本格的に勉強を始める年齢になって、まず触れる筆記具といえば鉛筆だろう。小中学生のころを思い返すと、筆入れの中の鉛筆の姿は持ち主の性格をよく体現化していたように思う。いつでもきれいに削った鉛筆をビシッと一列に並べている子もいれば、お尻が歯型だらけになっていたり、握る手よりも短くなっていたりする鉛筆を無造作に入れている子もいる。この楽しさはシャープペンシルやボールペンとは違って、使うために“削る”という作業が付随してくる鉛筆ならではのことだ。

19世紀中頃、STAEDTLERの創始者ヨハン・セバスチャン時代の鉛筆

現在の鉛筆は、デザイン性、クオリティともにクリエイターを納得させる定番のアイテム

ところで、黒鉛を棒状にして中心部をくり抜いた木軸の中に入れた、いわゆる鉛筆が初めて作られたのは、1660年ごろと言われている。イギリスのカバーランドから黒鉛を輸入し、ドイツのニュルンベルクで作られていた。そのため、鉛筆の老舗ブランドというとドイツが多いのだが、今回取り上げるSTAEDTLERもそのひとつ。製図専門の筆記具にも精通したブランドなので、クリエイターにとってローマの軍神マルスの横顔をモチーフにしたSTAEDTLERのマークはおなじみかもしれない。愛用していても意外に知られていないSTAEDTLERについてご紹介しよう。

ルモグラフ 製図用高級鉛筆

1930年から製造され続けている伝統の1本。建築家からデザイナーまでプロのユーザーが多い。紙への定着がよく、折れにくい。168円

ステッドラー マルス エルゴソフト

人間工学に基づく形状と新しく開発された塗装法によって、滑りにくく手になじむグリップ感に仕上がっている。210円

人それぞれ愛着をもつアイテムは異なるものだが、筆者にとってのSTAEDTLERといえば、鉛筆に次いで芯ホルダーのイメージが強い。データで作ることが多くなったページ割りやラフを今でも手描きで通す編集者の友人がいて、彼が愛用しているのがSTAEDTLERの芯ホルダーなのだ。彼の想像力に溢れた誌面づくりは憧れるところであり、頭の中にあるアイディアを次々と描き出していく彼の筆記具はまるで魔法の道具のように見える。それが「マルス テクニコ芯ホルダー」。

STAEDTLERのトレードカラーであるやや濃い青色のボディがスマートで、グリップ部分が非常に握りやすい。また、芯を削るための専用の芯研器があって、携帯するにはややかさばるが、筒状の芯研器の穴にホルダーを差し込みくるくると回す作業はちょっと楽しかったりする。とはいえ、一番の魅力はやはり芯のそのもののクオリティの高さだろう。この品質の高さはSTAEDTLERの長い歴史が培ってきたものにほかならない。

マルス テクニコ 芯ホルダー

握りやすく丈夫な製図用2 mm芯専用ホルダー。STAEDTLERを代表するロングセラーのひとつ。1,050円

マルス ルモグラフ ホルダー芯 (2mm 製図用)

紙への定着がよく、抜群の書き心地を誇るルモグラフ鉛筆と同じ黒鉛芯を使用。1本1本に回転や滑りを防ぐための縦溝が入っている。1,050円

マルス ミニテクニコ 芯研器(2mm芯ホルダー専用)

まず手前の小さな穴に芯先を差し込んでペン先からの長さを調整し、次に奥の小さな煙突のような部分にペン先を差し込み回すと、芯先が削れる。友人も打ち合わせ中によくくるくるやっていて、なんだかとても楽しそうに見えた。1,575円

現在使われている鉛筆の原型は1660年ごろにドイツで確立されたといわれているが、1662年にはすでにSTAEDTLERの創始者ヨハン・セバスチャン・ステッドラーの祖先であるフリードリッヒ・ステッドラーは鉛筆作りの職人として知られていたという。当時はまだカンバーランドの黒鉛が豊富にあったため、黒鉛を四角い棒状にして木軸に固着させるという技法で作られていたが、1700年代後半にもなると黒鉛は取り尽くされてしまう。そこで、フランスの技術者によって開発されたのが、黒鉛の粉に粘土を加えて加熱し芯を作る技術。この技術の発見と折から始まる産業革命の波に乗り、1835年にヨハンによって鉛筆製造会社「J・S・ステッドラー」が創立された。

STAEDTLERは産業革命によってもたらされた蒸気機関などの技術によって、工業的に鉛筆を製造することにいち早く着手する。また、色鉛筆など新しいアイテムを次々と開発・製造し、1840年の工業展示会では63種類もの鉛筆を出品したという。さらに、19世紀後半には販路をドイツ国内からオーストラリア、フランス、イギリス、イタリア、ロシア、東洋へと拡大し、世界ブランドへと成長していった。現在もSTAEDTLERは鉛筆をはじめ、製図用具、シャープペンシル、ボールペン、マーカー類など多種多様な筆記具を150数カ国で販売し、世界中の人々に愛用されている。

トリプラス・マルチセット

4種類のペン類が一つのホルダーに収納されたセットで、これさえ持っていれば打ち合わせでも困らない。油性ボールペン(黒)、細書きペン(赤)、マイクロシャープペンシル、蛍光ペンのテキストサーファーの4種類。1,239円

トリプラス・マルチセットのケースは蓋を折り返すと、写真のように立てることができてなかなか便利

数あるSTAEDTLERのアイテムの中で、個人的に愛用しているのは「トリプラス・マルチセット」だ。スマートな三角形状のペンシリーズ「トリプラス」のなかから油性ボールペンやシャープペンシルなど、定番中の定番アイテムばかりを4種類ピックアップして専用ホルダーに入れたのがこのセット。ボディが三角形状のペンはほかにもあるが、トリプラスはボディの素材が柔らかく、握ると指にフィットするような感覚がある。各側面がフラットではなく、緩やかな山形になっていることもあり、長く握っていても疲れないのがいい。とくにこのセットをデスクにひとつおいて置けば、急な打ち合わせでもペンを一本持つ感覚で携帯できて便利だ。長い打ち合わせの相棒としておすすめしたい。

ルモカラーペン

ルモカラーペン 各色294円。1965年から発売が始まったルモカラー。ペン先が0.8から1.0mm程度と、細書きができる水性マーカーで、プラスチックやガラス、金属などにも書けて便利。全4色で、専用ホルダーに入ったセット(1,228円)もある

数百年の歴史を経て、現在も変わらずに生産されているSTAEDTLERの筆記具。その歴史の長さが、STAEDTLERのデザインやクオリティーの高さを証明している。

その他のアイテム


マルスプラスチック

鉛筆のパートナーといえば字消し。軽い力ですっと消せる機能性はもちろん、マルスマークが刻印されているなどさりげないデザイン性の高さも魅力。157円

レイアウト用方眼直定規

アクリル製定規。3mmというほどよい厚さと目盛のデザインや罫線の太さなど、使ってみると機能性の高さが際立つ。今では定規の出番も減ってしまったが、クリエイターならばやはり持っておきたい1本だ。30cm:1,365円、40cm:1,680円、50cm:2,257円