前回は、宇宙利用の拡散と一般化、軍民のボーダーレス化という話を取り上げた。利用の一般化は往々にして「お手軽化」「低価格化」といった話が関わってくるものだが、宇宙と軍事の関わりにおいても例外ではない。そして、そのことは産業界に影響する理屈である。

小型で安価、その代わり寿命が短い軍事衛星

人工衛星に限らず、軍用のモノというと「高価で高機能、金に糸目をつけずに開発・調達・運用している」というイメージがある。昔はそうだったかもしれないが、モノが高度化・複雑化してくると、必ずしもそうはいっていられない。低価格化も重要なテーマになる。というか、「低価格化を意識することで、ようやくコストの上昇を抑制できる」というほうが正しいかもしれない。

また、中国が行った衛星破壊実験に代表されるように、「宇宙空間に配備している資産は(宇宙条約で禁止している宇宙への武器配備を実現しない限りは)安泰」というわけにもいかなくなってきた。通信衛星の多くは静止衛星だから軌道高度が高く、それだけ状況はマシだが、軌道高度が低い周回衛星は話が違う。

こうした事情から、高価で複雑・高機能な衛星を時間をかけて開発・配備する代わりに、機能を絞り込んで安価で小型・シンプルにまとめた衛星を迅速に打ち上げるという考え方が出てきた。ニーズが発生したら、「年単位ではなく月単位あるいはもっと短いリードタイムで衛星を打ち上げて軌道に載せて、当座の需要を満たすことができればOK」という理屈である。

そうした構想を具現化した一例が、米国防総省が推進しているORS(Operationally Responsive Space)と言える。名称に「Responsive」と付くぐらいだから、狙いは明瞭。例えば、ORS計画で打ち上げる最初の衛星「ORS-1」はグッドリッチ社製で、U-2偵察機が搭載しているものを発展させた偵察機材を搭載する。つまり、必要に応じてパッと打ち上げられるお手軽偵察衛星というわけだ。

「ORS-1」

似たようなところで、米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)が、「SeeMe (Space Enabled Effects for Military Engagements)」という構想を持っている。こちらも、遠隔地にいる第一線の兵士に対して迅速に、戦闘地域の衛星写真を配信できる仕組みを作ることを企図している。1基が50万ドル程度の安価な小型衛星を2ダースほど軌道に載せて、撮影した画像を兵士が持つ携帯デバイスで受信するというもの。

SeeMe計画で想定している衛星の寿命は2、3ヵ月程度で、15年ほど使える一般的な衛星と比べるとケタ違いの短寿命だ。つまり、安い衛星で当座の需要を満たして、用が済んだらデオービット(軌道からの離脱)させて燃やしてしまってもかまわない、ということなのだろう。

そもそも、用済みになった衛星は処分してくれないと、スペースデブリが増えてしまって大変だ。なにしろ最近では。DARPAの「SST (Space Surveillance Telescope)」、あるいは米空軍のスペース・フェンス計画みたいに、地上に設置したセンサーで宇宙空間の物体に関する状況を把握する手段が求められるぐらいである。

傾向が変われば新興勢力や地殻変動が

UAV(Unmanned Aerial Vehicle)の利用拡大に伴い、UAVの開発・製造を手掛ける新興企業がいくつも出てきたという話は本連載の第39回で取り上げた。宇宙関連でも似たような話があり、ことに衛星打ち上げロケット(SLV : Space Launch Vehicle)の分野で、小型ロケットを使って安価かつ迅速な打ち上げをビジネスとして請け負いますという企業が出てきている。

企業がビジネスとして行うものだから、採算がとれなければならない。目的さえ達成できれば金に糸目はつけない、というやり方ではダメである。だから、経済性も信頼性も追求する。それでいて所要の機能は満たしていなければならない。そうしたところで既存の大メーカーの隙間を突く形で、アイデアと技術、それと小回りのきく体質を武器とする新興勢力が出てきたわけだ。

その典型が、2002年創設のスペースX社(Space Exploration Technologies Corp., SpaceX)と言える。小型の衛星を低い軌道高度に投入するという目標に絞り込んで、それに適した2段式のロケット・ファルコン1やファルコン9などを自主開発している。軍あるいは国の宇宙研究機関から契約をとって多額の国費を注ぎ込んでもらい、大型で高度なロケットを開発するという手法とは方向性が違う。

もちろん、ビジネスとして衛星打ち上げを請け負うことが前提である。そしてスペースX社は、NASAから国際宇宙ステーション(ISS : International Space Station)への物資輸送に関する契約を獲得する成果も挙げている。

このほか、洋上プラットフォームからロケットの打ち上げを行うことで高い自由度の実現と経費節減を目論んだ、シー・ローンチ社がある。1999年に最初の打ち上げを実施、衛星打ち上げビジネスを行っていたが、2009年に経営破綻して連邦破産法・第11条を申請、現在は再建途上にある。ちなみにこの会社、アメリカ・ロシア・ウクライナ・ノルウェーの企業による共同事業で、ここでもボーダーレス化している。

冷戦時代なら考えられなかったボーダーレス化という話では、ヨーロッパのアリアンスペース社がロシア製のソユーズ・ロケットを採用、自前のアリアン5と併せて、サイズが異なる複数のSLVを確保している事例もある。