2021年8月末までバーチャル・オンデマンド形式で開催された英Omdia主催の「第41回ディスプレイ産業フォーラム」において、Omdiaのディスプレイ部材調査マネージャーである宇野匡氏が、主なディスプレイ部材およびディスプレイドライバICの動向について解説を行った。

2020年、世界は新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の渦に包まれた。その結果、中国での新規投資は凍結された一方、世界的な巣ごもり需要によってディスプレイは非常に旺盛な需要が発生することとなり、パネル価格はキャッシュコスト割れの状態から、3倍まで高騰した。その結果、TFT-LCDメーカー各社は過去最高クラスの収益を得ることとなっている。韓国・日本・台湾のディスプレイメーカー各社は次世代ディスプレイ技術の開発にしのぎを削っているが、まだまだ課題は多く、ブラウン管からTFT-LCDへの転換に成功した時のようにはうまくいってはいない。

大型有機EL(OLED)ディスプレイにおいても、中小型同様、RGBタイプが必要と考えられる。カラーフィルターは通過する光の70%をカットしてしまうため、140%の光を生成しなければならず、発光層を2重、3重に構成する必要がある。RGBタイプの大型ディスプレイの実現には材料と装置の開発が必須となる。

MicroLEDには実装技術の課題が大きい。分単位のタクトで10万個、100万個のLEDチップを実装する必要があるためである。OLEDと比較すると、MicroLEDはより積極的にパネルメーカーが関わる余地が大きい。次世代の主流ディスプレイの開発に時間がかかればかかるほど、TFT-LCDの地位は確たるものとなる。TFT-LCDの生産能力は、より中国に集中していくと予測される。FPD部材においても、中国メーカーによる新規参入と、補助金政策が予測される。

コロナ禍によって生じたFPD部材のひっ迫

宇野氏は、以下のようにFPD部材を取り巻く状況を説明する。

  • 新型コロナの世界的な感染拡大によって生じた巣ごもり需要により、ディスプレイ需要は非常に旺盛なものとなっており、パネルメーカーはほぼ一年間フル稼働を継続している。部材需要も非常に好調である。
  • コロナ禍においては、人は移動に制約を受けており、部材メーカーも従業員や技術者の国をまたぐ移動がままならない。問題が発生しても現地スタッフでの解決が必須となっており、事故につながる一因となっている。新規ラインの立ち上げにも問題が発生している。
  • ロジスティクスにおける重大な問題が継続している。輸出用の船の運航は制限されており、運賃も高騰している。輸出入においては、コストと時間が増大している。ロジスティクスの混乱により、多くの材料で価格が上昇する傾向がある。
  • ほぼ一年にわたり、旺盛な需要とロジスティクスの混乱と材料価格の上昇が継続している。部材メーカーはかつての安定した生産環境をとりもどすことが困難な状況にある。部材メーカーの工場における事故が多く発生している。ガラスなどの重工業においては、事故の影響は非常に重大であり、部材のひっ迫に拍車をかける状況となっている。
  • 部材ひっ迫の別の側面として、韓国のパネルメーカーが第8.5世代を延命するにあたって、部材不足の影響を強く受けている。Samsung Display(SDC)とLG Display(LGD)ではかなりの温度差はあるが、早かれ遅かれラインを閉鎖する韓国メーカーより、投資が継続する中国メーカーを優先するのは当然である。

ガラス基板を中心に部材全体で需給がひっ迫し価格が上昇

ガラス基板は需給ひっ迫により価格が上昇している。かつて、部材価格はほとんど上昇することがなかった。部材メーカーはパネル価格が上昇しても部材価格を下げ続け、パネル価格が下落しても部材価格が連動することはなかった。しかし、コロナ禍によってロジスティクスが長期間にわたり混乱していることもあり、ガラス基板のみならずさまざまな部材価格が上昇している。中でも第10.5世代の価格が高止まりしている。かつては、新世代の基板価格は主流世代比で20-30%ほど高い価格で始まり、2-3年後に主流世代の価格に収れんする傾向にあったが、第10.5世代は20%以上の高い価格を維持している。

偏光板もここ一年ひっ迫した部材となっている。LGCが中国メーカーへ偏光板事業を売却し、今後は中国の偏光板メーカーが主力となり積極的な投資が計画されているが、基材フィルムの供給を考慮しているとは考えにくい。今後は偏光板の需給より基材フィルムの需給がより重要な指標となると予測される。

コロナ禍によるドライバICのひっ迫は解消へ

ドライバICの多くはファブレスで設計され、台湾、中国、韓国のファウンドリの200mmラインで製造されている(韓国のディスプレイドライバICサプライヤであるSamsung、MagnaChip、DB Hitech(Dongbu)はIDMとして一部を自社内で製造している)。

  • ディスプレイドライバIC

    ディスプレイドライバICのサプライヤ(左端)と製造受託ファウンドリ(左から順に大型TFT、中小型TFT、有機EL向けドライバIC)

2020年から2021年前半にかけて、ディスプレイドライバICの不足が深刻な状況となっていた。このため、ドライバICなしのセル出荷が増加していたが、中国合肥の半導体ファウンドリであるNexchipが300mmウェハの生産能力を拡大した結果、ドライバICの需給は改善されつつある。2021年内に月産3万枚から6万枚へ生産能力が倍増される見通し。90nm以上のプロセスが主流であり、ドライバICを主に生産すると予測される。300mmウェハ1枚から大型パネル用ドライバICが約5000個取れる。パネルメーカーは在庫をセルで蓄える傾向にある。ドライバICが入荷した段階でカットからモジュール工程に流す傾向にある。

部材調査の立場から見たディスプレイ産業

宇野氏は講演の最後に、部材調査の立場から、デイスプレイ産業全体の動向について以下のようにまとめた。

  • 中国でのTFT-LCD工場の投資は2010年以降本格化。その結果、2019年末にはモジュール価格がキャッシュコストを下回り、すべてのTFT-LCDメーカーが赤字に陥り、韓国メーカーは第8.5世代工場の閉鎖を発表した。
  • 2020年に世界は新型コロナに席巻され、中国での新規投資は凍結された一方、巣ごもり需要によりディスプレイに旺盛な需要が発生。パネル価格はキャッシュコスト割れの状態から、3倍の価格まで高騰したことで、TFT-LCDメーカーの中には過去最高益を計上するところも出てきた。
  • 中小型パネルはOLEDディスプレイに移行している。しかし、大型ディスプレイにおける次世代技術への転換が順調には進んでいない。OLEDやmicro-LEDなどの次世代ディスプレイ技術にはいまだに課題がある。次世代ディスプレイへの転換が遅れれば遅れるほどTFT-LCDの地位が確立され、中国がディスプレイ生産の世界の中心であることを確固たるものにするだろう。