると閉まるのを繰り返してガタガタするのに似ています。これをうまく応用したのがエンジンですが、星は一種の熱機関なんですな。で、この繰り返しの周期がミラでは332日なんですね。

じゃあ、何で太陽は膨らんだり縮んだりしないのか? というと、ミラを作るガスは、温度のちょっとした変化で、熱を通しやすかったり、通しにくかったりという端境くらいの条件にあるためなんです。これは星の大きさやエネルギーの発生率、質量などで決まります。そういう条件が揃った恒星が変光星になり、太陽はそうではないということなのでございます。

ただ、太陽も将来は中心の燃料の水素を食い尽くし、ヘリウムが熱を発生するようになると、条件が変わり、ミラのように変光することも起こるようになります。実際、ミラは太陽のような星の将来の姿と考えられているんですな。

ということで、ミラを見るというのは、将来の太陽を見るということになるわけです。

ところで、ミラは最初に発見されただけあり、観測しやすく、様々な発見がされています。X線望遠鏡で観測すると、ミラは尾を引いていることがわかっています。膨らんだり縮んだりすると、恒星の上空に雲ができ、その雲が宇宙に散らばっていること、さらにミラが高速で運動しているために、尾のようにたなびいているのがわかるのですね。こういうことなので、規則的に明るさが変わると言っても、特別明るくなる時とそうでもない時があります。今秋はまあまあ明るくなっているという感じです。

不思議な星ミラが観測しやすい晩秋に明るくなるのは、10年に1度な上、さらにまあまあ明るくなっているというダブルチャンスが今です。何とか見つけて、太陽の未来に思いを一瞬はせていただければと思います。

まあ、見つからなくても、そんな星があるんだなあ。でもOKですよー。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。