第70回で、イギリスの防衛産業界の概要をかいつまんで解説した。興味深いのは、その後の第71~72回で取り上げた宇宙絡みの分野で、イギリス企業の存在が目立たない点だろう。イギリスが宇宙関連で何もしていないわけではないが、ヨーロッパの宇宙開発で主導権を握っているのは、どちらかというとフランスなのだ。

フランス防衛産業の特徴

金額ベースで世界の武器輸出国トップ5に名を連ねているのは、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国辺りの面々だが、こうしたなかで、フランスの特徴は米・露と比べると小規模ながら、一とおりの分野をカバーしている点にある。

フランスでは、以下のようにさまざまな分野で自国内にメーカーが存在している。なにしろ、核弾頭も弾道ミサイルも原潜も自国のメーカーだけで賄っているのだから相当なものだ。

  • 電子機器 : タレス、サジェム
  • 航空機 : EADS、ダッソー・アビアシオン
  • 装甲戦闘車両 : ネクスター、パナール、ルノー・トラック・ディフェンス
  • 艦艇 : DCNS、CMN(Constructions Mecaniques de Normandie)、STXフランス
  • エンジン : チュルボメカ、SNECMA
  • ミサイル/ロケット : MBDA、SNPE、アリアンスペース
  • 衛星 : タレス・アレニア・スペース、EADSアストリウム
  • 銃器/火砲 : ネクスター
  • 弾薬 : ネクスター、タレス

ただしこの面々には、EADSグループ・タレス・アリアンスペース・MBDAなど、フランスの影響力が強いものの、実際には多国籍化した企業も含んでいる。

もちろん、自国向けの需要だけでは食っていけないので輸出に力を入れており、その結果がトップ5に名を連ねる武器輸出額として現れている。ただし、高額の案件、大口の案件で一気に稼ぐというよりも、アメリカが手を出さない(出せない)ようなニッチな市場でチョコチョコと小口の案件を積み重ねることが多く、結果的に上位に食い込んできている傾向がある。だから、アジア・アフリカ・ラテンアメリカといった地域の諸国では、昔からフランスが結構強い。

フランスの武器輸出の特徴は、自国のメーカーや製品だけで完結させようとする傾向が強い点にある。インドで次期戦闘機の優先交渉権を獲得したラファールが典型例で、機体のみならず、エンジンも電子機器も兵装も、みんなフランス製である。

こうすることで、輸出に際して他国から横槍を入れられる事態を回避してフリーハンドを得られる反面、数をこなして量産効果を高めたり、実戦・実運用のノウハウを積み重ねたりといった面ではハンデを負う傾向がある。また、装備品の高度化・複雑化により、自国向けの需要プラス輸出向けの需要だけで仕事を維持するのは、さすがに難しくなってきた。

そのため、自国が主導権を握りつつ他の欧州諸国のメーカーと組んで多国籍企業化したり(EADSやタレスなど)、自国内で業界再編を進めて企業体力を強めたり(サフラン・グループやDCNSなど)、といった施策を講じている。企業体力の強化だけでなく、スケール・メリットの追求という狙いも当然ながらある。

このほか、欧米諸国にしては珍しく、国が筆頭株主になっている大手が多い。ただし「フランスの防衛関連企業は国有だが国営ではない」といわれるぐらいで、決して親方三色旗というわけでもない。ときとして、景気回復のための公共支出として軍艦を1隻造る、なんてこともあるが。

フランスは他国との共同開発にも以前から積極的で、多数の事例がある。イギリスとの共同開発案件では、超音速旅客機のコンコルドが著名だが、防衛分野ではジャギュア攻撃機などがあり、最近ではダッソー・アビアシオン社がイギリスのBAEシステムズ社と組んで無人偵察機を共同開発する話が決まっている。ドイツとはアルファジェット練習機などの事例があり、イタリアとはFREMM(Fregate Europeenne Multi-Mission)と名付けられたフリゲートを共同で開発・建造している。

フランスとイギリスが共同開発・建造した「FREMM(Fregate Europeenne Multi-Mission)」 写真:DCNS

今度はフランス抜きでやろうじゃないか!?

ところが、自国のメーカーが関与できる形にしようとして、あるいは自国が必要とする仕様を強く押そうとして、共同開発の話が壊れたり、途中でフランスがあるいは他国が離脱したりといった事案が少なくない。

先に挙げたラファールが典型例で、自国の要求仕様を通そうとして折り合いがつかなくなり、ユーロファイター計画から途中で抜けて単独開発に切り替えた結果である。ユーロファイター計画で想定した機体の規模では、空母搭載機を必要とするフランス軍の運用要求あるいはフランス製のエンジンを使用するには、ちと大きすぎたのである。

DCNS社がスペインのナヴァンティア社と組んでスコルペヌ型潜水艦を売り出して、インド、マレーシア、チリからの受注獲得に成功した。ところが途中から仲違いしてしまい、今は両国でそれぞれ独自に潜水艦を売り出している。

また、FREMMフリゲートはモノになったが、その前にイギリス・イタリアと共同でホライゾン防空フリゲートの計画を推進した際には、フランスの要求とイギリスの要求が折り合わなかった。この時はイギリスが計画から抜けて、独自に45型ミサイル駆逐艦の建造に進んだので、この件でフランスが悪者になったわけではないが。

以前、BAEシステムズの関係者に対するインタビュー取材に同席したことがある。ちょうどA400M計画がスッタモンダしている最中だったので、同席していた筆者が「国際共同開発に際して、(F-35みたいに)どこか特定の国が主導権を持って引っ張るのと、(A400Mみたいに)参加国が対等な発言力を持つ形でやるのと、どちらがいいだろう」と微妙な質問をしてみた。

それに対して共同開発絡みの話がいろいろと出た際に、確かインタビューを担当していた軍事評論家のO氏だったと思うが「国際共同開発を成功させる秘訣は、フランス抜きでやることではないか」とジョークを飛ばして、一同が爆笑したことがあった。(念を押しておくが、これはあくまでジョークである)

自国で完結できるだけの防衛産業を擁しているのは大したものだが、それを維持するために苦労しているのも、またフランスという国の一面である。ときに無節操といわれる輸出を平気で行ったり、自国の要求を通そうとして横車(?)を押すことも辞さなかったりするぐらいでないと、そこまでできないものなのかもしれない。