自動車ライターの原アキラさんにとって3台目となるメルセデス・ベンツ「S124」の「E320 ステーションワゴン」は、もともとは社用車という異色の経歴の持ち主です。先代S124で何度もトラブルを経験したこともあって、今度のクルマでは念入りな納車整備を行いました。

  • メルセデス「E320 ステーションワゴン」

    3台目のS124となった「E320 ステーションワゴン」

さまざまな出来事を乗り越え、やっと自宅マンションの機械式駐車場に収まることが決まったS124の3号機「E320 ステーションワゴン」。まあ、傍から見ると数カ月前と全く同じシルバーのベンツワゴンが停まることになったわけで、その間は何度か同じ顔をしたセダンが停まっていた時期もあるけれど、隣人の方には「やっと修理が終わったのね」と思われているかもしれない(理由を聞かれて「今、修理中なので」とお教えした方もいる)。しかし、その心臓部に、前より1リッターも排気量がアップした3.2リッターエンジンが搭載されているとは、まさか気が付かないだろう。

前回の記事でもお伝えした通り、3号機のE320は最高出力225PS/5,500rpm、最大トルク32.3kg-m/3,750rpmを発生するM104型3.2リッター直列6気筒DOHCエンジンを搭載している。150PS/21.4kg-mの2.2リッター直4DOHCを搭載していた1号機のE220に比べると、パワーで+75PS、トルクで+約11kg-mとはるかに強力になった。

  • メルセデス「E320 ステーションワゴン」

    225PS/32.3kg-mを発生する3号機の3.2リッター直6DOHCエンジン

ボディサイズは全長4,765mm、全幅1,740mm、全高1,490mmで全く変わらない。ただし、車重が1,540キロ→1,690キロ(車検証数値)と150キロも増加してしまっているので、結果的には、目を見張るほど動力性能がアップしているというわけではない。それでも、キーを捻ると「ヒューン」と振動もなくエンジンに火が入る様子や、少し重めのアクセルをグッと踏み込んだ時に感じるみっちりと詰まったトルク感などが、自然吸気の直6大排気量エンジンを搭載したクルマであることを知らせてくれる。

つまるところ、エンジンの軽さをいかした軽快な走りが1号機の持ち味だったとしたら、重い車体をハイパワーでグイグイと押し進め、上質でどっしりした走りを見せてくれるのが3号機ということになるだろうか。ボディーは同じでも性格は大きく異なる。印象としてはそんな感じだ。

  • メルセデス「E320 ステーションワゴン」

    3号機は内外装の状態が良く、滑るように走る

E320が搭載する4速ATのマネジメントは、排気量の小さなE220、E280シリーズとは異なり、上位のE400(4.0リッターV8搭載)と共通の大容量なものを積んでいるとのこと。走行時のエンジン回転数は、時速50キロで1,600rpm、80キロで2,000rpm、100キロで2,600rpm程度となっている。さすがに、昨今の新型車のように低回転から大トルクが出せたり、9速とか10速の多段ATを使用して時速100キロでも千数百回転に抑えられたりするわけではなく、エンジン回転数はちょっと高め。そのまま最大トルクを発生する3,750rpmあたりまで上げてやれば、アウトバーンを巡航するのにピッタリの車速をきっとマークしてくれるはずだ。

整備記録を見ると、都内のヤナセで販売され、社用車としてスタートを切った3号機は、走行距離8万2,100キロの現在まで定期的に整備が続けられていて(つまり、お金がかけられていて)、クルマ自体の程度がとても良い。

  • メルセデス「E320 ステーションワゴン」

    現在の走行距離は82,100キロを過ぎたところ。今後どこまで伸びていくのだろうか

特に、ガス封入式ショックとコイルスプリングを別々に配置したストラット式のフロントと、マルチリンク式のリアという組み合わせの足回りは、前の所有者によって新しいものに交換されていて、手を入れる必要がなかった。リアの車高を調整するためのセルフレベリング式サスで使用しているアキュムレーターも、そのままでしばらくは大丈夫そうだ。

  • メルセデス「E320 ステーションワゴン」

    下回りのコンデションはよかった

しかし、2号車のことがあったので、アイディングでは今回の納車整備に万全を期してくれたようだ。メカに詳しくない筆者にもひと目で分かるように、白濱さんと整備士さんの手で交換部品をずらりと床に並べてくれて(写真参照)、一つ一つ解説してくれたのだ。

  • メルセデス「E320 ステーションワゴン」の交換部品

    白濱さんと整備士さんが並べてくれた3号機の交換部品

まずはエンジンのタペットカバーパッキン、「コ」の字型のフロントカバーガスケット、プラグホールガスケット、オートマのオイルパンガスケットなど、オイル漏れに関係しそうなゴム製パーツを交換。オートマ関係ではストレーナーも交換だ。

  • メルセデス「E320 ステーションワゴン」の交換部品

    エンジンタペットカバーパッキン、「コ」の字型のフロントカバーガスケット、プラグホールガスケット、オートマのオイルパンガスケットなど

振動面ではエンジンマウントとATマウントのほか、124ではよく交換対象になるプロペラシャフトの前後コンパニオンプレートではなく、最近ガタがきている個体が増えてきたという、その中間にあるベアリングマウントキットを新品に交換している。アイドリング時のハンチングの原因として可能性の高いチャコールキャニスター(タンク内で気化した燃料を活性炭で吸着する)とパージバルブ(キャニスターにかかる負圧を調整する)も取り替えた。ACコンプレッサー、ファンベルト、意外と重要な役割を果たしているラジエーターキャップ、バイパスホース、4輪のブレーキパッド、6本のスパークプラグ、ヒューズ一式、1本アームの長いフロントワイパーゴムも交換対象に。排気ガス取り回しのL字部分が腐食していたせいで、大物のマフラーも交換することになった。バッテリーは独HELLA社製に取り替えた。

  • メルセデス「E320 ステーションワゴン」の交換部品
  • メルセデス「E320 ステーションワゴン」の交換部品
  • メルセデス「E320 ステーションワゴン」の交換部品
  • 左はエンジンマウントとATマウント。中央はボックス内のヒューズだが、こちらも全て交換した。右は腐食で穴が開いてしまったマフラー

こうしてやっと“通常業務”を開始することができるようになったS124だけれども、いまだ続くコロナ禍のため、「多摩ナンバー」の3号機(と筆者)は“Go To キャンペーン”の対象外となっていて、おいそれと郊外の観光地などへは出向けない。3号機の最初の遠出はどこになるのだろう。