2019年12月にカルテックが発売した「ターンド・ケイ KL-W01」。独自の光触媒技術を利用した空間除菌・脱臭機で集塵フィルターを搭載しないものとして、業界初となる壁掛け式を採用しているのも特長だ。開発過程においては、"ノイズレスデザイン"をコンセプトに薄さにこだわったという本製品は、外観のよさだけでなく、技術面も包括したプロダクトデザインとしての機構・設計思想に至るまで新規的だ。今回は本製品の開発経緯や秘話について、同社企画担当の山口浩司氏に伺った。

  • 光触媒に脚光、フィルターレスな除菌・脱臭機「ターンド・ケイ」実現の背景

    カルテックの「ターンド・ケイ KL-W01」。壁掛け式の空間除菌・脱臭機で、独自の光触媒技術を利用している

光触媒の空気清浄機を産んだ特別な技術

2018年4月に創業されたカルテックは、代表取締役の染井潤一氏をはじめ、全従業員の17名中13人が大手メーカーのシャープ出身のベンチャー企業だ。

「染井社長は学生時代から光触媒の研究・開発に従事していたのですが、会社としては、プラズマクラスターを全面的にプッシュしていて、光触媒は受け入れられませんでした。光触媒というのは、光があたると化学反応の速度を変える"触媒作用"を発揮する材料で、中でも酸化チタンが優れた素材として知られています。触媒は、光が当たると表面に強い酸化作用が働き、有害化合物やウイルス、細菌などを水と二酸化炭素に分解します。当時、東京大学の本多健一教授と藤嶋昭教授が発見した、毎年ノーベル賞にもノミネートされている日本発の素晴らしい技術なのですが、一般の人にはまだあまり知られていません。そこで光触媒の技術を早く普及して評価していただくために、身近な生活家電を入り口にした製品の企画・開発を行うべく独立し、弊社が立ち上がりました」

  • 光触媒のメカニズム。触媒に光が当たると強い酸化反応が働くことで、ウイルス、細菌、有害物質などを水と二酸化炭素に分解する。最も触媒作用に優れた物質としては酸化チタンが挙げられる

光触媒を活用した除菌・脱臭機は同社が初めてではない。それにもかかわらず、これまであまり世間に広がらなかった理由と、カルテックが持つ技術の特殊性について、山口氏は次のように説明した。

「弊社も例外ではないのですが、光触媒による空気清浄機を手掛ける企業はベンチャー企業が多く、これまで消費者に満足してもらえる商品があまりありませんでした。というのも、光触媒には反応率が高いものと低いものがあるんです。光触媒の粉自体は同じなのですが、何かにくっつける必要があり、担持する技術が実は難しい。土台となる素材や接着剤が有機物だと全部分解してしまいます。それを弊社ではガラス繊維に担持する技術で、小さな面積でもしっかりくっつけさせることができ、従来より反応率の向上を実現し、水洗いをしても取れません」

壁掛け式の構造も光触媒ならではの理由

前述のとおり、本製品は"壁掛け式"の除菌・脱臭機であることも特長だ。山口氏によると、これは初期の段階からこだわったことの1つでもあるとのことだ。

「家電製品はあまりスタイリッシュではないと前職時代から思っていた人は少なくありませんでした。日本の家電メーカーが空間を狭くしている、もっと薄く、軽くなればいいと思っている人も多くいました。さらに、空気は床から壁、天井へ循環するものなので、空気清浄機は本来は壁・天井にあるのが一番効率的です。壁にあるほうが効率的でもあるし、スッキリもします」

  • 壁掛けのイメージ。薄く邪魔になりにくいと同時に、空気の循環を考えると、効率的に浄化できる方法だという

厚さは最終的に83ミリに収められている。それを可能にしたのは、"サイドフロー構造"と呼ぶ独自の技術だが、これは"薄くする"ためだけに考え出されたものではないという。

「この構造により、空気を繰り返し光触媒に接触させることができます。そもそもは反応効率を向上させるために採用された構造で、結果として薄くすることにもつながりました」

  • 本製品で採用されている"サイドフロー構造"の原理。下から空気を吸い込み、プレフィルター、光触媒フィルターを通って浄化された空気を上方向に放出する

  • 光触媒は横からスライドして容易に取り外せる。水洗いができ、性能を維持する

一方、重量は3キロに収められた。山口氏は、「壁にかける決まった時点で、3キロ前後にしなければならないというのはありました」と話す。「というのも、シーリングライトは5キロが基準となっているからです。ファン方式の部分は大きく変えることができないので、素材の重さなど、既に物理的に固定されている以外の部分をいかに軽くするか。素材を軽くしつつも、強度を保たなければならないのですが、そうするとコストは当然上がってしまいますので、バランスを考えて検討・調整しました」と明かす。

「必要なものだけど意識させない」デザイン

"ノイズレスデザイン"と銘打った外観上で意識されたのは、「生活環境で起こるさまざまなノイズを減らす」、「生活美意識にマッチする空間、目立つよりはなじむもの」だという。形状においては、具体的には四角であっても丸であってもシャープにしすぎないことを目指した。

「Rを持たせつつも空間になじませる。質量感がないデザイン、存在感を消すようなデザインを意識しました。必要なものだけど意識させないイメージです。横から見ると、実は"く"の字の台形になっているのですが、ファンの大きさというのもあるのですが、より薄く感じる効果も狙っています」

  • 正面からの形状はほぼ正方形。空間になじみやすいようにフロントパネルの四隅は丸みを持たせている。表示部も左上にスッキリとまとめ、インジゲーターはオフにもできる

  • 側面は"く"の字型の台形になっている。下側にはファンがあるため、平らにはできないが、極力厚みを抑えた

色と質感に関しては、モノトーン・マット系に統一されている。「モノトーンなので、安っぽく見えないように黒の深みにもこだわりました。洋服で言うと高級な黒のワンピースみたいなイメージですね。それから、パッと見が平べったいと安く見えてしまうので、立体的に見せるように印影を持たせてもいます。上の部分のスリットの段差も本当はなくしたかったのですが、性能上この部分は手を入れることができませんでした」と山口氏。

  • 試作段階のもの。現行機はよりスタイリッシュに洗練され、ノイズが少なくなっているのがわかる

光触媒だけにLEDは欠かせないが、上面からの光の漏れ方にも気が配られた。「ホテルに設置するイメージで、光が漏れるのはよくないという話もありました。しかし、青紫のLEDが除菌しているイメージにもつながるので、まぶしくない程度にもらすのも必要ということになったんです。とはいえ、サイドフロー構造は、隠せば隠すほどに空気の逃げ道を隠すことになってしまって、空気は通してLEDは適度に漏れるというのがなかなか難しい。細かく調整を重ねた結果、現在のように雰囲気のある感じに漏れるようになりました」

  • 空気の放出口からはLEDの光が除ける。空気清浄機が作用しているイメージを視覚化するために、あえて適度に光が漏れるように調整したという

光触媒技術を応用した製品展開、今後も続々

同社では、今後も光触媒技術を応用した家庭用から業務用まで多数の製品を展開をしていくという。例えば年内には、ペンダント・シーリングライトタイプの新製品の発売を予定しており、現在も開発中とのことだ。山口氏は、最後に同社が描いている光触媒技術の世界観と展望について次のように語ってくれた。

  • 電球タイプの「ターンド・ケイB01」。口金E26形のソケットに直接差し込むことができ、40W相当のLED電球であると同時に、と壁掛け式と同様の光触媒の機能を持ち、脱臭・除菌も行える

「フィルターで空気をろ過する通常の空気清浄機では、フィルターに吸着したウイルスや雑菌は内部で生き残ってしまいます。これに対して光触媒の特質は、循環すればするほど分解するので空気がキレイになっていくことです。究極的には換気の必要がない空調機とも言うこともできます。いまや窓を開けてもPM2.5やVOCなどで大気汚染物質が室内に入り込んでしまうというデメリットもあり、悩ましいところです。光触媒であれば、換気の頻度が減少するので冷暖房の熱効率も上がり地球環境も守ることができます。弊社が目指しているのは"いい空気をシェア″すること。商品が先なのか習慣が先なのかはわかりませんが、今後も光触媒を通じて新しい文化や価値を作り出していきたいと考えています」