前回は保証協会付き融資について説明いたしました。今回は第11回で紹介した融資以外のデットファイナンスの選択肢について内容を補足いたします。

社債について(銀行引受私募債/銀行保証付私募債の補足説明)

社債は公募債と私募債に分けられます。公募債は金融商品取引法上の届出が必要で、大掛かりな調達となります。私募債は2パターン方法があり、50名未満の投資家(少人数私募)を対象として勧誘するか、もしくは、内閣府令で定める適格機関投資家(プロ私募)に限定して勧誘を行うことになります。ここで取り上げる銀行保証付私募債は、プロ私募に該当することになります。

あらためて出資と社債と融資を比較したとき、「投資家との関係」と「資金調達方法」の2つの観点で分類することができます。投資家との関係は直接金融と間接金融に分類され、野村證券のWebサイトにわかりやすい解説が掲載されているので引用します。

「直接金融とは、『お金を借りたい人』と『お金を貸したい人』の間に、第三者が存在しない取引のことである。企業が株式や債券などを発行して、投資家から資金を直接調達する証券取引などをいう。資金は投資家から企業に移転され、投資先のリスクは資金を出す投資家が負うことになる。一方、銀行から融資を受けて資金調達する取引などを間接金融という」

資金調達方法は、エクイティファイナンスかデットファイナンスかという色分けです。投資家が引き受けるリスクに対する、報酬の渡し方が異なります。エクイティファイナンスは配当もしくは株価上昇で、デットファイナンスは金利で投資家に報います。

上記の二軸を用いて、出資は直接金融でエクイティファイナンス、社債は直接金融でデットファイナンス、融資は間接金融でデットファイナンスと区分けできます。融資を受けていた企業が社債で資金調達したとき、資本市場から直接資金調達ができるようにステップアップしたと見なすことが可能です。

資本市場での調達は一定以上の規模がなければ投資家側に旨味がないため、企業側は高額の負債に耐えられる高い信用力が求められます。信用力を判断するために用いられている尺度が適債要件(適債基準)です。例として(1)純資産額、(2)自己資本比率、(3)純資産倍率、(4)使用総資本事業利益率、(5)インタレスト・カバレッジ・レシオが挙げられます。

東京信用保証協会の資料にて紹介されている、(2)から(5)までの計算方法は下記の通りです。

(2)自己資本比率=純資産の額÷(純資産の額+負債の額)×100
(3)純資産倍率=純資産の額÷資本金
(4)使用総資本事業利益率=(営業利益+受取利息・受取配当金)÷資産の額×100
(5)インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息・受取配当金)÷(支払利息+割引料)

社債を発行する際に企業が負担するコストには、発行時のみに支払うコスト(当初コスト)と社債の償還期限まで払い続けるコスト(期中コスト)があります。取扱金融機関によって用語の差異はありますが、銀行保証付私募債を例にとると、当初コストには銀行へ支払う事務委託手数料と総額引受手数料、証券保管振替機構に支払う新規記録手数料があります。期中コストには銀行へ支払う保証料、支払利金(クーポン)、利金支払手数料、元金支払手数料があります。

経済産業省が作成した「社債の活用」という資料には、「保証付私募債の発行は必ずしも安価な資金調達であるとは言えません」との記載がありますが、筆者はこの意見に異を唱えます。当該資料のPage11に一例として記載されている、5年償還の社債を発行する際の当初費用の料率は合計1.46%、期中コストは合計1.1%です。当初コストは前払費用として資産計上し、期間按分して償却しますから年換算で0.292%の負担です。期中コストと合算して年当たり1.392%の費用負担と言えるでしょう。この水準は2019年11月時点での短期プライムレート1.475%よりも低いので、安価ではないと言うには根拠が弱いと考えます。

社債に関連して、米国で書かれたコーポレートファイナンスの教科書にはコマーシャルペーパー(CP)という用語が登場します。日本の金融実務においてもCPは存在し、2019年9月26日の日本経済新聞電子版の言葉を借りると「CPは社債と似た商品性を持つ。満期までの期間が1年未満ならCP、1年以上は社債となる。社債では、マイナス金利での発行実績はまだないが、CP市場ではマイナス金利が広がっている」とのことです。

社債についての説明は以上です。次回は「まだ間に合う令和元年度の制度融資」と題して、現時点で利用可能な制度融資の代表例を紹介します。

※写真と本文は関係ありません

執筆者プロフィール:千保 理(せんぼ ただし)

株式会社情報基盤開発CFO(最高財務責任者)

ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。財務と広報を兼務し、融資を受けた金融機関向けに経営状況を伝えるデットIR(Investor Relations)と、報道機関を介して社会全体へ情報発信するPR(Public Relations)を担う。Microsoft Innovation Award 2015にて、株式会社情報基盤開発のデータ入力業務支援ソフトウェアAltPaperが優秀賞を受賞した際のプレゼンター。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、弥生株式会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『~事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達~ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。