過去2回にわたり、新興武器輸出国の例としてトルコと韓国、それと武器輸出の強化を目論むインドの話を取り上げてきたが、今回は目立たずに実績を積み重ねてきている武器輸出国の話を取り上げよう。その国とはなんと、イスラエルとスウェーデンである。

どういうわけか、日本におけるイメージは対照的(?)な両国だが、防衛産業という視点から見ると、案外と共通点が多い。国産化に積極的な一方で輸出にも力を入れている、その際に得意分野に的を絞っている、外国企業との連携に積極的といった具合である。

両国が装備の国内開発にこだわる事情

イスラエルとスウェーデンの両国とも、防衛産業基盤の維持や国産化に積極的になる動機が明確に存在している。

イスラエルの場合、第三次中東戦争、あるいは第四次中東戦争に際して、外国からの輸入を差し止められたり、輸入が実現できても用途制限をつけられたり、といった苦い経験がある。これでは自国の防衛が成り立たないということで、国内で防衛産業を育成するとともに国産化を推進した。

その代表例がメルカバ戦車やガリル自動小銃だが、それ以外でも各種の電子機器やミサイル製品を手掛けている。なんといっても、米国以外で弾道ミサイル防衛用のミサイルを独自開発しているのは、イスラエルぐらいのものだ(地対空ミサイルで「弾道弾の迎撃も可能」といっているものは除外した場合)。

一方のスウェーデンは言うまでもなく、厳正中立政策で知られる。中立ということは、どの陣営にも属さない代わりに、有事の際には他国の支援をアテにはできないということでもある。だから、装備の国産化を推進するとともに、国土の要塞化や飛行場の分散化といった施策をとっている。何も具体的な行動をとらずに平和だけを願っているわけではない。

ただしいずれにしても、自国向けの需要だけでは開発・量産にかかる費用を賄いきれず、高くついてしまう。防衛産業といえども利益を出さなければ生き残っていけないのは他の業界と同じ。もちろん、国民の血税を使うわけだから適正利潤という考えは必要だし、不正請求や過剰請求は「もってのほか」だが、そうしないと利益が出ないのであれば、それはそれで問題である。

利益の確保と産業基盤維持という問題を解決するには、輸出によって需要を増やすしかない。もちろん、自国の不利益になるような国には輸出できないし、特にスウェーデンでは輸出相手国の選択に際して厳しい条件があるにしてもだ。

そんなこんなの事情により、イスラエル製あるいはスウェーデン製の武器は意外にも多くの国に出回っている。要約すると、イスラエルはUAV(無人機)や電子機器に強く、スウェーデンは小型の火砲やミサイルの類、電子機器、航空機に強い。スウェーデン製の航空機というとJAS39グリペンを真っ先に思い浮かべるが、サーブ社製の旅客機を改造した哨戒機や早期警戒機、そこに載せるレーダーなどが、意外と多くの国で使われている。

実は、スウェーデンの製品は日本にも入ってきており、海上自衛隊の無人掃海艇「SAM」や、陸上自衛隊の84mm無反動砲「カール・グスタフ」が典型例である。また、海上自衛隊の潜水艦はスウェーデンのコックムス社が開発したスターリング・エンジンを導入している。潜航中でも蓄電池に頼らずに電力を供給する、いわゆるAIP(Air Independent Propulsion, 大気独立型推進装置)だ。

スウェーデンで開発されたスターリング・エンジンAIPを装備する、海自の潜水艦「そうりゅう」(筆者撮影)

また、米軍ですらイスラエルやスウェーデンの製品を採用している例がいくつもある。スウェーデン製ではAT-4対戦車ロケット、イスラエル製ではLITENING目標指示ポッドが典型例だろう。LITENINGの場合、米ノースロップ・グラマン社が協力しており、対外輸出はそちらが窓口になっている。販売力やサポート力のことを考えると、そのほうがやりやすいわけだ。

それどころか、イスラエル製のUAVはロシアでも採用されている。それも、グルジアがイスラエル製のUAVを活用したせいで苦戦させられたロシアが、戦後にイスラエルに対してUAVの購入を打診したというのだから、したたかというか、なんというか。

国産一辺倒では持たなくなった昨今

もっとも最近では、装備品の高度化・高価格化が進んでいることから、そう何でもかんでも国内開発・国内生産とはいってられなくなった。イスラエルの場合、戦闘機はF-15・F-16・F-35と輸入が続いているし、艦艇も小型のミサイル艇・哨戒艇を除いて輸入に頼っている。しかし、電子機器やUAVといった得意分野では国産を譲らない。

弾道弾迎撃ミサイルのアローやアイアン・ドームでは、米国のメーカーから協力を受けているが、これにはちょっとしたカラクリがある。イスラエルが米国から軍事援助を受けているのは周知の事実だが、このFMF(Foreign Military Financing)という仕組み、実は援助資金は米国の企業に支払わなければならない。だから、米国企業を関与させるほうがFMF資金を使いやすいのである。ちなみに、アローはボーイング社、アイアン・ドームはレイセオン社が協力している。

スウェーデンでも、戦車は国産のSタンクから輸入品のレオパルト2に切り替わった。そして、装輪装甲車では自国メーカーのBAEシステムズ・ヘグランド社が開発したSEP(Spitterskyddad Enhets Platform)を退けて、隣国・フィンランドで開発したパトリア社製AMV(Armoured Modular Vehicle)の輸入を決定している。ただし、潜水艦は国産だし、火砲やミサイルも国産が多い。

このように、何かと似たところがある両国の防衛産業、あるいは両国の装備調達事情だが、決定的に異なる点もある。記事のボリュームの関係もあり、その話については次回に。