今回は国策として防衛産業あるいは航空宇宙産業の生存・育成を図っていくことを目的とする、政府・自治体からの支援について取り上げてる。

支援といっても、政府から補助金を出すとかいう類の話ではなくて、もっと基盤に関わる話である。そしてそれは、自国の航空宇宙・防衛産業をどのように位置付けて、どのように維持・成長させていくかという国家戦略の話でもある。

オーストラリアやイギリスの取り組み

まずは、オーストラリア国防省の取り組みについて紹介したい。

日本ではあまり話題にならないが、オーストラリアにもそれなりの規模で航空宇宙・防衛産業が存在している。ただし、大手はADI社が2006年にタレス社の傘下に入ってタレス・オーストラリアとなったり、テニックス社が2008年にBAEシステムズ社の傘下に入ったりしているが、それ以外にも中小のサプライヤーがいる。そして、ボーイング、レイセオン、ユーロコプターなど、海外の大手が現地法人を置いている例もある。

オーストラリア政府では、欧米の大手航空宇宙・防衛関連企業との間で取り決めを結んで、欧米大手のサプライチェーンに自国の航空宇宙・防衛関連企業が参入するのを後押ししようとしている。すでに取り決めを結んだ欧米大手には、ボーイング、レイセオン、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、タレス、ユーロコプターといった面々がいる。そして、参入をサポートするためのチームを国防省の部内に設置するという力の入れようだ。

こうした動きに出た背景には、「中小のサプライヤーが自国向けの需要だけで食っていくのは大変」という事情がある。航空宇宙・防衛産業界で製品の高度化・複雑化・高価格化が進むなかで、自国のパイだけで事業を維持していくのは容易ではない。パイが小さければ分け前も小さく、利益を確保したり、設備投資を回収したりするのも難しくなる。それであれば自国ですべて完結させる代わりに、海外大手のサプライチェーンに食い込むことで世界を相手に打って出ようというわけだ。

無論、それには他国のライバル企業との競争に打ち勝たなければならないが、何も手を打たないでジリ貧に陥るよりは良い、という考え方だ。

このほか、イギリス国防省が2012年2月1日にリリースした白書 [National Security Through Technology: Technology, Equipment, and Support for UK Defence and Security( http://www.mod.uk/NR/rdonlyres/4EA96021-0B99-43C0-B65E-CDF3A9EEF2E9/0/cm8278.pdf ) でも、防衛産業基盤維持のための施策として、研究開発予算の確保に加えて「輸出の促進」「中小企業への支援」を挙げている。

日本の自治体レベルでも、民生分野で似たような動きが

実は、防衛関連ではなく民間航空分野だが、日本でも似たような動きが見られる。ただし、国レベルではなく自治体レベルの動きで、興味深い取り組みと言える。

2011年10月26~28日にかけて、東京ビッグサイトで「東京国際航空宇宙産業展」というイベントが開催された。名称に「産業展」と付くところがミソで、何かとスポットライトを浴びることが多い大手メーカーよりも、サプライヤーとして大手メーカーに部品を納入している中小企業が主体となって出展している。そうした企業と並んで目についたのが自治体による出展だった。

その1つが、「NIIGATA SKY PROJECT」を推進している新潟市である。展示会中日の10月27日に開催した「新潟市ビジネスフォーラム」での説明によると、もともと新潟市域では製造品の出荷額が少なくないうえ、鉄工・機械産業、あるいは三条や燕といったエリアにおける金属加工産業が盛んだという。さらに、インフラとして新潟空港や新潟港もある。そうした状況を生かすべく、航空産業への参入や関連企業の誘致を促進しようとしているわけだ。

税制優遇や用地取得・新規雇用・工場建設・研究開発施設などへの助成は他の地域・分野でも行われているが、新潟市の取り組みで特徴的なのは、産・官・学が連携して航空関連産業を支援しようとしていることだろう。その一環として、産業総合研究所と連携して無人機(UAV)用の低騒音・小型ジェットエンジンを開発する取り組みも行っている。無論、そこでは地元企業が部品の製造に参画する図式である。

また、海外の航空ショーに出展して新潟のメーカーをアピールしたり、受注獲得に必要となる認証手続きへの支援を行ったり、フランスのエンジン・メーカーと技術交流を実現するべく調査を実施したり、といった活動も進めている。

さらに、受注・製造を円滑に進められるように、部品の加工・表面処理・検査といった行程をそれぞれの企業がバラバラに受注するのではなく、一貫して実施できるような共同工場を建設する構想もある。これにより一括受注体制を実現でき、競争力の強化につなげようという目論見である。

新潟市による、特殊工程共同工場構想の枠組み(「新潟市ビジネスフォーラムにおけるプレゼンテーション)

このほか、2011年12月22日に「アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区」が「国際戦略総合特区」の指定を受けた。これは、政府の総合特別区域制度を利用するもので、今後、制度の特例措置や税制などの支援措置を通じて航空宇宙産業の国際競争力向上を図る施策を進めていくこととしている。対象となるのは愛知県と同県内の8市町村、岐阜県と同県各務原市となっている。

繰り返しになるが、日本におけるこれらの取り組みはあくまで民間航空界を対象とする取り組みである。しかし、自治体レベルでこういった動きが出てきた点に注目したい。