電通が発表した「2009年日本の広告費」。そのなかには、2009年のインターネット広告費7,069億円、新聞広告費6,739億円と記されており、ついにインターネット広告費が新聞広告費を上回ったことが分かる。このことからも、インターネットが人々の生活にかなり密接に関わってきていることを窺い知ることができるのではないだろうか。当然のことだが、これだけインターネットが浸透すれば、それに応じて、Webサイトを制作する会社も年々増えていく。このWeb制作会社の戦国時代ともいえる時代に、どのようにすれば勝ち残ることができるのか、ソニーやTSUTAYAといった大企業のWebサイトを数多く手がけているWeb制作会社「スクラッチ」の代表取締役・細川智則氏、ディレクター・齊藤功志氏に話しを訊いた。

左からWeb制作会社「スクラッチ」の代表取締役・細川智則氏、ディレクター・齊藤功志氏

――まず、主な仕事内容を教えてください。

細川智則(以下、細川)「主に企業のPCやモバイル用Webサイトの制作や運用を行っています。クライアントさんの担当者がWebのことについて、あまり詳しくない場合は、コンサルティングを行いながら、作業を進めています」

――具体的には、何名体制で、どのようなソフトを使ってWebサイト制作を行っているのですか。

細川「ディレクターが2名、営業・プロデューサー・ディレクター兼務が1名、デザイナーやコーダーなどの制作を行う者が1名、計4名のスタッフで仕事を行っています」

齊藤功志(以下、齊藤)「使用ツールは主にアドビ製品を使っています。デザインは『Photoshop』で行い、コーディングは主に『Dreamweaver』。そのほか『Flash』もよく利用しています」

――ひとつのWebサイト制作にかかる期間と、同時にいくつのプロジェクトを動かしているのか教えてください。

細川「ひとつのサイトを作るまでにかかる期間は約2カ月。打ち合わせなどを含めず、技術的にWebサイト制作にかかる期間でいえば2~3週間ほどですね。ひとつひとつのプロジェクトの規模は違いますが、同時に動かしているのは平均して約20社です」

――細川さんが"Web制作"に興味をもったきっかけはなんだったのですか。

細川「元々、某大手印刷会社の札幌支店に勤めていましたが、7年前にMacを購入し、ハマってしまったんです。そこで映像や音楽制作を仕事にしようと思い、デジタルハリウッドに入学しました。当時、デジタルハリウッド札幌校にはWebコースしかなかったのですが、Flashで映像も制作できると知り、入学を決めました」

――"Web制作"という未知数な仕事に就くため、安定した会社を退職することに抵抗はありませんでしたか。

細川「元々、好きなことを仕事にしたいと考えており、印刷会社があまり好きではなかったので、案外さらっと辞めることができました。この仕事を始めて分かったことなんですが、Web制作会社というのは広告業なんです。Webは今後、廃れていくと言う方もいますが、広告業として考えればなくなることはないし、むしろ、さらに拡大する可能性のある業界だと私は思っています」

――Web制作会社の数は年々増加傾向にあると思うのですが、その数多くある、Web制作会社のなかで勝ち残るための"会社としての強み"はなんですか?

細川「うちの会社では、ブログのシステムをカスタマイズし、Webサイトに活用する技術などを持っていますが、そういった"売り"はあまりクライアントさんの前では出さないようにしています。あくまで、『クライアントさんの要望にどんだけでも答えますよ』というスタンスでやっています。また、クライアントさんが必要だというならば、新しい技術も随時開発・採用していきます」

――なるほど。クライアント獲得のために何か工夫している点はありますか?

細川「クライアントさんがWeb制作会社を探す手段の多くは、Yahoo!やGoogleといった検索エンジンなんです。そのため、多くのWeb制作会社が『Web制作会社』というキーワードで検索上位の表示を狙って凌ぎを削っています。ですが、我々はあえて、そこでの勝負を避け、別のキーワードで勝負することにしました」

――『Web制作会社』ではなく、具体的にはどういったキーワードなのか教えていただけますか?

細川「Webサイトの"制作"ではなく、"運用"に力を入れました。具体的なキーワードでいえば『運用代行』などです。企業がWebサイトを大きくリニューアルしたいときではなく、"Webサイトの情報を日々更新してほしい"、"たまに出る画像を綺麗に見せたい"と考え、調べたときにうちの会社が検索結果で上位にくるようにしました。これは結果論なのですが、規模の小さな会社はWebサイトの運用にお金をかけることができないため、必然的にクライアントが大企業になったんです。そのほか、期間にして2カ月程度で終わってしまうサイトリニューアルの案件に比べ、運用案件はクライアントさんと長く付き合え、継続した関係ができ、信用につながります」

――では、現状仕事の割合としては新規リニューアル案件より、運用の方が多いのでしょうか。

細川「いや、それでも割合でいえば、運用が3割程度で、あとの7割は新規リニューアル案件ですね」

――今後、Web制作会社として、"こんなサイトを作っていきたい"という具体的なビジョンはありますか。

細川「我々は、斬新なアイディアを前面に出したキャンペーンやプロモーション系のWebサイトではなく、情報の正確さが重要になる、企業のオフィシャルサイトなどの仕事を中心に行っています。本もWebも結局は"文字"で情報を伝えています。なので、文字を正確に早く伝えることができるサイトを作っていきたいですね」

齊藤「もちろん最新の技術も必要だとは思いますが、クライアント含め、エンドユーザーまで喜んでもらえるWebサイトを作れたら嬉しいですね」

――これから"Web制作会社を立ち上げたい"、"Webサイト制作を仕事にしたい"と思っているクリエイターに対し、何かアドバイスはありますか。

細川「日本ではシリコンバレー型のネット企業集積地として、渋谷が位置づけられているので、Web制作会社のほとんどは渋谷区に密集しています。なので、起業するのであれば間違いなく渋谷区に会社を作るべきだと思います。また、デジタルハリウッドのような専門スクールなどを卒業した人は、まず企業に一度就職した方がいいと思います。独立すれば、当然代表取締役になるわけですから、Webサイト制作ができるだけでなく、給料体制やボーナスの仕組み、福利厚生といった一般的な会社の仕組みを知っておく必要があります。今、学生の方であればWebサイトをたくさん見ておいた方がいいと思います」



人脈の構築に役立つデジタルハリウッド

今回お話を伺った細川氏と齊藤氏は、ともにデジタルハリウッドの卒業生だ。ふたりがデジタルハリウッドに入学したのはなぜだろうか、また通って良かったと実感するのはどのようなときだろうか。

細川「とにかく人脈ですね。今、我々の仕事では、北海道と東京のクリエイターとともに仕事を行うケースもあるのですが、北海道のクリエイターのほとんどがデジタルハリウッド時代に知り合った友達や講師の方なんです」
齊藤「元々、パソコンスクールのインストラクターをやっていたので、『Word』や『Excel』は使えたのですが、もっとクリエイティブなことがしたいと思い、デジタルハリウッドに入学しました。当然のことですが、デジタルハリウッドには同じ業界を目指す同級生が大勢いて、今でもその当時の仲間に仕事面で、色々助けてもらっているんです。そういった仲間を多く作れるのが、デジタルハリウッドに通って良かったと思う点です」

撮影:石井健