英Omdia主催の「第40回ディスプレイ産業フォーラム」にて、FPD材料市場調査マネージャーの宇野匡氏が、2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を振り返り、その影響でサプライチェーンの混乱が生じて各種FPD材料がひっ迫に至った過程を説明した。

2020年は、新型コロナの影響により人々の生活様式が変化することとなった。現在、ワクチンが開発され、一部の国では接種が開始されている一方で、第3波と呼ばれる新規感染者の増加も進行しており、まだまだ混乱の最中にある。新型コロナの終息には、ワクチン開発の成功によりある程度のめどは立ってきた状況であるが、まだ年単位での期間が必要と予測されるほか、新型コロナが終息したとしても、将来的には新たな未知のウイルスの発生が予測されるため、社会は未知のウィルスに対応できるように変化していかざるを得ない。

その方向性として、在宅勤務などが定着し、従来のアプリケーションやデバイスも変化が求められると予測されるとする。新型コロナの影響は1年ほど続いてきたこともあり、ディスプレイデバイスへの影響もある程度予測できる状況となってきたと言えるという。

現状の大きな傾向としてはIT関連のディスプレイが好調であること、ならびにTVなど多くのディスプレイでも面積が拡大している点が特徴だという。また、2020年は上半期の混乱により需要が大幅に減退したものの、下半期に入ると一転して需要が急増、すべてのサプライチェーンで大混乱が発生した。部材市場においても、ガラス基板・偏光板・ドライバICが不足あるいはひっ迫しているという。

需給ひっ迫のガラス基板市場

2020年は大手ガラス基板メーカーでの事故が相次いで発生した。

  • 5月:AGC韓国工場で窯に亀裂が発生
  • 9月:Corning合肥工場のG10.5窯にて問題が発生
  • 12月:NEG高月工場で停電によるガラス固着が発生

といった具合である。

従来、大手ガラス基板メーカーは出荷に影響を及ぼすレベルの事故ほとんど発生させてこなかったため、TFT LCDパネルメーカーはガラス基板供給にはまったく不安をいだいてこなかった。

しかし、2020年は大きな事故が連続して発生しており、これも新型コロナの影響の1つと考えられるという。ガラス基板メーカーも技術者や社員の移動制限に加え、物流の制限もあり、事故の処理にも影響を受けたとみられる。こうした状況を受け、パネルメーカー各社はガラス基板の確保に向け、従来にはなかった対策を迫られるようになってきた。

また、従来、G10以上のガラス基板は輸送が困難と言われており、ガラス基板メーカーは窯をバイプラントで投資して対応を図ってきた。しかし、今回のようなトラブルから、工場間での輸送が不可欠という考えがでてきており、すでにオープンコンテナを活用し、日本・韓国から中国へG10.5ガラス基板の輸送が開始されているという。

中国の液晶パネル用ガラス基板メーカーである東旭は、2019年末に不渡りを出し、2020年末に二度目の不渡りを出したが、倒産する話はほとんど聞かれないという。これは中国政府の援助により事業が継続しているためだという。G6ガラス基板を相当在庫として抱えている状況にあり、大手ガラス基板メーカーの肩代わりを行っているようである。

同じく中華系の大型ガラス基板メーカーである彩虹集団(Irico)は、すでにG8.5の窯への投資を行ったものの、顧客がまったくつかない状況が続いていた。しかし、ここ最近の大手ガラス基板メーカー各社のトラブルにより、認定が進んでおり。近々量産供給が開始されるとの情報があるとする。

フル稼働のファウンドリのあおりを受けるドライバIC

半導体需要の増大を受け、ファウンドリ各社はフル稼働の状況が続いている。特に200mmウェハの生産能力はICカテゴリごとに枠の奪い合いが起きており、利幅の小さいドライバICは後回しになりやすく、ひっ迫しているという。しかし、パネルメーカー各社ごとに、それに対する温度差は大きいものだともしている。

  • 韓国パネルメーカーは従来から半導体の生産を垂直統合で行ってきた。さらにTFT LCDから有機EL(OLED)へ事業転換をすすめており、ドライバICのひっ迫はほとんど影響はない状況となっている。
  • 台湾パネルメーカーのほとんどはドライバICを自社製造ではなく外部調達してきた。また、NovatekやHimaxなどの台湾ドライバICメーカーはTSMCやUMCなどの大手ファウンドリにその生産を委託してきた。現在、TSMCやUMCの生産能力がひっ迫していることから、台湾パネルメーカーがドライバICのひっ迫の影響が最も大きい。これからドライバICを垂直統合で生産することはほとんど不可能に近い状況であり、価格を上げて必要量を調達していく必要がある。
  • 中国パネルメーカーではBOEのみが垂直統合で行ってきた。合肥のNexchipは300mmでの生産への投資を行っており、中国ではSMICと同社のみがドライバICの生産に対応している。ただ、SMICはOLED用ドライバICを生産しているため、Nexchipだけが大型パネル用ドライバICを生産していることとなる。中国ディスプレイのビッグ2の残りの1社であるChina Star Optoelectronics Technology(CSOT)やHKCなどはドライバICを他社から調達してきたため、需給のひっ迫に苦しんでいる。

ドライバICのひっ迫を解決するためには、価格を上げるかドライバICを自前で生産するしか方法はない。結果として、当面ドライバICの価格高騰が続くことが予想されるという。

新規投資が見込めない偏光板

偏光板のひっ迫は、視野角保障フィルムのひっ迫が最大の要因となっている。視野角保障フィルムは日系メーカーがほぼ独占している市場で、液晶パネル用の視野角保障フィルムラインを新規投資する計画はほとんどないという。

というのも、1ラインあたりの投資金額が大きく、拡充される能力は膨大なものとなる。しかし、今後数年でディスプレイデバイスの面積需要は頭打ちとなることが予想されるため、新規投資は考えられない状況となっているためだという。

ただし、2021年には日本ゼオンの新規ラインが本格稼働を開始することから、CSOTのG10.5の新規投資が立ち上りによる需要増加があるものの、視野角保障フィルム全体の需給バランスはゆるむ傾向となるという。

韓国大手パネルメーカーの計画変更で生じた特殊事情

韓国大手パネルメーカーは、TFT LCD事業での収益が改善したことで予定していた大型ラインの閉鎖を延長する決定を下した。LG Displayはこの決断を2020年10月以前に行ったが、Samsung Displayは2020年末まで決断を躊躇してきた。その間、Samsungへ部材を供給してきた部材メーカー各社は、中国メーカーなどへ供給先を変更したり、不要となったラインを改造するなどの動きを見せていたため、突然の閉鎖延長の決断に混乱をきたすこととなった。実際問題、延長とはいっても1年程度の話であり、Samsungはかつてはもっとも安い価格で部材を調達してきたものの、こうした事情から高値での部材調達を余儀なくされており、問題となっているという。