2011年11月16日、東京・有楽町にある日本外国特派員協会で「次期主力戦闘機に関する共同記者会見」が行われた。言うまでもなく、航空自衛隊のF-4EJファントムIIを代替する次期戦闘機、いわゆるF-Xがテーマである。

すでに報じられているように、ユーロファイター・タイフーン(BAEシステムズ)、F/-18E/Fスーパーホーネット(ボーイング)、F-35ライトニングII(ロッキード・マーティン)の3機種が候補になっており、各社とも防衛省が発出した提案要求書(RfP)を受けて提案書を提出済みだ(機種名・社名はメーカー名のアルファベット順に列挙している)。

結論は12月に出ると見込まれており、それを前にしたタイミングでの記者会見ということで、多くの報道陣が集まった。なお、ロッキード・マーティン社は事情により会見に出席しておらず、BAEシステムズ社からは北東アジア総支配人のアンソニー・エニス氏が、ボーイング社からは防衛・宇宙・安全保障部門で日本向けの事業開発を担当しているジム・アーミントン副社長が、それぞれ出席して会見を行った。

左から、BAEシステムズ社のアンソニー・エニス氏、ボーイング社のジム・アーミントン氏

記者会見を開催する意味とそこでアピールできることの限界

実のところ、会見で両社がアピールした内容については、殊更に取り上げるような新しい話は出てこなかった。過去の記者会見でも話していたことの繰り返しが多かったのだが、そう感じるのは筆者が過去に何回も両社の会見に出席しているからで、初めて取材に訪れたメディアにとっては話が違う。だから、同じ話でも繰り返すことに意味はある。

いずれにせよ、実際に機種選定を行うのは防衛省の担当者だから、記者会見で自社製品の優位性をアピールしたからといって結果に影響するわけではない。しかし、その戦闘機は国民の血税を使って調達するものだから、納税者に対するアピールも必要になる。つまり、「我が社はこういう機体を提案しています。この機体を導入することで、日本の国防にはこういうメリットがあります」といった図式である。

今回のF-Xにおいては、特にBAEシステムズ・ボーイングの両社とも「すでに導入と運用が行われている、実績ある機体である」という点に加え、「産業参画」の面にも重点を置いたアピールをしていた。日本に限ったことではないが、自国の防衛関連企業が仕事をなくしてしまえば、安全保障面の問題だけでなく、雇用や貿易収支にも影響がある。そのことを念頭に置いているだけでなく、そもそもF-X計画において防衛省が、日本の戦闘機製造基盤維持を重視している事情もある。

とはいうものの、自社が提案している機体の優位性をアピールしたいからといって、性能・諸元に関わる情報をすべて公表してしまうわけにもいかない。優れた性能を公表することで抑止効果を発揮させるという考え方もあるが、反面、不必要に手の内をさらしてしまうことにもなるからだ。それゆえ、開発当事国(タイフーンならイギリス・ドイツ・イタリア・スペイン、スーパーホーネットならアメリカ)の政府や軍が、メーカーに対して情報開示を認めるかどうかが問題になる。メーカーがやる気満々でも、当局が「公表するな」といえばNGである。

実際、ボーイング社が過去に配布したスーパーホーネットの冊子を見ると、ページごとに「Authorized for Public Release」という注意書きが入っている。つまり、国防総省が承認した情報を抜き出して報道関係者に配布しているわけだ。もちろん、当事者である防衛省にはもっと詳細な情報をリリースしているだろうが、それは当然ながら、機密保護のための手続きを踏んだうえでのことである。

これは産業参画に関する提案を行う場合も同様だ。日本のメーカーが製造に関わることになれば、何らかの情報の開示を必要とする。だから、どこまで相手国のメーカーを関わらせることができるかについては、開発当事国の政府や軍が制約を課すのが一般的だ。相手国との関係に応じてレベルを違えることもある。

軍事情報と機密の壁

国防上の見地からすれば情報は秘匿しておきたいところだが、前述したように、抑止効果を発揮させるには情報を公開するほうが良いこともあるし、納税者に対する説明責任という問題もある。「国民の血税を有用に使っています」と説明して納得してもらう必要があるからだ。もっとも、それを受け止める国民の側、あるいは間に入って伝える報道陣にも相応のリテラシーが求められる点は難しいところだが。

そんなこんなで「公開したほうがいい」と「公開しないほうがいい」という相反する要求の間で、誰に対してどこまで情報を公開するかが決まる。もっとも、国によっては必要以上に下駄を履かせて調子のいい発表をすることもあるから、筆者は「軍の装備品の公表スペックなんてものは、三味線を弾いているか下駄を履かせているかのどっちかだ」と思っている。

ともあれ、軍事情報に「秘密保持」が付き物であることに間違いはない。スペックの話だけでなく、組織・編成、予算、技術情報、教範、規定類など、あけすけに公開するとマズそうな情報が多いのが、この業界である。

ちょうど、そのことと絡んで厄介な事件が起きたことでもあるので、次回以降、防衛産業と秘密保全の問題を取り上げることにしたい。次回は、もう1つのF-X候補機・F-35と「秘密」の問題に焦点を当てる。