2021年8月末までバーチャル・オンデマンド形式で開催された英Omdia主催の「第41回ディスプレイ産業フォーラム」において、大型FPDパネル市場動向全般について、Omdiaの大型FPD市場動向シニア調査マネージャーであるYS Chang氏が説明したほか、同テレビ市場担当の鳥居寿一氏が大型パネルの最大アプリケーション市場であるテレビ市場について、同大型モニタ市場担当シニアプリンシパルアナリストの氷室英利氏が大型モニタ市場について最近の動向についてそれぞれ解説を行った。

2020年に急伸したノートPC/タブレット向けパネル市場

大型FPDパネルの用途別年間出荷数量の変遷を見ると、2020年は新型コロナ特需により、それまで下降気味だったタブレット向けパネルの出荷数量が前年比63%増と急伸した。その背景には、主に生徒の遠隔学習用の廉価製品での採用が挙げられるという。同様に、それまで伸び悩んでいたノートPC向けパネルも同20%増、PCモニタ向けパネルも同15%増と伸びた。

2021年は、ノートPC用がさらに同23%増と伸びるほか、タブレットが同19%増、モニタ用が同8%増と前年の伸び率ほどではないが伸びる見込みである。ただし、テレビ向けパネルは、2020年が同5%減、2021年も同1%減と飽和気味である。

2021年における出荷数量の企業別シェアは中BOEが31%で1位、台Innolux(Foxconnグループ)が15%で2位、韓LG Displayが14%で3位となっている。国別では、中国48%、台湾30%、韓国16%、日本6%と予想される。

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    図1 大型パネルの用途別年間出荷数量の変遷。2018~2020年実績、2020年第4四半期時点での2021年事業計画、2021年第1四半期時点での2021年事業計画の順 (出所:Omdia)

テレビ市場は2021年前半までは巣ごもり需要が下支え

2020年におけるテレビの出荷台数は2億2500万台と最終的に2019年を上回る結果となった。2021年前半も同様に北米・西欧・日本といった先進国を中心に巣ごもり需要が続き好調な出荷が続いた。しかし、2021年後半へ向けて、パネルならびに半導体の供給不足、セット価格の上昇といった影響などから、最終需要(実売)に陰りが見えてきている。その結果、2021年の出荷台数の最新予測は2億2300万台で、今後もこれを越えることは無く、むしろ下振れの可能性があるというのが直近の見通しである。2022年は将来需要を先食いした北米市場が大きく落ちるため、需要(台数)面で一服する1年となるだろう。

また、中国市場はセット価格の上昇が続いていることに加え、オンライン商戦も低迷し、新型コロナ以前の先進国のようなテレビ市場の成熟化の動きが見えつつある。そのため、最新予測で2021年以降の需要予測を下方更新した。新興国では、アジア、特にインドおよび周辺アジア(インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムなど)で感染の再拡大、再ロックダウンとなり、マクロ経済の悪化が進む。2021年以降の回復がさらに緩やかとなり時間を要する見通しである。

北米では、2021年前半を終えて、大手販売店が在庫不足・供給懸念から2021年第3四半期も引き続きテレビの購入を続けるモードにあり、想定通りに7月以降「リベンジ消費」へと向かうと10月には在庫過剰となる可能性が十分ある。7月以降、米国の最終需要がどこまで落ちるか(持ちこたえるか)、販売店の在庫がいつ充足されるかが需給転換の最大のポイントとなる。

一方で2020年第4四半期の年末商戦以降の価格下落やプロモーションの成功により、日本ならびに西欧に加え北米でも有機ELテレビ(OLED TV)の普及に弾みがついた。2021年はプレミアムTVの中でOLED TVへの追い風が続く。しかし、Mini LED BL LCD TVは、(1)Open Cell価格の高騰、(2)先進国でのOLED TVの普及、(3)巣ごもり需要下でのオフラインチャンネルでのマーケティング、消費者への訴求の機会減により苦戦している。

また、米国の新政権下での約2兆ドルの超大型経済対策により米国の可処分所得は再度大幅に上昇、膨らんだ可処分所得が7月以降どこへ向かうのか。この読み切れない米国消費者の消費の行方が2021年後半の市場、需給転換のタイミングに大きな影響を与える。

単なる表示装置からの脱却が進むPCモニター

接続されるホストデバイスがデスクトップPCからノートブックPCに移行した結果、PCモニターは単なる「パソコンの表示装置」から「大画面、高解像度、高画質を提供する高付加価値の表示装置」と再定義された。ゲーミング、カラーマネジメントに代表されるLCDパネルのみならず、モニターセットとしての技術、付加価値が評価されている。

2020年~2021年第1四半期にかけては、新型コロナの世界的な感染拡大にともない人の動きが制限される中、テレワーク、オンライン学習、巣ごもり・娯楽需要によるパソコン、周辺機器への需要が引き続き旺盛であり、パネル価格の高値推移や半導体を中心とした部品の需給ひっ迫という逆風がある中、モニター市場は2021年も1億4900万台と好調な出荷数量となることが予測されるが、2022年以降は需要一巡となり、弱含みの展開の可能性がある。不確定要素が多い中、新しい買い替えサイクルが2020~2021年の需要盛り上がりを起点として、次の需要期はWindows 10のサポートが終了するタイミングも考慮し2025年ごろと予測する。また、中国を除く新興国およびB2Bチャネルの需要は、新型コロナワクチンの接種スピードの先進国との格差もあり需要は緩やかな回復にとどまる見込み。

このほか、一体型PCは「接続のいらない簡単パソコン」の立ち位置から、よりクリエイティブなタスク専用に需要がシフト。今後はApple iMacの寡占進む可能性が高い。

ゲーミングモニターについては、最大リフレッシュレートの向上トレンドにより144Hzから165Hzへ移行していくほか、高解像度でのゲーム対応も進む。接続ホストはノートPCのみならずPlayStation 5、Xbox Series X/Sといった次世代コンソールゲームに接続して楽しむ需要が生まれ、VRR(Variable refresh rate)、HDMI2.1対応の需要を喚起するだろう。高付加価値モデルの増加に伴い、金額ベース市場規模の緩やかな上昇につながる見通しとなっている。