こんにちは、当コラムを担当させて頂く事になりましたワイ・イー・データの尾形と申します。このような文書を書くのは初めてですので、読みにくい点が多々あるかと思いますが、お付き合いいただければと思います。

データ復旧サービスって?

さて、読者の皆さんは「データ復旧サービス」をご存知でしょうか? 極めて大雑把な言い方ですが、データ復旧サービスとは『いろいろな障害でコンピュータが読めなくなった(当然、人が見ても分からない)データを何とか読み出して、お客様にお返しするサービス』です。ただし、データ復旧サービスは、「媒体修理サービス」や「パソコン修理サービス」にあらずという事も知っておいて頂きたいところです。さらに、ファイル内部の情報については、保証しないというのが「お約束」です。これは、データの内容が正しいかが分かるのはお客様だけですし、いろいろと法的な問題も発生する事が予見されるためです(もし、データ内容まで保証する業者がいたら逆に危ないかもしれません)

データって?

ご存知の通り、コンピュータのデータはデジタルであり、読めるのはコンピュータ(ソフトウェア)のみです。人が見ても意味をなさない文字の羅列が延々と続くだけで、何のことやら分かりません。しかも、本でいう表紙、目次、索引の類もすべてデジタルデータで構成されています(コンピュータが読めればいいデータですから、当然ですが)。本の場合、ページが落丁していても前後のページは読むことができ、目次がいたずら書きで真っ黒でも本文は読めますが、デジタルデータはそうはいきません。ページが落丁していたら、その後のページは読めませんし、目次が真っ黒では本を開くことすらできません。

コンピュータに保存されているデータは、デジタルデータを磁気的、電子的に変換した物を、ある規則を用いて記録媒体上に物理的に記録しています。1つは物理的変換及びデータ変換、もう1つはボリューム構造です。

物理的変換及びデータ変換

データ変換は主にハードディスクで使用されており、記録密度(容量)を上げるために用いられます(RLL、PRML、及びその発展系などさまざま)。

ハードディスクの場合、コンピュータからの書き込みデータは、ハードディスク内部のデータ変換回路(エンコーダ)によりコード変換された後、ヘッドに流す電流に変換されます。この電流により電磁気変換が行われ、プラッター上の磁性材料が磁化されてデータが保存されます。読み出す時は、逆に磁化されているプラッターの磁力をヘッドにより読み出し、波形に変換します。この波形を処理し、デジタル信号へ変換したあと、データ変換回路(デコーダ)を通してデジタルデータへと戻しています。また、実際の場面ではデータ欠け等が発生する可能性があるため、ある容量ごとにECC(ERROR CORRECTION CODE:エラー訂正符号)が付記されています。

HDD内部

シリコンメディアの場合は、デジタルデータを実際のメモリに書き込むための回路が付いており、書き込みが一部の領域に集中しないようにコントロールされている物がほとんどです(ウェアレベリングなどと呼ばれている機能です)。これは、シリコンメディアに使用されているフラッシュメモリに書き換え回数の制限があり、一部でもこれを超えてしまうと寿命となってしまうためです。この機能があるため、単純にメモリを外して読み出してもデータは形をなしません。

ボリューム構造

ボリューム構造(パーティションともいいます)とは、本の表紙・目次にあたります。構造によって違いますが、FAT、ディレクトリ、MFT、i-node等と呼ばれます。例えば、"TEST.DOC"というワードで作成されたファイルがあった場合、目次には「見出し『TEST.DOC』、12345ページから678ページ続きます」というような内容が保存されています。OSのフォーマットというのは、この目次を書き始める前段の作業となり、各々のファイル構造(FAT、NTFS、EXT、NFS、HFS等)によって、目次の書き方が違ってきます。そのため、OSが知らない作法で書かれた目次は、全く読み出す事ができません。

本の表紙に該当する部分については、多くのOSはMBR(マスターブートレコード)という所にボリューム情報を記録しています。ハードディスクの場合、物理的な一冊の本の中に数冊分の表紙を持つことができ、本の表紙裏に大見出しで「データ復旧風雲録、第一巻は1ページから999ページ、読み始める所は必ずここから読んでね」、「データ復旧風雲録 第ニ巻は1000ページから1999ページ」という感じで記録されています。

 データは必ず復旧できる?

前述したように、データ復旧サービスは、読めなくなったデータを何とかして読み出してお客様にお返しするサービスです。ですから、「復旧」ではなくて「回収(サルベージ)」のほうがふさわしいのでは? という人もいます。しかし、「全てのお客様にデータをお返しすることができるのか?」と問われれば、残念ですが全てではありませんという答えになります。弊社の最近の復旧実績は、80%前後で推移しています。なぜなら、復旧できるかどうかは、読み出せなくなった原因、その後の状況によるからです。

単純に消去してしまったデータを読み出すのであれば、市販のソフトでも復旧ができますが、何かの拍子に損傷を受けた媒体の場合、ソフトウェアや簡単な設備では読み出せない事が多々あります(基板、ヘッド、プラッターなどに障害が起きた物、物理障害といいます)。もちろん、削除など(論理構造破損といいます)でも、場合によっては取り出せないケースもあります。ときどき復旧率99%、100%をうたう業者さんもいますが、個人的には「ありえない(簡単なものしか取り扱っていないのか?)」などと思ってしまいます)

よく問い合わせで、開口一番「データ復旧できますか(読めますか)?」と聞かれることがありますが、弊社のコールセンターでは、具体的に内容をうかがった後、お客様の方で対応できる方法があるようでしたらそれをお伝えし、お客様側では作業不能と判断した場合は、現物を見なければ状況判断できない事をお伝えし、ご理解頂いています。落ち着いてというのは難しいかもしれませんが、復旧を依頼される際には、まずどのように困っているのかについて、お話し頂ければと思います。少し古いですが、事件は現場で起きているんです。

データ復旧はどうやってやるの

それでは、実際にデータ復旧を依頼頂いた場合の流れにそって、作業を簡単にご説明します。

まず媒体については、お客様に記載いただいた状況をもとに、初期判別を実施します。そして、論理破損と判定された場合は、すぐにデータのイメージング作業に入ります。また、物理破損と判定されたもの、あるいは内容が不明なものについては物理障害担当のエンジニアが動作確認を実施します。

ハードディスクを例にとると、完全にドライブ内部の故障とわかるものを除き、まず起動して、音、におい、BIOSの画面表示を確認します。問題なく起動した物は、監視しつつイメージ作業を行います。なお、お客様の作業下でこれを繰返し行うと症状が進行し復旧できなくなる事があります。

エンジニアによる音の確認

物理不良と認識された物は、エンジニアがデータを読み出すための処置を施し、強制的に読み出せるだけのデータをイメージングしていきます。ここは、業者さん各社のノウハウの多くを占めているので、これ以上はお話ができません。

そして、読み出せる範囲のデータをイメージ化した後、ファイル構造解析担当のエンジニアに作業が移行します。ここで、回収できるファイルを判別し、ファイル名・フォルダ名の一覧と見積もりを提出し、お客様に復旧作業を行うかの指示を仰ぎます。復旧指示となった場合は、お客様指定の記録媒体にファイルをコピーし、返却となります。

回収可能ファイルの判別

イメージングという言葉が出てきましたが、こちらは弊社の売りのひとつとなっており、媒体内部のデータをデータ復旧専用のアプリケーションデータに変換し、サーバに保管する手法です。通常、他の業者さん場合、コスト的理由で媒体データを他の媒体にコピーして作業する事がほとんどですが、イメージングを用いると、最終的な報告までの時間短縮、確実なデータの回収、物理不良時のデータ回収率アップを図れ、多くのお客様にご支持されています。

イメージング作業

ハードディスクへのコピーの場合、確実な返却が保障できない事(壊れたらおしまい)、作業が平行してできない事(お客様が必要とするデータが読み出せているか並行して確認できない)、一度作業した後、HDDを他の作業に使えば後からの追加作業は不可能などのデメリットがありますが、イメージングはイメージデータですので規程の期間中は簡単・安全に保存が可能というメリットがあります。弊社では今現在、空調管理されたサーバールーム内におよそ100TBの作業空間とLTO(オートローダー)4台がフル稼働している状況となっています。

ワイ・イー・データのサーバ

次回は、実際にどのような障害が起きているのかを私どもに寄せられた中から、いくつかお話したいと思います。
(ワイ・イー・データ オントラック事業部 尾形)

ワイ・イー・データ オントラック事業部

1994年末、データ復旧サービスの世界最大手である米オントラック社と独占的技術導入契約を締結し、ストレージ機器の製造・開発技術・経験・設備を活かしたデータ復旧サービス事業に進出。1995年、国内で最初のデータ復旧専用ラボを埼玉県入間市に開設し、国内及びアジア地区の拠点として、デジタルカメラ用メモリーカードからHDD、大規模サーバ、NAS等データなどの復旧サービスを提供している。業界で唯一の東証上場会社でもある。
参照:ワイ・イー・データ データ復旧サービス